第2話 究極の問い。

 と、まぁこれが、この同居人、明星夜宵あけほしやよいとの出会いだ。

 俺は制服を脱いで、部屋着に着替える。部屋着と言っても中学の頃のジャージだ。

 帰りに寄った本屋で珍しく買った雑誌を持って、リビングへ向かう。

 そこには既に夜宵がいた。相変わらずラフな格好だ。最初のお嬢様みたいな感じはどこに行った? いやまぁ所作はどう見てもお嬢様なんだが。

「ん、かいくんお疲れ様。アイス食べる? 」

「いや、いい。それよりお前は下を着ろ。目のやり場に困るんだ」

 今、夜宵はズボンを履いていなかった。その代わりと言ってはなんだが、大きいサイズのTシャツを着ている。大きいせいで胸元もゆるゆるだ。

「えー……暑いんだもん仕方ないじゃん」

「しっかり冷房ついてるだろ。しかも二十度って、少し肌寒いくらいだが」

 しっかりリモコンには20℃と表示されていた。さすがに24℃まで上げる。

「まぁいいや。俺も座るから少し空けてくれ」

「ん」

 夜宵がソファーに寝そべっていた体を起こして、一人分のスペースを空けてくれる。

 俺はそこに座って雑誌を読み始めた。

 ライトノベルばっかり読んでる俺が、モデル雑誌を買った理由? そんなの決まってる。こいつらの横を歩いても浮かないようにするた――――あ、無理だこれ。俺にはこんなシャレオツな陽キャにはなれん。

「はぁ……」

「どうしたの? 」

 ため息を吐いた俺を、夜宵が小首を傾げて見てくる。

「いーや、ただ雑誌見てみたんだが、到底俺にはこんなキラッキラした奴にはなれないなと思っただけ」

「あー確かに。壊くんこういうタイプじゃないもんね」

「えぐるな」

 こいつ笑ってやがる。はぁ……。あ、そういえばこいつ好きな人がいるとかなんとか放課後言ってたよな。こいつが好きなタイプとか聞いてみるか。

「なぁ、このイケメン好き? 」

 雑誌に写っている金髪イケメンの写真を指さしながら俺は聞いた。

「うーん、かっこいいとは思うけど好きではないかなぁ」

「じゃあ、こっちは? 」

 そう言って今度は、違うページに写っていた黒髪イケメンを指さした。

「わぁ! こっちは結構タイプ! 好き! 」

 夜宵が屈託のない笑顔で笑う。

 その笑顔を見てため息が出た。

「はぁ……俺はこんなんじゃないのになんでお前は俺と同棲してんの? 嫌じゃないの? 」

 普通に疑問だった。

 この家に住み始めたのは二か月前、高校の入学が決まって、いざ新生活だと思っていたら、夜宵が同じ部屋に住むことになっていた。

 ルームシェアする相手が女子だったのは本当に驚きだった。

 まぁそんなこんなで二か月たった今、俺は自分がダメージを負う覚悟で究極の問いを投げかけた。

 すると、夜宵がキュッと唇を嚙んだように見えたが、夜宵の答えに俺の意識は持ってかれた。

「別に嫌じゃないかなぁ。気負わなくていいから楽だし、もちろん気を遣うところは遣うけど、壊くんはしっかり者だし、料理上手いし、優しいし、まぁエッチな本はちゃんと隠した方がいいよ? 」

「んなっ⁉ 本棚いじったな⁉ 気を遣うところはどこに行ったんだよ…………まぁ別にいいけどさ、読んだの? 」

「うん。読んじゃった」

 俺は大きな大きなため息を吐いた。

「はぁーーーー…………なんで彼女じゃないのに同棲してるんだろうなぁ……しかも性癖までバレてるし、ふざけんなっ……あぁ…………」

 いや、性癖はバレてないな。好きなジャンルはバレたけど。俺が持ってる薄い本は百合ものだけだからな。べっ、別にそんなやましい理由で買ったわけじゃないぞ! す、好きな絵師さんが出してたから買っただけで! 他意はない‼ まぁ夜宵の目にあんなおぞましいモノを映さなくて良かったとは思っているが。ありがとう俺。百合好きでいてくれて。

「何? 彼女欲しいの? 」

 そこで夜宵がそんなことを聞いてくる。多分、俺の言った『彼女』という部分に反応したんだろう。

「いや、別に」

 俺は即答した。実際、いるかいらないかと問われれば、いらないだ。俺は静かな方が好きだし、読書中なんかは特に邪魔されたくない。小説書くのにも集中したいから人が多いのは苦手だ。まぁ、そんな俺でも友達でいてくれるこいつらは本当に貴重な存在だ。

「へぇ……そうなんだ…………」

 ん? なんか元気なくなった? なんで? うーんどうしよう……なんか元気が出るような……

「あ! 今日はチーズインハンバーグにしよう‼ 」

「えっ‼ ほんとっ‼ 」

 夜宵の目が一瞬でキラキラ輝いた。うーん魔法の言葉‼

「ああ、それでいい? 」

「うん、それでいい‼ ううん、それがいい‼ 壊くんのハンバーグ美味しいから好きっ‼ 」

 いやぁ、自分が作る料理でこんなに喜んでもらえるのは嬉しいな。なんだろう、自分の作品を読んで面白いって言ってくれる人を見た時みたいな感覚だ。

「それじゃあ腕を振るわなくちゃな」

 俺は時計を見る。針は十八時十五分を指していた。

「あれ? 夜宵、十八時からやるって言ってなかったっけ? 」

「え? あ、ああ~~~~~~‼ も、もう壊くんが私に話しかけるからぁ‼ ち、遅刻しちゃう‼ 」

 いや、話しかけてきたのはそっちだろう。まぁ、そんな小さいことはどうでもいいので、俺は駆け足でリビングを出て行こうとする夜宵を呼び止める。

「ハンバーグはどうする? 」

「部屋に持ってきて‼ 」

「わかった」

 俺が了解を示すと、夜宵は急いで部屋に戻った。

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