配信21:大量の視聴者と投げ銭と三冠達成

 たちまちに増えていく視聴者とコメント。

 前代未聞の急上昇を見せ、ついには最速でランキング入り。更にSNSのトレンド入り。掲示板でも物凄い勢いで配信者スレNo.1を獲得。

 呆気なく三冠を達成してしまった。



「すげぇな、胡桃……」



 見守っていると、田村さん――胡桃はがんばってホラーゲームの配信をしていた。例の『GREEEEEEN』だ。


 しかし、突然現れる緑の怪物に胡桃は絶叫した。



「いやあああああああああああああっっ!!!」



 叫びすぎて近所迷惑というか、通報されるレベルだぞ。しかし、スマホで状況を見守っている限り、視聴者の反応はかなりいい。

 そりゃ、スク水の超絶美少女がこんな叫んで良いリアクションをしているんだからな。トークも段々と上手くなってきている。

 ハキハキと喋りつつ、良い反応だ。



[¥3,000]【がんばれぇ~!】

[¥500]【叫び声がかわいいですね、応援しています】

[¥15,800]【旧スク水最高】

[¥800]【ゲームのクリア難しいですが、がんばって】

[¥2,500]【胡桃ちゃんしか勝たん】

[¥200]【えっちな配信最高です】

[¥48,000]【期待の新人さん!】



 投げ銭もとんでもないことになっている。こんな短期間でこの金額は見たことがないぞ。まだまだお金が入ってくるし、いったいいくらになるんだ……?


 そうして、俺もサポートしながら配信が続いていった……。



 一時間後、俺はジェスチャーで配信を終えてくれと、胡桃に伝えた。

 最後までやり通した胡桃はついに配信を止めた。



「お疲れ様、田村さん」

「…………あぁ、疲れた……」



 緊張と疲労のせいか、田村さんはそのまま脱力していた。本当によくやったよ。

 結果的に凄い記録を残せた。



 配信時間:1時間

 視聴者数:73,300人

 投げ銭:368,400円



 視聴者がかなり殺到し、投げ銭も驚くほど入った。配信が終わっても尚、トレンドを維持しているし、ネットニュースのトップにも入っている。

 もはや、胡桃は時の人となった。



「俺が思った以上にしっかり出来ていたな」

「猪狩くんのおかげだよ。ひとりじゃ無理だった」


 俺はデュアルディスプレイの片方を使い、そちらに俺の打った指示文字を表示させていた。田村さんは配信中、そちらも見ながら俺の指示に従ってくれた。

 これがかなり上手くいった。我ながら完璧な作戦だったな。


「いや、胡桃の魅力があったからさ」

「その魅力を引き出してくれたでしょ。だから感謝しているんだ」


 疲れた顔をしながらも、田村さんはそう言った。俺は気を遣って水の入ったペットボトルを手渡した。


「ほら、水分補給して」

「ありがと」

「……さて、俺はそろそろ帰ろうかな。もうこんな時間だ」

「そうだね、さすがに親に怒られちゃう」


 田村さんの両親も心配するだろうし、俺の親父もうるさいからなぁ。幸い、門限はないけれど。



「じゃ、帰るよ」

「玄関まで見送るね」


 スク水のまま部屋を出ようとする田村さん。疲れてるのかな?


「田村さん、そのカッコで?」

「へ……ひゃっ!!」


 赤面する田村さんは、部屋に戻っていく。

 ちょうど落ちていたジャージを着ていた。……なんでも似合うな、この人。


 玄関まで向かい、俺は家を出た。


「おやすみ、田村さん」

「……う、うん。おやすみ、猪狩くん……」


 なんだかちょっと寂しそうだな。

 俺もどちらかといえば……寂しい。

 祭りの後のあの感じに近い。


 エンディングを迎えた虚脱感というのか、脱力感というか。俺はもっと田村さんと一緒にいたい。けれど、時間は許しちゃくれない。

 残念だが、また明日だ。


「明日、迎えに行く」

「え……ほんと?」

「一緒に学校へ行こう」

「絶対だからね」


 まさかの指切りをして約束をした。こりゃ、もう破れないな。


「あとでメッセージアプリで」

「もちろんだよ。いっぱい話そうね」


 手を振って別れ、俺は最高の気分のまま自分の家を目指した。

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