配信19:田村さんの部屋

 部活を終え、学校を去る俺と田村さん。

 ここ最近、二人でいる時間が多くなった気がする。まるで昔から、こんな感じだったかのように違和感がない。

 自分でもこんなに馴染むとは思わなかった。


「……なんでだろう」

「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

「悩みがあるなら相談に乗るよ」

「そういうのじゃない。ただ……」

「ただ……?」


 ――ああ、そうか。

 この笑みを向けらて俺は気づいた。

 可愛くて愛嬌のある田村さんと一緒にいるのが楽しいんだ、俺。だから――。


「配信、がんばろうな」

「う、うん。男の子を家に招くの初めてだから……緊張してる」

「俺もだよ。女の子の家に行くとか人生初だよ」


 そもそも、こうして女子と毎日会話して下校すること自体がありえなかったわけだが。 そう言われると俺もドキドキしてきた。


 帰路を進み、田村さんの家が見えてきた。


 あの豪邸こそが彼女の家。

 この辺りでは一番の邸宅ではないだろうか。


「猛犬注意ね」

「マジかよ……」

「うん、気をつけてね」


 どうやら、家を守る番犬がいるらしい。

 俺、動物はあまり得意ではないのだがな。むしろ、苦手な部類。参ったなぁ。


 庭を進むと、犬らしき影が現れ猛スピードでこちらに迫ってきた。……うわッ!!



「グルゥゥゥゥゥ……!!」



 こ、怖っ!!

 すげぇ機嫌が悪そう……って!!


「猛犬どころかチワワじゃねぇか!」

「あはは、ごめんごめん。冗談だって」

「冗談かよ!」


 ほっ、安心した。食べられるんじゃないかと焦ったぞ。


 無駄に広い庭を歩き、家の中へ。これまた広い玄関。なんだこの圧倒的な解放感! おしゃれで綺麗だな。

 スリッパに履き替えた。


「こっちね~」

「お邪魔します」


 二階へ向かうらしく、階段を上がっていく。

 観葉植物だとか人形だとか、あっちこっちに飾られているな。さっきのチワワも追ってくるし。トコトコと可愛いな。


 部屋に到着したようで、俺はかつてない緊張に見舞われた。……今になって顔が熱くなってきた。この先は田村さんのプライベートゾーンということだ。

 ここから先は、俺の知らない世界が……あるんだろうな。


「さあ、入って」

「お、おう……」

「片付いていないけど、どうぞ」


 俺はゆっくりと田村さんの部屋に踏み入れていく。

 ……女の子特有の良い匂いがする。俺の足元にチワワもついてくる。お前も誘われてきたのか。


 こ、これが田村さんの部屋……!



「って、なんだこりゃあああああ!? コスプレ用の服が散乱しているし、配信用の機材も山積み……。ゲーミングPCにゲーミングチェア……なるほど、そういう系で揃えてあるのね」


 思ったより現実的な部屋だった。

 なんというか“女子ゲーマー”な部屋だった。



「汚くてごめーん……。あ、でも下着はちゃんと隠してるから安心して!」

「そ、それは助かる。というか、思ったより汚いな」

「うぅ、いろいろ買ったら整理が面倒臭くなっちゃって」


 綺麗好きの俺としては、これはちょっといただけない。徹底的に整理してやりたいっ。というか、このままでは配信もなにもあったものではない。


「これでよく胡桃としてやっていたな」

「配信スペースだけは確保していたからね!」

「なるほど。……お、これはメイド服か。それにバニーも」


 生の服を目の前にすると……なんだか変な気分になるな。無駄に生々しいぞ。


「ちょっと恥ずかしいね……」

「というか、スク水とか巫女さん、ナースや婦警さんとか本当、なんでもそろってるな」「コスプレは大好きなので!」


 えっへんと胸を張る田村さん。

 コスプレイヤーの方が合っているのかもな。


 とにかく、これでは配信どころではない。


 まずは片付けだ。


「整理しても?」

「悪いね。一緒にやろっか」

「おう、分かった。じゃあ、まずはこの辺りを……」


 床に散らばっている布を引っ張り上げる。

 すると、それはやたら触り心地がよくて……手触りが良かった。


「……!!」


 田村さんが俺のつまんでいるモノを凝視して、驚く。


「あれ……田村さん。これ……」

「あ……あああああああああああああ!! 猪狩くん、それ……わたしのパンツ!!」


 え……。

 ちょおおおおおおおおおおおおおおお!!!



「これ田村さんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

「いやあああああああああああああああああああああ!!!」



 なんで落ちているんだよおおおおおおお!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る