配信16:不正を暴露しろ!

 学校に到着早々、昇降口には担任の倉坂が立っていた。


 ……あ、そうだった。


 すっかり忘れていたが、昨日は田村さんのことで、しつこく聞かれたんだよな。



「猪狩、それと田村。お前たち二人には話がある。職員室へ来なさい!!」



 血管をブチブチさせているところを見ると、相当お怒りだな、ありゃ。

 なんとかしないと。


 職員室へ入出し、倉坂の席まで向かい――いよいよ説教タイムが始まるかと身構えた俺と田村さん。


 しかし、倉坂はなぜか怒りを鎮めていた。な、なんだ?



「どうしたんです、先生」

「……猪狩、お前にひとつ聞きたい」

「はい?」

「お前、配信部に入部したそうだな」

「なッ! なぜそれを――」

「驚いただろうが、それよりもお前に頼みたいことがある」

「頼みたいこと……?」


 倉坂は周囲をキョロキョロと伺いながらも、俺に近寄るように指示してきた。俺は正直、顔を近づけたくはなかったが、素直に応じた。


「……実はな、この学校の校長に秘密があるんだ」

「こ、校長先生に?」

「お前、あの配信界隈で有名な“ゴリラ”なんだろ? なら、校長の不正を知らしてめて欲しい」

「な、なぜそれを!!」


 叫びそうになる俺の口を倉坂は塞いだ。

 な、な、なんで知っているんだよ……!


「静かにしろ。バレたら退学させられるぞ」

「……分かりました。でも、なぜ俺がゴリラだと」

「配信部に行くところを目撃したのでな、尾行したのさ」


 なるほど、教室の扉越しに俺たちの会話を盗み聞きしていたのかよっ。まさか盗聴されているとは思いもしなかった。扉を警戒するべきだったな……。


「それで、校長の不正って……?」

「このUSBメモリーに証拠が入っている。お前自身の目で確かめろ」


 手渡されるUSBメモリー。

 これに校長のなにがあるというのだろうか。


「暴露しろってことですね」

「そういうことだ。あとはお前に任せる。その代わり、こちらはお前がゴリラであるということは秘密にするし、田村が胡桃であることもバラさない」


 そういうことか。

 俺たちの情報を漏らさない代わりに、校長の悪事を拡散しろってことね。いいだろう、俺は暴露系のインフルエンサーなのだ。

 むしろ燃えてくるぜ。


「精査しなければならないので、一日は貰いますよ」

「構わん。……さて、話は以上だ。二人とも教室へ向かえ。そろそろ朝礼を始める」


 俺と田村さんはうなずいて無言で職員室を出た。


 倉坂の野郎、まさか俺を利用してくるとは。……しかし、仕事をすれば情報は外部に漏らさないと言っていたし、信じるしかない。


「ねえ、猪狩くん。そのUSBメモリーに何が入っているんだろうね?」

「校長の秘密だとか言っていたが……なんだろうな」


 中身を見てみるまでは分からない。倉坂はいったい、校長なにを見つけたのだろうか。 詳しくは放課後になりそうだな。

 それまでは真面目に授業を受けるしかない。


 それから俺たちは教室へ。



 午前中から淡々と授業を続け――昼休み。



「お昼にしよっか」



 隣の席の田村さんが話しかけてきた。

 更に隣の牧野さんもやってきた。



「私もいいかな~! 配信部のことで話があるし!」

「構わないよ。こっちも話があるし」

「うんうん、配信部のことだよね。楽しみっ」

「それもあるけど、別件がね」

「え?」


 倉坂の案件を共有しておかないとな。一応、部活メンバーになったからには、部長である牧野さんにも話しておくべきだ。


 教室を出て配信部へ。


 俺は直ぐに牧野さんに話した。



「――というわけでね、倉坂の依頼をしなきゃならん」

「へえ、大変なんだ」

「パソコンを借りたい。いいかな」

「いいよ。猪狩くんはもうウチのメンバーだからね! それに、私も校長の秘密を知りたいし」


 なんだか楽しそうに牧野さんは画面を見つめた。田村さんもソワソワしていた。

 俺はさっそくUSBメモリーをパソコンにぶっ刺し、中身を見てみることに。


 すると丁度、椎名さんもやって来た。


「失礼しまーす、部長~」

「おっす、椎名さん。今、猪狩くんがパソコン使ってるからねー」

「そうなんです?」


 これで全員集合。

 俺はファイルを開いていく……すると。


 こ、これは……なんだこりゃ!!



「「「え!?」」」



 田村さんも、牧野さんも、そして椎名さんも唖然となった。俺も言葉にならなかった。なんだこれは……!!

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