配信15:ホラーゲーム

 田村さんとプチデートのようなものをしながらも、俺は通販サイトで配信環境に必要なものを注文した。


「――これでヨシと」

「ちょっと、猪狩くん。デート中になにしてるのよ~」

「え……すまん。って、これデートだったの!?」

「な、なんてね。でも、さっきから何してるの?」


 俺は田村さんや配信部の為に必要なモノを買ったのだと説明した。


「ほら、マイクとかカメラ、いろいろ必要じゃん」

「猪狩くんが買ってくれるの?」

「部費はないらしいからな。俺のポケットマネーで出すしかないだろ」

「え~、悪いよ。わたしも出すよ」

「いや、いいんだ。どのみち使い道が思い浮かばなかったから」

「欲しいモノとかないの?」

「ない。強いていえば青春かな」


 なんて言ってみると時が止まった。

 田村さん、まさかドン引きしてる……?

 やべぇ、俺としたことが!!

 焦っていると田村さんは噴き出していた。


「ぷっ、あははは……! 猪狩くん、面白すぎでしょ!」

「くっ、うぅ……。仕方ないだろ、こんな風に女子と二人きりでどこかへ行くなんて経験すら初めてだったからな」


「そうなんだ。わたしも初めてだけどね」


 田村さんも初めて……?

 それはつまり、今まで誰かとデートしたことがないってことだよな。なに、その朗報!


「本当かい。田村さんなら誰かに誘われたりするだろ」

「残念ながら一度もないんだよね~」


 本人が一番不思議そうにしていた。

 そういうものかね。


 フラペチーノを飲み干し、そのまま帰宅へ。

 途中で田村さんと別れ、俺は自宅を目指した。



 家へ戻ると同時にスマホが鳴った。なんだろうと画面を見てみると田村さんからだった。



 田村さん:今日はありがとね! すっごく楽しかった



 そう言ってくれるのは嬉しいな。

 ウキウキ気分で自室へ。

 それから俺は、さっそく今日の“業務”をこなしていく。


 やはり、胡桃関連か。


 それと闇バイトに関する怪しい情報も入っていた。ある大手配信者が闇バイトの元締めではないかという黒い噂があるという。それを俺に相談したいとか。


 それは気になるな。

 相談を受けつつ、俺は田村さんや配信部の今後のプランを練っていく。



 今出来ることもたくさんある。

 田村さんにウェブ会議リモートで指示を出し、SNSアカウントの立て直し、配信サイトのアカウント再取得、指定したゲームの操作方法や世界観を理解しておくこと。などなど、徐々に行動を始めていった。



 そうして気づけば朝を迎えていた。

 ……やべ、ほとんど寝ずに作業をしていた。登校しなきゃ。


 明らかな睡眠不足だが、学生服に着替えた。いつものことと言えばいつものこと。栄養ドリンクで鈍った頭を回復させていく。


 部屋を飛び出して玄関へ向かうと、親父が行くてを阻む。


「なんだよ、親父」

「鐘、お前は毎晩毎晩、夜遅くまでナニをしているんだ!!」

「ナニって、別になんでもいいだろ。ちゃんと登校はしているんだから」

「ダメだ!!」

「なんでだよ!! どこにクレーム要素があるんだ。三文字以内で述べろ」

「ぜんぶ」


 ……一応、三文字以内だな。ちくしょう。


「全部ってなんだよ。俺は遅刻も不登校もしていないぞ」

「夜遅くまで遊んでいることだ。そんな寝不足でいい成績が残せると思うか?」

「ほい、最近のテストの結果」


 俺はこんなこともあろうかと、テスト用紙をいつも隠し持っていた。

 そこには『92点』と書かれた用紙が。

 さすがの親父も固まっていた。


「…………ぐぬぬ」

「成績はなにひとつ落ちちゃいない。これでも文句が?」

「こんなものおおおおおおおおお!!」



 ビリィィィィとテスト用紙を引き裂く親父。



「な、なんてことしやがるううううううう!!」



 ――なんて、あのテストの答案は一年の時・・・・のヤツなんだけどな!



「もういい、鐘。お前はエリートコースに乗り、官僚になってこい!!」

「意味わからんわ!」



 涙しながらも送り出してくれる親父。情緒不安定なんだな。



 ようやく家から飛び出すことに成功した俺は、学校を目指す。学校なんて正直クソだ。毎日なんて通いたくない。

 けど、親父は口酸っぱく言う。

 学生の時が一番幸せだぞ、と。


 そうかな、そうなのかもな――。


 少なくとも今は、田村さんの存在が大きい。

 彼女を応援したい気持ちが先行する。


 なんて思っていると、背後から背中を叩かれて俺はドキリとした。


 振り向いて更に心臓が飛び出そうになった。



「おはよう、猪狩くん」



 そこには田村さんがいたからだ。

 ……可愛い。

 じゃなくて、なんでここにいるんだ!?


「び、びっくりしたあ……!」

「あは、ごめんね。驚かせちゃったよね」

「いや、いいんだ。田村さん、こっちだっけ」

「ううん、猪狩くんに会えるかなって思って、あえてこっちに来てみた」


 そんな風に言われ、俺はなんか泣きそうになった。俺に会うためにわざわざ迂回してくれたんだ。なにその健気さ。嬉しい。



「そ、そっか。じゃあ、一緒に学校へ行こう」

「良かった。いろいろ話したいこともあったし。ほら、昨晩の」

「あ~、ゲームどうだった?」

「あのススメてくれたホラーゲーム怖すぎだよ! なにあの緑の怪人! おかげで眠れなくなったよ……」


 俺が田村さんにススメたゲームか。

 主人公はコンビニ店員なのだが、そのコンビニで次々に奇怪な現象が起こる。やがて、緑の怪人に襲われるという恐ろしい事態に。

 謎を解き明かし、解決するというすごく流行っているホラーゲームだ。人気を集めるなら、あのゲームしかないほどだ。


「叫んだりした? そういうところがウケるから」

「叫んだよ! おかげで親に怒られたよ……」

「え、部屋は防音じゃないの?」

「防音だけど、聞こえちゃったみたい。危うく警察沙汰」


 おいおい。どんだけ叫んだんだ、田村さん。

 意外と怖がりなのかな。


 よし、配信部にもゲームをしてもらおう。まずはゲームに慣れるところからだ。

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