配信14:配信部をパワーアップさせる決意

 無駄にハイスペックなパソコンだけ。

 これだけで、どうしろというのだね……?


「む~~~~~~」

「どうたの、猪狩くん」

「どうしたもこしたもあるかっ! 田村さんを復活させなきゃいけないし、この配信部も何とかしなきゃならなくなった。これは骨が折れるどころか複雑骨折だ」


「建て直すの大変だねぇ」

「他人事みたいに言うな?!」


 田村さんは、たまに天然なところがあるな。いや、そんなことはどうでもいいな。それよりも、これからどうするべきか!


「その~、とりあえず、猪狩くんにVTuber作って欲しいなって」


 牧野さんからトンデモ発言が出てきて、俺は鼻水が出そうになった。


「アホか! そんな技術ないし、依頼するにしても何十万と費用が掛かる。てか、その前に配信環境と整える方が先だ!」

「うん、だから可愛いキャラが欲しいなって」

「ふ・ざ・け・ん・な」


 気持ちが先行しすぎだ。

 配信はそう簡単なものではない。

 いくらなんでも舐めすぎである。


「あの、一応Live2Dならありますよ!」


 椎名さんが元気よく手を挙げた。


「なに!? あったのかよ。それを早く言ってくれ」


 見せてもらうと、精神を病んでいる人みたいな絵があった。なんだこれ、半魚人?


「どお!?」

「これはひどい」

「んなー!! がんばって描いたのに」


 申し訳ないけど絵心なさすぎだろ……。

 まだ俺の方が上手いと思う。


 このままでは不思議研究部になってしまう。いかんぞ……。



「仕方ないな。俺が配信部をパワーアップしておいてやる!!」



 もうこうなったら、やぶれかぶれだ!

 どうにでもな~れ!!



「えっ、いいの!?」



 牧野さんが瞳を星のようにキラキラ輝かせた。なんだか、乗せられたような気もするが、こうズタボロな惨状を見せられるとインフルエンサーとしての血が騒ぐんだよな。


「どのみち、胡桃の秘密も知られちゃっているしな。それに、田村さんの修行にもなるし、一石二鳥だ」

「じゃあ、決まりだね!!」


 この日はまともに配信が出来ないと判断し、解散となった。

 俺と田村さんは部室を後にした。


 廊下を出て昇降口へ。そのまま校門まで向かうと、田村さんが俺の服を引っ張った。


「……ねえ」

「な、なんだい、田村さん」

「なんでバラしたのおおおおおおおお!!」


 わんわん泣く田村さん。


「今更かいっ!」

「もおお、これ以上は恥を晒したくないよぅ……」

「引っ張るな、引っ張るな! 悪かったって」

「じゃあ、フラペチーノ奢ってよおおおお!!」

「分かったって。――って、フラペチーノ?」

「駅前のカフェで売ってる飲み物だよ~」

「それは知ってるけどね。あれ一杯で六百円以上するんだぞ」


 学生のこづかいでは大ダメージだ。

 とはいえ、俺は配信で稼いではいるんだけどな。ただ、母親名義だから財布は握られてしまっていた。それでもそれなりの所持金は持ち合わせていた。


「だめ~?」

「べ、別にいいけど……」


 田村さんと実質デートみたいなことができるのなら、それはそれでアリだ。金なんて惜しくない。思い出の方が俺が欲しいねっ。



 そんなわけで、俺は田村さんを連れてカフェへ。



 到着早々、俺は後悔した。

 こんなカフェに入ったことは一度もなかったからだ。


 ……しまった!



「どうしたの、猪狩くん」

「あー…すまん。このカフェは初めてなんだ」

「なんだ、そうだったんだ。大丈夫、わたしがついてるからさ!」

「任せる」

「うん、任せて」

「悪いな」


 入店して、メニューを見るとドリンクのサイズにショート、トール 、グランデ、ベンティとあった。なにこれ、なにかの呪文?

 だめだ、ここは田村さんに任せよう。


 その間、俺は個人チャンネルの様子を伺った。

 胡桃を拡散してから、自分のチャンネルの登録者数も爆伸びしていた。このままなら、登録者数二百万人を突破するかもしれない。


 いやしかし……。



【胡桃ちゃんまだ~?】

【おい、クソゴリラ、はやく胡桃ちゃん出せや!】

【またおっぱい見たい】

【胡桃ちゃんが気になり過ぎて寝れません】

【アカウントBANのあとどうなったんですか?】

【はよ配信しろ】



 リプやDMに胡桃関連のコメントが多いなぁ。これは早急に復活させないとな。



「お待たせ。はいどうぞ」

「これがフラペチーノか。美味そうだな」

「味はメロンだからね!」


 俺はさっそくストローに口をつけた。……うめぇ。

 なんだこの甘くてサッパリしたメロンの味。最高じゃん。

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