配信13:廃部寸前

 配信部は牧野さんが部長で、椎名さんが部員らしい。

 たった二人の部活というわけだ。

 そこへ俺と田村さんが加入すれば“廃部”は免れるのだとか。


 ――って、廃部寸前かよ!


「牧野さん、もしかして数合わせの為に?」

「いや~、それもあるんだけど、胡桃の影響力を使いたいなって」


 なるほどね。

 とにかく、俺は牧野さんに話を聞いてみることにした。


「配信部はどんな配信を?」

「ライブ配信だね。ゲーム実況を主にやってる」


 へえ、そりゃタイミングが良いな。

 田村さんにもゲーム実況をやらせようと思っていたし、都合が良いな。


「チャンネル登録者数は?」

「なんと……!」

「なんと?」

「36人よ!」


 威張って言うことか!?

 たったの36人かよォ!!


 配信部っていうくらいだから、ファンがついているかと思ったら……これは酷い。


「ということは収益化もまだか」

「う、うん……。人数も足りないし、配信環境も良いとは言えない。収益化もできないから部費も稼げなくて……」


「いや、普通は生徒会から予算とか出るだろ」

「それはパソコンに使っちゃったから」


 机に置かれている上等なパソコンか。どうやら、ゲーミングPCらしいが……。まて、ハイスペックすぎるだろ、これ。

 そんなところに無駄に投資してしまったわけか。

 せめて、ミドルスペックにしておけよっ!


 とんでもない状況に俺は頭を抱える。

 田村さんが不安そうに言葉を漏らした。


「ねえ、猪狩くん。大丈夫……かな」

「これは改善すべき点が多いぞ」


 いったんチャンネルを見せてもらうことに。……ふむふむ、チャンネル名は『チンアナゴ』。……意味不明。

 配信はホラーゲームだが、プレイ映像が永延と続くだけで、声もボソボソしているだけで何言ってるか分かんねぇ!!


 これはひどい。


 マイク環境も最悪か。

 って、これ100均のマイクじゃねえか!!


「なあ、牧野さん。パソコンだけハイスペにしてもダメだろ」

「あは……あはは。欲張り過ぎちゃった」


 てへぺろと笑う牧野さん。

 うぉい!!


「配信は、牧野さんと椎名さんで?」

「そ。交代でやってるよ。でもね、たま~にコメントがつくんだよ。凄くない!?」

「そこで満足しちゃダメだって……。てか、この状態では伸びる要素がない」

「むぅ……だよね。猪狩くん、詳しいの?」

「それなりにね。もともと、田村さんを有名人にしようと思っていたし」


 ――って、そうだ。

 椎名さんにも説明しなきゃならんな。


 俺は、田村さんに許可を取ったうえで椎名さんにも『胡桃』のことを伝えた。



「え!? そうなのです!?」



 ビックリする椎名さんは、驚きのあまり机を叩いていた。



「……また、わたしの秘密を知る人が増えてしまった……」



 一方の田村さんは顔を青くする。

 しかし、これは仕方ないのだ。

 この配信部に関わる以上は。



「というわけなんだ、協力し合っていこう」



「「「お、お~!」」」



 大丈夫か、この部活!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る