配信12:配信部スタート?

 そうして時間は流れ――放課後。

 ついに約束の時がきた。


「さあ、行こうか。猪狩くん」


 牧野さんの方から声を掛けてきた。ちょっと驚きつつも、俺は席を立つ。


「分かった。じゃあ、まずは保健室へ向かう」

「あ~、田村さんを迎えに行くんだね」

「そうそう」


 かなり待たせてしまっているし、メッセージアプリにもスタンプが大量に送られて来ているからな。そろそろ迎えに行かないと刺されかねん。



 廊下を歩いて保健室へ。



 到着して扉を開けると、そこには半裸の田村さんが――って、うわッ!?



「え……!?」



 慌てた表情で俺の顔を見つめる田村さん。ていうか、なんで半裸なんだよ!



「ちょ、田村さん!」

「いやあああああああああああああああああ!!!」



 叫ばれたので、俺は保健室の扉を閉めた。

 どうなってんだよ!



「すまん、牧野さん」

「いや~、私もまさか田村さんが半裸だとは思わなかったよ」


 しばらく待つと、保健室の中から田村さんが出てきた。涙目で。


「猪狩くん……」

「あー…その、悪かったよ」

「もー! ちゃんとノックしてよね!」

「すまん。でもなんで服を脱いでいたんだ?」

「汗掻いちゃったからタオルで拭いていたの」


 そういうことか。タイミングが良いやら悪いやら。おかげで一瞬ながら、良いものが見れたけどなっ! 本当に一瞬だったけど!


「そ、その……ほとんど見えなかったから」

「ほんとかな~? まあいいや、それより行くんでしょ、配信部へ」

「あ、ああ。そうだ、紹介するまでもないだろうけど、牧野さんだ」


 俺の隣にいる女子を紹介する。

 さすがに二人とも顔見知りのようで、特に違和感なく挨拶を交わしていた。


「よろしくね、牧野さん」

「こちらこそ、胡桃さん」


 ――とまあ、牧野さんが『胡桃』と言ってしまった瞬間、田村さんは凍り付いた。ですよねぇ……。


「…………ちょ」

「なんで? って顔してるね。もちろん、知ってるから」

「ぐっ、お願いだから内密に」

「配信部に入ってくれるのならね」


 悪戯っ子のように牧野さんは笑う。こりゃ、牧野さんの方が一枚上手だぞ。田村さん、視線で俺に助けを求めてくるが――俺も無理なんだ。



 妙な空気感の中、三階にあるという『配信部』へ向かった。



 ここか。三年の教室の隅っこに部室はあった。ちゃんと『配信部』という看板も掲げられている。正式な部活なんだな。

 扉を開けると。


「ちーっす、部長。あれ、お客さんですか~?」


 部室の中には、ひとりだけパソコンに向かう女子生徒がいた。どうやら、部員らしいが……。


「そんなとこ。紹介するね、こっちの男子は猪狩くん。女子の方は田村さん」

「猪狩先輩に田村先輩ですね。あたしは『椎名しいな 早織さおり』です。よろしくです!」


 元気よく挨拶してくれる椎名さん。

 そうか、後輩だったのか!

 目を引く金髪でギャルっぽさがある。明るくて、声も可愛いな。


「よろしく、椎名さん」

「よろしくね~」


 俺と田村さんは、椎名さんと挨拶を交わす。それから、椅子に座るよう促されたので着席。どうやら、メンバーは俺を含めた四人らしい。


「では、さっそく配信部をはじめるわ!」


 牧野さんが宣言すると、椎名さんが拍手した。


「お~、ついに部活メンバーが揃いましたね、部長!」


 なんかもうメンバーにされてるー!?

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