配信9:配信計画
「…………」
青ざめる田村さん。今にも泡を吹いてぶっ倒れそうなほど震えている。
こりゃダメだ!
こうなったら、俺が助けてやるしかない!
「せ、先生! 田村さんは今日、天然痘と結核、マラリアに
「な、なんだと!? 猪狩、ちょ、待て!!」
先生に突っ込まれる前に、俺は田村さんの腕を引っ張って教室を飛び出た。
完全に勢いだった。
きっと後でコッテリ叱られるだろうが、俺が犠牲になるだけで済むなら安い。今は、とにかく田村さんを守ってやらねば。
全速力で一階にある保健室へ。
しかし、田村さんは途中で足を止めた。
「い、猪狩くん……!」
「あ……ああ、すまん。無理矢理連れてきちゃって」
「ううん。いいの、助けてくれたんだよね」
「そ、そうだ。このままだと倉坂に追及されて大変なことになっていたと思う」
大問題に発展して、生徒指導室で散々な目に遭わされ――下手すりゃ退学なんてことになりかねん。そんな未来が少し見えたからこそ、俺は体が本能的に動いていた。
「ありがとう、助かった」
頬を赤らめ、嬉しそうに微笑む田村さん。その可愛らしい表情に俺は思わずドキッとした。
「いや、いいんだ。それより、保健室へ向かおう」
「うん、そうだね。――って、そうだ! マラリアとかなによ!」
「そ、それは気にするな!」
「あー、誤魔化した!」
ぷんすか怒る田村さん。
正直、迫力がなくて逆に可愛い。
保健室に到着し、扉を開けると当然ながら中には保健室の先生がいた。そういえば、俺ははじめて保健室を利用する。
椅子に腰かける金髪の女性。大人びて良い匂いがここまで漂っていた。なにかの香水かな。
「失礼します、先生」
「……おや、君たちは?」
「俺は二年の猪狩です。こっちの田村さんが体調不良で連れてきました」
「そうか。空いているベッドを使ってくれ」
「ありがとうございます」
「うむ」
ベッドへ向かい、田村さんを寝かせた。そして俺は小声で耳打ちした。
「田村さん、しばらくは保健室でゆっくりしていてくれ」
「えっ、でも……猪狩くんは?」
「俺は教室へ戻るよ。また迎えに来る」
「分かった。今日はゆっくりするね」
「そうしてくれ。俺はなにか良い方法がないか考えるよ」
手を振って別れ、俺は保健室を出ようとした――が。
保健室の先生に呼び止められた。
「まて、猪狩」
「な、なんでしょう……桜島先生」
名札に『桜島』とあったので、俺はそこから苗字を読み取った。
「あの女生徒は、君の彼女かい?」
「――んなッ! ち、違いますよ。同じクラスで隣の席なので……それだけです」
「それだけの関係なのに保健室に連れてくるなんて、ちょっと不思議だな」
桜島先生は、俺を疑う。
目は真っ直ぐで冷静なのに、確実に怪しんでいるな。
それもそうか。
付き合っているならともかく、同じクラスってだけで保健室に連れ添っているのは不自然に見えてもおかしくない。
仕方ない、ここは誤魔化すか。
「あ、ああ~、実は、田村さんとは付き合っているんです。恥ずかしくて言えなくて……」
俺がそう言い訳すると、ベッドから田村さんが飛び上がった。
「ちょおおおお!! 猪狩くん!! なんてこと言うのぉぉ!!」
「うわああ、田村さん!?」
飛び出込んでくる田村さんは、俺の肩を揺すった。混乱して涙目になっている。おいおい、それでは怪しまれるだろうがっ。
「なるほど、二人は付き合っておらず……田村は仮病と」
「「……あ」」
まずい!!
せっかくの作戦が台無しだ!!
これは終わったかなと思ったが、桜島先生は事情を聞かせろと面白そうに笑っていた。俺は、諦めてこれまでのことを詳しく話すことにした。
「――というわけです」
「ほ~ん、昨晩ネットニュースになっていた“胡桃”が田村だったとはね。すごく話題になっていたので、知ってはいたが……これは興味深い」
「なにを企んでいるんですか、先生」
「人聞きの悪い。私はお前達を脅そうなど思っていない」
脅そうとしているのか!?
いったい、なにを要求してくるつもりなんだかな。一応、逃げ道も作っておいた方が良さそうだ。逃げることも想定しながら、俺は桜島先生に改めて聞き返した。
「俺たちはここにいてもいいんです?」
「仮病はよくないが、まあいい。田村は少し疲れているようだし、精神面で不安定なのも理解できた。休むといい」
なんと、意外な返答が返ってきた。
「ありがとうございます、先生!」
田村さんも喜んでいた。
意外と理解のある先生なのかもしれないな。
その後、俺も付き添っていいことになり、念のため田村さんをベッドへ寝かせた。俺はスマホをいじりながらも話に花を咲かせた。
「田村さん、良かったな」
「うん。今後のプランを見つめ直すチャンスかな」
「そうしよう。俺も相談に乗るから」
「よろしくね」
となると、まずは田村さんの配信をどうするべきか……。
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