配信8:VTuberへ転生かそれとも

 毎日の日課である配信を終え、気づけば寝落ちしていた。

 ふと目覚めるともう朝になっていた。陽射しがまぶしい。学生服に着替え、朝の仕度を進めていく。そうそう、スマホでネットもチェックだ。


 昨日に比べ、今日は胡桃関連は……げっ、もっと加熱していやがる。


 ここまで話題になるとは想定外だったが、最後のやらかし・・・・を鑑みればこれは当然の結果なのかもしれない。


 今後が心配だけど、田村さんは学校に来ると言ってくれた。あの言葉を信じるしかない。


 朝飯を食って、俺は家を出た。


 学校を目指して歩いていると、周囲が騒がしかった。



「なあ、昨晩の配信見た~?」

「あ~、胡桃だっけ。なんか田村さんに似てなかった?」

「そうだよな。そう思うよな!」

「あの二年の美少女で間違いないんじゃね」



 うわッ!?

 マジかよ……学校の生徒にも知れ渡っているぞ。とはいえ、ギリギリ田村さんとバレていないっぽいが、時間の問題だろうかね。


 幸いにもアカウントは削除されちゃったし、過去配信アーカイブを覗くことも出来ない。もしかしたら、誰かがバックアップしている可能性もあるが……。


 そんな懸念を抱きつつ、俺は学校の校門を抜けた。そのまま昇降口から教室へ。


 ……さて、田村さんはいるかな。


 いつもの席に座っていることを祈りつつ、俺は扉を慎重に開けた。



 ……あぁ。



 俺はつい声を漏らした。

 窓際の隅の席には、田村さんがいたからだ。まずは一安心した。


 席へ向かい、俺は彼女に挨拶をした。



「おはよう、田村さん」

「猪狩くん、お、お、おはよう……ご、ございます……」



 って、めちゃくちゃ動揺してる――!!

 物凄く冷静な顔しているけど、手足が明らかに震えてるし、言葉もブルブルだ。こりゃあ、ダメじゃないか。



「ちょ、落ち着けって。変に動揺すると勘繰られるぞ」

「で、でも……うん、そうだよね」

「堂々としていればバレないって。もし誰かが何か言って来るようなら、俺が必ず守ってやる」

「うん、猪狩くんだけが味方だよ」


 目尻に涙を溜める田村さん。……ぐぉっ、俺の心がズッキンズッキンするぞ。さすがにそんな乙女ちっくにされると、俺は弱い。

 ここは男らしく田村さんを守るべきだ。

 なぁに、いざとなれば二百万人の同胞が味方になってくれるはずさ。


 俺のアドバイス通り、田村さんは“自分ではない”と堂々としていた。


「それでいい。ところで、ネットは見たか?」

「うん、わたしの話題ばかりだよ。有名になるのは嬉しいけど、失敗も多くて自分が情けないよ」

「悲観することはない。なにも迷惑系で大炎上したわけじゃあるまいし。むしろ、男ファンからしたら、最高の瞬間だったと思うぞ」

「それって、猪狩くんもそうだったってこと?」」


 そりゃ、最高じゃないと言えばウソになる。あんないい物を拝めたのだからなっ。とはいえ、本音を言うほど俺は愚かではない。この気持ちは墓場まで持って行くとする!


 というわけで俺は誤魔化した。


「んや、俺は田村さんの成功だけを祈っていたよ」

「ほんと~?」

「ほんとほんと」


 顔を近づけてきて、俺の目を見つめる田村さん。そんな風に見られると照れるぞ。


「信じてあげる」

「ほっ、良かった。これからも協力関係は続くってことでいいかな」

「もちろん。再起したいし、次回からVTuberになろうかな」

「あ~、それもありかもね。って、無理だろ」

「なんでさ~」

「ガワを作る費用はどこから出すんだよ。何十万と掛かるらしいじゃん」

「そ、そうなんだ……」


 知らなかったのかよっ。そりゃ、ショボいのでよければ安く作れるだろうけどね。……おっとホームルームがはじまる。

 田村さんの復活方法は今日じっくり考えてみるかね。


 なにかないかと模索していると、教壇に担任の倉坂が立った。倉坂はいつものように朝礼を進め、そして、なにかゴチャゴチャと言い始めた。



「あ~、昨晩だが、田村。お前、配信していなかったか?」



 などと、いきなり名指しされ、大ピンチに陥った。


 やべえええええええええええええ!!


 担任の野郎、見ていたのかよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る