第2-2話
ノアは静かな森の中で、グロームスワンプの奇妙なカビに囲まれながら採取作業を続けていた。
その粘り気のあるカビは、地上の至る所で広がり蛍光を発し、森全体を幻想的に照らしていた。
それらのカビは地上に広がる粘液状の菌糸を放ち、不気味な光を発している。ノアは屈んでカビの触感を確かめる。
カビはぬめりと粘り気を帯びていて嫌悪感を覚えるが、その効能は冒険に役立つ。
このカビは殺菌、抗菌作用があり感染を防ぐ効果があるのだ。
軟膏に少し混ぜて使うだけで傷口は守られる。
ムーンスライムはグロームスワンプ特有のカビで、地上に広がる粘液状の菌糸を放ち、青白い蛍光を発しているのだ。
グロームスワンプが不気味に光るのはムーンスライムというカビが原因である。
このカビは不思議な抗菌作用を持ち、感染を防ぐ。
「ムーンスライム……採取完了っと。これで一通り」
彼女はスプーンを使って慎重にカビを採取し、瓶いっぱいに詰め込んでいった。スプーンは特殊な金属で作られており、カビを容易に取り出せるように設計されてる。
ノアはスプーンを使うと、まるで皮を剥くように滑らかにカビを収集することができ、作業は効率的に進んでいった。
ノアは時間を忘れて熱心に採取を続けた。
冒険に必要な物資を次々とを採取するうちに、ノアのバッグは色とりどりの薬草、キノコ、そしてカビ類で一杯になっていった。これらの素材は彼女の冒険の生命線であり、必要な時に役立つ。
「ムーンスライム、グリーンエレガント、ブラッドブルーム、シャドウベインその他諸々採取完了! まだまだ必要な素材はたくさんあるけど、まずは治療薬とか霊薬の材料を優先的に集めないとね」
ノアは洞穴へと戻る道中も周囲に目を配り、注意深く観察する。
必要な物があれば採取し鞄の中に詰め込んでいく。
グロームスワンプは大きな危険性を孕んでいる一方で、その気味の悪い環境と危険性から殆どの冒険者は立ち入らない穴場なのだ。
手つかずの場所が数多くあり、冒険に役立つ素材は採り放題という訳である。
それにノアは過去に何度もアランと共に立ち入り、数カ月~半年もの間滞在していた経験がある。グロームスワンプは自分の家の庭のように歩けるのだ。
どこが危険で、どこに魔物が潜んでいるのか、どこに魔物の罠が仕掛けられていてるのか、安全に探索できる時間帯やタイミング等――グロームスワンプでの生存術の全てを頭と体に教え込まれている。
故に彼女の足取りには迷いが無く、採取作業も容易であるのだ。
夕方に差し掛かる前に、ノアは洞穴へ戻り本日収穫した物の確認を進めていく。
焚火を起こし、壁掛け松明にも火を灯して洞穴の中を明るくする。
「ジメジメしてて気持ち悪い環境だけど、素材集めするには最高なんだよなあ……。とりあえず収穫した物の確認、計測、計量……それと下処理をしていかないとね」
ノアは鞄の中から様々な測定器具や計量器を地面に並べ、羽ペンを片手にグロームリードから作られた自家製の紙に記録していく。
「グリーンエレガントが約2キロ」
採取したグリーンエレガントは麻紐で一つに束ねて天井に吊るし、しっかりと乾燥させる。
「ブラッドブルームが約1キロ」
ブラッドブルームの深紅色の花はすり鉢に入れていき、跡形もなくすり潰していく。鮮血のような真っ赤な汁を瓶の中に入れ、コルクで蓋をし、沸かした水で湯煎する。
「シャドウベインが3キロ」
シャドウベインは毒抜きが必要だから水を貯めた桶の中に入れて蓋をし、重石を乗せて放置。
「ムーンスライムが瓶の重さ込みで800グラムと少しか……結構集めたな」
ムーンスライムの下処理は特に無いが、カビである為生き物だ。
瓶の中にほんの一つまみ程度の乾燥させたグリーンエレガントと小麦粉を入れて常備する。
洞穴の奥にある木箱の中には、昔アランと共にグロームスワンプ中を駆け回り、集めた様々な素材が保管されている。
洞穴は暗くて涼しい。
採取した素材を保存するにはうってつけの場所なのだ。
数年前に乾燥、粉末状にしたグリーンエレガントや様々な素材が保管されていて、それがずっとそのままであった為ノアはほっと胸をなでおろす。
「あー懐かしいなあ……あの時は本当に地獄だったけど、あの経験がなかったら今頃私は魔物の腹の中だろうなあ」
ノアは過去の事を懐かしみながら素材を整理していく。
「今日はこのぐらいかな……」
下処理を終えた数々の品を整理整頓し、彼女は横になった。
食事をするのも忘れるほどに集中し、一日中動き回った彼女は気絶するように眠った。
☆
翌朝、洞穴の中に静かで穏やかな光が差し込んできた。
ノアは気持ち良く目を覚まし、身体を伸ばしました。
「おはよう、ミルカ」
ノアはミルカの頭を撫でながらやさしく微笑む。
彼女は大きなあくびをしながら、火打石で焚火を起こす。
洞穴の奥には木箱が置いてあり、中には古びた調理器具や保存容器が置いてある。
この場所を拠点に生活できる道具は一式揃っているのだ。
調理器具から工具、製紙台や簡素な工房――贅沢は出来ないが、冒険生活をする上で最低限の事は全て洞穴の中で出来るようになっているのだ。
ノアは手鍋を手に取り、簡単な朝食を用意するために鍋を焚火の上に吊るした。
「……今朝は何を作ろうかな」
ミルカの干し草を用意しながらボソっと言う。
彼女はバッグの中から採取した食材を取り出し、煮沸消毒した水を使って丁寧に洗っていく。
「簡単なものにしようかな……キノコと野菜のスープでも作ろう」
グロームスワンプという場所は植生が豊だ。食べられる野草やキノコは沢山ある。
ノアはまな板の上にそれらの食材を並べていった。
ナイフでキノコを切り分け、野菜をざくざくと刻んでいく。マグナスからもらったベーコンも厚切りにして切っていった。
鍋に植物油を入れ、先ずはベーコンを炒めていく。
「ん~これこれ! いい匂いがしてきた!」
ノアは鼻歌混じり調理を進める。
ベーコンに焼き色が付いてきたタイミングで、香り高い野菜とキノコを投入し炒めていく。
野菜達がしんなりとしてきたところで鍋に水を注ぎ、野菜とキノコを煮込む。
しばらく煮込んだ後、ノアはスープを丁寧に火から下ろし、器に注いでいった。仕上げに新鮮なハーブをトッピングして完成。
「やっとご飯にありつけるよぉ……」
ノアはテーブルにスープを運び、一人で座る。静かな洞穴の中で、スープをすする音が響いた。
「おいしっ……やるじゃん」
彼女は満足げに微笑みながらスープを頬張りました。グロームスワンプの中で採取した食材で作った朝食は、冒険の日々の疲れを癒す特別な味わいがある。
ノアはゆっくりと朝食を楽しみながら、今日の冒険の計画を練るのだった。
「次の依頼内容が」
ノアは依頼内容を確認する。
「……ディレンブライトか……キノコの魔物だから胞子を気を付けないとね。戦う前に抗精神薬と解毒剤を飲んで戦おう。次が――デスクローラーかぁ……猛毒をもつ大蛇の魔物だから奇襲して倒そうかなあ」
ノアは依頼内容を見ながらそれぞれの魔物への対処方法や討伐までの流れを考案する。
一人で戦う為、強力な怪物になればなるほど対策し、戦闘が長期化しないように道具や罠を使用するのだ。
「出発しよう」
準備を終えたノアは洞穴を出て魔物の討伐に向かって行った。
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