第6話

冒険者ギルドを出てたノアは、まだ戦闘後の疲れが残る足取りでセントリアの街を歩いていた。

屍食鬼との戦闘後、数時間程度の睡眠しか取っていない為身体が少し気だるい。

本当なら今すぐにでもセントリアの名物である温泉に浸かり体を休めたいところだが……アランに叱られない為にも、先ずは冒険に必要な物を揃える。


「先ずは屍食鬼との戦闘で消耗した武具の手入れと修理が必要だよなー……。手持ちはそんなに多くないし、必要な物資だけを厳選しないと」


ノアは幼少期の頃から剣技や座学を学んでいる為、一通り武器や防具の手入れの仕方を熟練している。

仮りに、武器店の職人に剣の手入れと刃の研ぎ直しを頼むことにしたとしよう。

その場合、職人はノアの剣を丁寧に受け取り、研磨や油脂の塗布などの作業を行う。剣の状態や修理の度合いによって価格は異なるが、一般的な手入れの場合、約100フェイリンから200フェイリン程度が見込まれる。


また、防具の修理や補強も必要な場合、鎧職人に相談することになるだろう。鎧職人はノアの防具を点検し、傷やひび割れの修復や金属の強化を行う。こちらも武器と同様、修理や補強の内容や鎧の状態によって価格は異なるが、一般的な修理の場合、200フェイリンから400フェイリン程度が見込まれるのだ。


使える金は40,000フェイリン。街での活動はこの資金を元に活動ができる。

武具の修繕や手入れは可能な限り自力で行い、余程の事が無い限り修繕を依頼する事は無い。


彼女は武具店に足を運び、手持ちの装備を整備する為に必要な油、皮革用クリーム、金属研磨剤、布やブラシ、針や糸等を買うだけに留める。武具店での費用は凡そ30フェイリン。


その後市場で食料や塩等を150フェイン分購入。

霊薬の材料は薬屋に行き、ハーブや薬草を120フェイリン分購入。

その他の雑貨、ロープやランタンのオイル等が150フェイリン。

予備の矢や火薬等が160フェイリン。

追加の小さな冒険者用バッグが500フェイリン。


合計で1,080フェイリンを使用し冒険に必要な物資を揃える。


「さて、こんなものかな」


宿に戻った彼女は集めた物資をベッドの上に全て広げ、指差し確認をする。

不足している物が無い事を確認した後に片付けた。





ミストレンスは商業都市セントリアの中に位置する中世風の温泉街だ。

石畳の道が続き、街並みは落ち着きのある木造の建物が軒を連ねている。

古びた屋根瓦や窓から差し込む暖かな光景が、訪れる者を迎えているようだった。


街の中心には、美しい噴水があり、その周りには露天風呂が点在している。蒸気が立ちこめ、芳しい湯の香りが漂ってくる。旅人や冒険者たちは、疲れを癒し、温泉の恵みを楽しむために、この街を訪れる。


商店や露店が立ち並び、そこには多種多様な商品が並べられている。

地元の農産物や手工芸品、そして温泉で収穫される特産品などが販売され、それらを目当てに観光客で賑わいを見せている。

また、宿泊施設も充実しており、木造の宿屋や旅館が点在している。旅人たちはここで休息し、美味しい食事と温泉に癒されることができる。


夕暮れ時に差し掛かった頃だ――古びた宿屋の前にノアは立っていた。


「一泊200フェイリン……随分と安いな……」


一般的な宿屋の料金は、宿泊のみであれば200~500フェイリンが相場である。高いところで500フェイリン以上の価格帯である為、200フェイリンで寝泊りできるのは相当安いという事になる。


彼女は旅の疲れを癒すため、手頃な価格で宿泊できるこの宿に決めた。

木々に囲まれた広い庭園には、露天風呂があり、湯船からは微かに湯気が立ち上っている。


宿屋の玄関を抜けると、木製の建物が目の前に現れる。

風雨に耐えるように作られたその建物は、年月とともに古びていたが、温かみのある雰囲気が感じられる。中に入ると、賑やかな声が響き渡っている。


この宿は地元の貧困層でも手軽に利用できる場所である為、皆店内に張り出されたルールを厳守している。


「えーとなになにぃー? 喧嘩をしない、男性は女性に近づかない、大声で話さない、酒を持ち込まない。以下のルールが守れない者は出入り禁止とする。なるほど」


廊下には様々な旅人が行き交い、笑顔や会話が交わされている。ノアはチェックインカウンターに向かい、宿の主人と挨拶を交わす。主人は親切な笑顔で、ノアに宿泊料金を伝える。


「一泊の料金は20フェイリンとなります。風呂は野外の共同露天風呂となりまして、温泉の源泉を楽しむことができますよ。お部屋は個室をご用意していますし、古いですがベッドや寝具も整っています」

「一泊お願い」

「畏まりました。こちら個室のカギになります。ごゆっくりとお過ごしくださいませ」


ノアは心地よい温泉の香りを感じながら、宿泊料金を支払う。

その後、主人が案内してくれるままに宿内を進んでいく。

廊下を進み、割り振られた寝室へとたどり着くと、ノアは寝床に荷物を置き、一息つく。


「やっとくつろげるわぁー!」


ベッドに飛び込み大の字に寝転ぶ。室内は質素であり、ベッド以外の物は何も置いていない。

夕闇が窓の外に広がり、自然に囲まれた露天風呂が視える。

窓の外から見える露天風呂には仕切りがあり、男性側からは視えないようになっていた。


ノアが借りている一部屋も、女性専用となっており男性は立ち入る事は出来ない。

ノアは軽快な足取りで風呂場へ向かった。


脱衣所で衣服を脱ぐ。

しっかりと鍛え上げられていて引き締まった体をしていて肌の色は健康的だ。


旅の道中や戦闘、修行によりにより傷は体中にあるが、それは彼女の逞しさを表し、困難を乗り越えてきた証でもある。

華奢で小柄な体ではあるものの、決して貧相な体ではない。締まる所はしっかりと締まっていて、出る所は主張しすぎない程度にある。


彼女はゆっくりと湯船に浸かり、旅の疲れを癒していく。

木々の間から差し込む月明かりが、風呂場を幻想的な光景に変えている。


露天風呂からは遠くに山々が見え、風のささやきが耳に心地よく響く。夜空には星が輝き、深い静寂が宿を包み込む。ノアは心身ともにリラックスし、この素朴な宿の魅力に満たされていくのであった。


「かぁー! 生き返るぅ!」


この宿屋は決して贅沢ではないが、その価格と自然に囲まれた風呂場が、ノアにとってはまさに心地よい休息所となるのだった。

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