第7話

翌朝。

久しぶりのベッドで睡眠を取った為、ノアはぐっすりと眠る事ができた。

小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から漏れる日の光で目が覚める。

彼女は起きると同時に前日に買った道具を用いて武具の手入れを始めた。


寝起きは良い方である為、起きて直ぐに作業を始める事が出来る。

美しい銀色の刀身をしたミスリルの剣の状態を確認し手入れをしていく。流石ミスリルの剣と言うべきか、あれだけの数の屍食鬼を切ったというのに刃こぼれ一つしていない。

ノアは剣の整備を最小限に留め鞘に納める。


着替えを終え、出発の準備を整えた彼女は宿屋を出た。

彼女は足早に宿街の通りを歩いていった。宿を出るとすぐに停留所があり、そこには彼女の相棒である馬が待っていた。


「おはよう、ミルカ。今日も頑張ろうね」


ノアは馬に声をかけ、優しく撫でる。

ミルカは美しい栗毛を持つ駿馬で、彼女と共に数々の冒険を乗り越えてきたパートナーだ。大通りでもないと馬での移動は許可されていない為、馬留に一度預ける必要がある。厩舎のような場所で、有人と無人の両方がある。


有人であればフェイリンを払い馬の面倒を見てもらい、無人であれば無料の代わりに自分で面倒を見る必要がある。

預けた場所は有人である為、馬番に100フェイリン程支払うと、ノアは馬に跨り、アランとの待ち合わせ場所である街の入り口へと向かった。


街の入り口にはアランがすでに待っていた。

彼は筋骨隆々の体つきと威厳を備えた颯爽とした姿勢で立っている。隣にいる彼の愛馬も威風堂々とした黒い馬で、主人の意を汲み取るかのように待機している。


「おはよう、アラン。お待たせ」


ノアは軽快な声で挨拶し、微笑みを浮かべた。

アラン口元だけを緩ませて応える。


「ちゃんと準備はできているようだな」

「そりゃあ怒られたくないですからねー」

「昨日はどこに泊まったんだ?」

「温泉街にある格安の宿だよ。お値段なんとたったの200フェイリン!」

「ほう……そりゃあいい場所を見つけたな。酒の持ち込みができない店だろ?」

「よく知ってるね」

「俺も若い頃世話になった場所だからな。あそこの露天風呂は景色が良くて気に入っていたんだが安い分地元の酔っぱらいも集まるから治安が悪いんだ。ま、お前にいたずらしようものなら手首をへし折られるだろうがな」

「そりゃあ私の身体は安くありませんからねぇ~」

「はは、そうだな」


二人はお互いに軽口を叩くと、本題に入る。


「お前の為に複数の怪物狩りの依頼を受けた。受けた依頼の殆どはお前が一人で対処できるものだ」

「ほほーん。ちょっと見せてよ」


アランはノアの手を取り、ギルドで受けた複数の依頼書を手渡す。

ノアは依頼の内容を視てふむふむと頷く。


「ここからはお前が一人でやれ。それぞれの任務には期限があるから一ヵ月以内に済ませてしっかりとギルドに報告しろ。一月後、この街のギルドで落ち合うぞ」


それじゃ――と、最後に言い残してアランは颯爽と馬に乗って走り去っていった。

残されたノアは街の入り口でぽつんと立ち竦み、茫然としていた。


「一人の任務かあ……」


一人で魔物の討伐は何度もやった事がある。

それも幼い頃からだ。アランの修行内容は苛烈そのもので、基本の動きを叩き込まれた後は只管実戦形式での修練を行う。

幼い体で必死になって魔物と対峙し、命のやり取りをしていた。

つまり一人で魔物を討伐するというのは、ノアにとって日常のようなものである。


ノアは手渡された依頼内容に目を通す。



【森での討伐依頼】


ターゲット: ウィルドボア

依頼内容: 森の中で暴れまわる凶暴なウィルドボアの討伐を行ってください。

場所: 森林地帯

数量: 1匹

注意事項: 森林地帯に生息する野生のイノシシのような怪物。攻撃力と防御力が高く、突進や牙での攻撃を仕掛けてきます。ウィルドボアは頑丈な体を持ち、突進や牙で攻撃してきます。注意深く戦いましょう。


達成報酬額: 5,000フェイリン

追加報酬:1匹ごとに追加報酬 2,500フェイリン


ウィルドボアは怒ると毛が鋼みたいに固くなるし、逃げ足も速いから罠を仕掛けて倒した方が良いな。


ターゲット: ウィスプ

依頼内容: 森の奥深くに現れるウィスプを討伐してください。彼らは光の迷宮で相手を惑わすことがあります。

場所: 森の奥深く

数量: 3匹

注意事項: 森の中に現れる光り輝く幽霊のような怪物。光の球体として現れ、魔法攻撃や誘い込む光の迷宮で相手を惑わします。ウィスプは幻惑的な力を持ち、魔法攻撃を行います。彼らが作り出す光の迷宮には注意が必要です。


達成報酬額: 6,000フェイリン

追加報酬:1匹ごとに追加報酬 2,000フェイリン


ウィスプは真正面から倒しに行っても問題ないね。

ただ、夜の戦闘は危険を伴うから気を付けないと。



【沼地での討伐依頼】


ターゲット: ディレンブライト

依頼内容: 沼地に生息するディレンブライトを討伐してください。彼らは幻覚を引き起こす毒を持っています。

場所: キノコの群生地

数量: 2匹

注意事項: ディレンブライトは沼地の光り輝く菌類から生まれる不気味な生物。幻覚を引き起こし、相手を混乱させる毒を持っている。、幻覚や毒を使用して相手を混乱させます。


達成報酬額: 6,000フェイリン

追加報酬:1匹ごとに追加報酬 3,000フェイリン


ディレンブライトはキノコのような見た目をした魔物だね。キノコの群生地には何度も行ったことあるし、倒したこともある。事前準備が必要な魔物だから霊薬をしっかりと飲んでおかないとか。



ターゲット: デスクローラー

依頼内容: 沼地の底に潜むデスクローラーを討伐してください。彼らは強力な絞めつけ攻撃を行います。

場所: 沼地の泥沼地帯

数量: 1匹

注意事項: デスクローラーは巨大な蛇のような姿をしており、毒の牙と強力な絞めつけ攻撃を使います。


達成報酬額: 8,000フェイリン

追加報酬:1匹ごとに追加報酬 6,000フェイリン


8,000フェイリン……この報酬額を考えるとデスクローラーの幼体か。

幼体とは言え猛毒をもった大蛇だし、小さくても体長10メートル以上はあるから一番厄介。だけど、これも倒したことのある魔物だね。


一応、無茶な依頼は持って来てなくて安心。

どの依頼も一ヵ月以内に達成できれば問題なさそうだ。


ノアは依頼内容を見た後で、街の周辺を記録した地図を広げる。

その地図には、過去にアランと共に行動し、どこでどんな怪物と戦ったのか記録してある。長年使っている羊皮紙の地図である為、ボロボロでひび割れているがまだまだ使える。


「なるほど……この感じだと東部にあるランタンフォレストに行って、森の依頼をやってから一度休憩。ウィルドボアとウィスプを倒したら納品して、その後でランタンフォレストの南部にあるグロームスワンプに行く感じになるかな……」


ノアは頭の中で冒険の道筋を想像し、手順を考える。

ある程度考えを整理し、まとまったところで彼女は愛馬のミルカに跨り走り出した。

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