第5話

ノアとアランは街の入り口に馬を停泊させた後ギルドに向かった。


冒険者ギルドはセントリアの中心部に位置し、遠くから確認できる程の大きな建物がそびえ立っている。

ギルドまでの道は綺麗に石畳が敷き詰められていて、綺麗に舗装されていた。

ノアは通りすがりの冒険者たちの武器を眺めながら、自身の剣を手に触れる。

その鋭さと重みは彼女にとって自慢の武器であり、戦いの相棒だった。


『あの人は片手斧、あの人は大剣……みんないろいろと好みがあるんだねー』


職業病みたいなもので、冒険者というものは自然と他の人が使っている武器を見てしまう。

ノアも例外ではない。

彼女の使っている剣は、修行の末アランが使っていたお下がりを使っている。


銀を含むミスリル製の特殊な合金から作られた彼女の剣は、鉄を使った剣とは比べ物にならない程の一品である。

彼女は鉄の武器を持った冒険者を横目で見ながら密かに自尊心を喜ばせていた。


そんなノアの様子を横目で勘付きつつも、アランは歩きなれた様子でギルドの建物へ一直線に歩く。


彼は、ノアのように街の活気に満ちた光景に心躍らせる事なく、全て見慣れたもののように歩む。

彼にとってギルドは、ただ自分の稼業を維持する為の拠点であり、依頼を受けて仕事をする場所にすぎない。


ギルドの建物に到着し、一度建物の前で立ち止まる。


「お前もこの稼業を続けるなら必ず世話になる。礼儀は弁えろ」

「お、おう」

「それと……はあ……。他人が使っている武器と自分の剣を比べるな」

「…………」


どんだけ鋭いんだよ! このジジィ!

ノアは図星を突かれて返す言葉が無かった。

入り口にはギルドのエンブレムが掲げられ、冒険者たちが出入りする様子が絶え間なく続いていた。


扉を開けるときにひんやりとした風が迎えてくれた。


中は活気に満ちており、さまざまな人種の冒険者が集まっていた。ドワーフやエルフ、人間など、様々な種族の冒険者たちが交流し、情報を共有しているようだ。


飲食店の様に飲み食いできる場でもあるので、騒がしい声や笑い声が響き渡り、冒険の活力で満ち溢れていた。


掲示板には様々な依頼が掲示され、冒険者達がそこに群がっている。冒険者たちはそれを見ながら次の仕事を探しているのだ。


一部の冒険者たちはグループを組み、大きな依頼に挑む準備をしていたりもする。

武器や防具を整え、荷物をまとめる様子が見受けられる。


カウンターでは新人冒険者たちがギルドへの登録手続きをしていた。ギルドのスタッフが丁寧に説明をし、冒険者たちは自身の情報や特技を提出する。


その後、特別狩猟資格の有無やランクの初期設定、ギルドのルールについての説明が行われ、彼らは正式な冒険者として認められるのだ。


「お前、一応聞くが資格はちゃんと持ち歩いているな?」

「通行証と一緒に首から下げてるよ。無くしたら大変でしょ?」

「命のようなものだからな」

「いつも口を酸っぱくして言うじゃん。通行証を無くしたらセントリアに入れなくなるから無くすな! 狩猟資格が無くなったら武器の持ち歩きも魔物の狩猟もできなくなるから、自分の命のように扱えって言うじゃん」

「分かっているならそれでいい」


ギルドの職員達は忙しそうにホール内動き回り、酒や食べ物を提供していた。

酒や料理等をテーブルに運び、大食漢である冒険者たちの胃袋を満足させていく。


冒険者の仕事はハイリスクハイリターン。仕事内容の殆どは死亡率が高い為報酬金も大きい。

小宴会であれば、依頼を達成した後によくみられる光景だ。


ギルドの一角では、ベテランの冒険者たちが新人たちにアドバイスやトレーニングを行っている場所がある。技術の指導や戦闘の訓練、冒険に役立つ情報の共有などが行われ、経験豊富な冒険者たちの存在は新人たちにとっての頼もしい支えとなっているのだ。


勿論、トレーニング代は掛かるぞ。


ノアとアランは歩みを進め、受付のカウンターに近づいていく。

カウンターの後ろにはギルドのスタッフが立っており、冷静な表情で業務をこなしていた。


ノアは屍食鬼の歯を手にしてスタッフに声をかけた。


「この屍食鬼の歯を納品しにきたんだけど」


ノアは小袋の中に入れていた屍食鬼の歯を机の上に出した

スタッフは一瞬ノアとアランを見つめ、そして微笑んで言った。


「お疲れさまでした。屍食鬼の討伐、おめでとうございます。報酬はちょうど今日の予算内に入っていますので、すぐにお渡しできます。お二人の冒険記録にもしっかりと反映されますよ」


スタッフは手際よく書類を取り出し、報酬金を計算しました。


ノアとアランはギルドのスタッフから報酬金を受け取りました。屍食鬼の歯の討伐は困難な任務であり、その価値に応じた報酬が支給されます。


スタッフは報酬金を計算し、額を伝えました。


「お二人の屍食鬼の討伐に対して、報酬金は合計で80,000フェイリンです。アランさんが注文していたように、予め全て銀貨にしています。確認されますか?」

「結構だ。キッチリあるのだろう?」

「もちろんでございます」


ノアは驚きと喜びを隠せませんでした。

この報酬金は相応の評価であり、彼らの冒険者としての価値が認められたという証である。


「は、80,000フェイリン!?」


ノアは目を輝かせながら言いました。

アランも満足そうな表情を浮かべながら頷きました。


「妥当な額だ。こっちは屍食鬼を30匹以上狩っているし巣も焼いたんだ。寧ろもう少し色を付けてもらいたいぐらいだ」

「ふえ~……」

「ま、歯の代金は俺がもらうが達成報酬の半分はお前にやる、受け取れ」


アランは硬貨が入った袋をノアに手渡す。銀貨がギッシリと入れられた袋はぱんぱんに膨らんでおり、ずっしりとした重みを感じる。。

40,000フェイリンもの大金が自分の手元にあるのだから、ノアは瞳をキラキラと輝かせながら喜んだ。

 

「あのーお客様……結構な大金をお持ちになっていると思いますので、ギルドに一部を預けてみますか?」

「お金を……預ける?」


ノアはイマイチピンと来ていない様子で首を傾げた。

察したアランは渋い声で話す。


「貨幣はどうしても持ち運びにくいし盗難されやすい。だから冒険に使う分だけを残して残りは全部預けるんだ。宿泊費、食事費、装備の修理費、霊薬や錬金術の材料費やその他の必需品……余裕をもって5,000フェインは持ち歩いて置け」

「んー……確かにそうだね。じゃあ5,000フェイリンだけ持って残りは貯金しようかな」

「賢明だな。それじゃあお嬢さん、こいつに5,000フェインだけ渡して残りを預かってくれ」

「承知いたしました」


「一応言っておくが、だいたいこのぐらいの額を月一で稼がないとこの先やっていけないぞ。今回は二人で山分けだが、本来は四、五人集まって報酬を分け合う。お前は一人で狩りができて報酬も独り占めできるが死ぬときは一人だから気を張れよ」


アランはしっかりとノアに釘を刺す。


「それじゃあ後は頼むぞ」

「はい、承知いたしました。では此方にサインをしてください」


アランとノアは職員に渡された契約書にサインをすると、職員に金を預けた。


「明日の朝、街の入り口に集合だ。それまで自由にして良いぞ」

「分かった!」


二人はある程度の資金を手元に残し、ギルドの建物を後にした。

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