第4話

激しい戦闘が終わり、ノアとアランは一息ついた。

彼らは疲労困憊し、返り血と汗にまみれた姿で立ち止まる。

死にかけの屍食鬼を見つけては止めを刺す。

戦闘の熱も冷め、単純作業も相まって疲れがノアの身体を襲う。


彼女は剣を地面に突き刺し、重いため息をついた。ノアの顔には汗と疲労の跡が見受けられた。


「疲れた……」


ノアがつぶやいた。

アランはノアの肩をやさしく叩きながら厳しい口調で言いました。


「踏ん張りどころだ。疲れている時こそ気を張り詰めろ、油断をするな、横着もするな。気の緩みで死んだと思っていた魔物から攻撃を受けて死んだ奴を何人も見てきた。だからこそ、俺たちは日々鍛錬し、準備し、的確に判断し、処理していかなければならない」


ノアはアランの言葉に頷きつつも、まだ疲労が残っていることを感じながら言った。


「でも、今はちょっと休ませてくれない? 体が限界だ……」


アランはしばらく黙って考え込んだ後、重いため息をついて言いました。


「駄目だ」

「……まあ、そう言う事はわかっていたよ。はあ……気合い入れるぞ! 私!」


二人は作業を続けた。

止めを刺す仕事が終わった後は屍食鬼の犬歯を抜き取る作業をする。

本来であれば倒した魔物の皮や爪と言った素材を剥ぎ取るが、腐った死体のような屍食鬼から得られる素材と言えば爪か牙ぐらいだ。


しかし屍食鬼の爪は、死んでからでは吸血鬼としての力を失う為、鋭利さや丈夫さが著しく欠けてしまう。

唯一素材としての利用価値、そして換金価値があるのは牙のみである。


二人は数時間かけて屍食鬼から牙を抜き取る作業を行っていった。





翌朝、二人は前日に設営していた野営地で目を覚ます。自然の中での静けさが彼らを包み込む。

小鳥の囀りが心地よい目覚ましとなり、ノアはゆっくりと起き上がる。

彼女は寝ぼけ眼を擦りながらそのまま近くの川へ向かった。


身体の汗や泥を洗い流すために、川の水に体を浸ける。慣れているとは言え水は冷たい。

それでも彼女は全身を水に浸す。前日は余りの疲れに泥のように眠ってしまったのだ。

そのせいで戦闘後の汚れがそのままである為、彼女は念入りに身体を洗う。 


「いたっ……」


掠り傷に水がしみる。

思わず呟いた。


一方、アランは焚火に火を起こし、鍋をかけて食事の支度を始めました。野営のための食材を持ち込んでいた彼は、慣れた手つきで野草、キノコ、肉を切り、香り高い料理が広がります。

ノアと違って、彼は身体の洗浄を済ませているようだった。


ノアは川から戻り、着替えを済ませ、食事の準備が進んでいる様子に笑顔を見せました。


「お、今日の朝ごはんは何かな?」

「肉と野草の煮込みだ」

「んー……すごく良い匂いがするね〜」


アランは火のそばで飯の支度を進めながら、真剣な表情で話しはじめる。


「ノア、食事を済ませたら討伐した屍食鬼の歯をギルドに納品しにいくぞ。受け取った報酬で必要な物資を調達する。調達する物資は知っているな?」


アランが横目でノアを見ながら言う。

ノアは湿った髪をかき上げながら、少し反抗的な口調で答える。


「わかってるよアラン。霊薬とか油の材料になるものとか食料でしょ? 旅を安全に進めるために必要なものだけを買う……そうでしょ」

「そうだ。武具の手入れも忘れるなよ」

「分かってるってば」


アランは飯炊き釜の蓋を開け煮物をかき混ぜながらノアを見つめた。


「ノア、お前は特に自分の武具の手入れには気をつけろ。普段から荒っぽい戦い方をするんだ、手入れは常に心掛けろ。故障した武器は戦場では役に立たないからな」

「分かってるよーって! 親みたいにチクチク言ってくるなー!」

「忘れっぽいから釘を差してる」

「街へ行ったらゆっくりと武器の手入れもするってば」

「ならいい。常に怠るなよ」


野営地での食事は質素で簡素なものだった。

鍋の中には野草やキノコ、少量の肉が入っており、水と塩で味付けされているものだ。

アランはお椀にスープを盛り、ノアに手渡した。ノアは手にした木製のスプーンでスープをすくいながら食べる。


アランも自分の分をお椀に注いで食事をする。


「味はどうだ?」


ノアは口に運んだスープを少し舌で味わいながら、にっこりと笑ってから答えました。


「美味しいよ! ありがとう、アラン」


ノアの言葉にアランはにやりと笑い、頷きました。


二人は静かに食事を続けながら、野営地の周りを見渡した。

森の静けさと自然の美しさに囲まれながら、シンプルな食事を共にするのは良い。

アランはぼんやりと互いの絆が深まっていくのを感じた。


食事が終わると、アランは片付けを始めた。

ノアも手伝いながら、残った食材や道具を整理していく。

これらの道具は馬に乗せて行った。

二人は自分の愛馬に跨り、満足した表情で野営地を離れて街へと向かって行った。





アランとノアが向かった街の名はセントリア。

朝の日差しに照らされたセントリアの街は、商業の息吹に満ち溢れていた。活気にあふれた中規模の商業都市らしい光景だ。


セントリアという街は、繁栄と冒険の息吹を感じさせる美しい場所である。

大きな港があり外国から様々な貿易品が流れ込み、市場を潤す。


街の入り口をくぐると、迫力のある門が出迎えてくれる。

その門は重厚感に満ちていて、古代の騎士団の城塞を思わせるものだった。門の両側に立つ衛兵たちは、鍛えられた体をしていて、堂々とした姿勢で通行する者を見守っていた。


アランとノアは通行所を衛兵に見せつけ、許可が下りたので待ちの中に入っていく。


街の中は整然と敷き詰められた石畳で整備されていて、建物は美しく装飾されている。色とりどりの花々が窓辺やバルコニーに咲き乱れ、風に揺れる様子はまるで絵画のようだ。街の中心には高い塔を持つ冒険者ギルドがそびえ立ち、冒険者たちの活気溢れる声や笑い声が聞こえてくる。


セントリアは温泉の町としても知られている。温泉地域には多くの温泉旅館や公衆浴場があり、その温泉は地元の人々や訪れる旅行者に癒しとリラックスを提供しているのだ。

温泉での入浴はセントリアの人々にとっての重要な文化活動の一部。


冒険者ギルドの周辺には、武具商人たちが軒を連ねている。鍛冶屋や武器店、防具店などがあり、美しく磨き上げられた剣や鎧が陳列されている。冒険者たちはここで装備を整え、次の冒険に備える。

その様子はまるで働き蜂ように忙しそうであった。


街の中心広場では、音楽家や曲芸師がパフォーマンスを行い、人々を楽しませている。旅行者や市民たちは手品やジャグリングに魅了され、拍手や歓声が広場に響き渡る。広場周辺には食堂や居酒屋、カフェが立ち並び、美味しい料理や飲み物が提供されていた。

街の特産品である新鮮な野菜や果物は、市場で豊富に取り扱われ、その香りは街中に漂い食欲をそそる。


街を歩く人々は多様で、様々な国からの冒険者や商人、市民が交じり合っている。異国の言葉や風習が交わされ、多文化の融合が感じられる場所である

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