第10話 狂乱魔術(いもうと)【樹山妖精王】


「今回は特別講師の方に来て頂いた! あの【アース・オブ・ファミリー】のマスターである【不動のシン】様! そして妹君である【狂乱魔術】の使い手ーー妖精王(ティターニア)様だ!」


 場所は地方都市、伝統を感じさせる荘厳な建造物の中にある演習場に黄色い声が飛び交う。

 僕こと樹山森と中二病の妹【妖精王】は魔導養成学院という魔法使い育成の学校に講師として来ていた。SSSギルドである【アース・オブ・ファミリー】は殺伐とした戦闘系依頼の他にもこういった指導・育成のクエストも受ける。

 この世界にはありとあらゆる人に害をなす敵が跳梁跋扈しているが故に、ありとあらゆる異能力も存在する。人類が生き残るためにありとあらゆる研究が進み、人々はそれを修得する事が義務……というより習慣と化していた。単なる村人ですら様々な超常系の能力を携えているのだ。全てはこの過酷な世界にただ生きるがために。

 それに伴い、育成機関も星の数ほど存在する。武術、体術、剣術、超能力、練丹術、忍術、暗殺術。地球丸ごと数千個は入るほどの大きさで人口も計り知れない世界【インフィニティグランデ】では皆が覚えて当たり前。

 その中でも一、二を争う人気な異能力が『魔法』ーーいわゆる魔術だ。


「ふふふ……我が異能(ちから)を欲するとは何と命知らずな事か……万象を従えしこの力……有象無象如き底下の凡夫に扱う術はないと知れ………」

「妖(よう)、もう少し声張らないと……」


 妖は僕の後ろに隠れながら中二病特有の決めポーズをして呟きの声を発している。

 絶賛中二病の最中である妖だが、実は凄く人見知りで大勢に注目される場ではこのようになる。そして中二言葉しか話さなくなる。中二言葉はいわば、照れを隠すための虚勢であり本来は恥ずかしがり屋で怖がりな妹なんだ。

 地球では不登校気味で引きこもりだった。

 仕事で忙しかった父さんや母さん、放任主義な姉さんや兄さんや祖父母にもどこか見えない壁のようなものをひいていた妖の遊び相手になっていたのが近い立場である僕だった。


「「「きゃああっ! シンさまぁぁっ! こっち向いてくださぁ~いっ!!」」」

 

 女子生徒達から僕に熱烈な声援が送られる、恥ずかしいけど手を振ってみる。

 幅広い能力を有する僕の家族の中で、魔法使いといえるのは祖母と妹だけだ。祖母は理由あって中々時間が取れない為に必然と魔術指南はもっぱら妹の仕事だった。


「……お兄ちゃん見ててっ!! 『遥か地核に棲みし炎獄の祖たる帝、我が名に応え灼熱の柱を生み出さん』!」

「皆さん! 炎の柱が舞い上がります! 端に避けて!」


 妖が呪文を唱え僕が避難勧告すると、演習場の地面から次々と炎の柱が立ち昇った。生徒や教師は悲鳴を上げて言われた通り端に避難して難を逃れた。


「シっ……シン様っ! 非常に申し訳ないのですが妹君に少し威力を弱めるようにっ……!」

「あっ、すみません! わかりました!」


 僕は妖に魔術を止めるよう宥(なだ)める。

 妖は僕の言う事以外に耳を貸さない、そして家族以外に対して非常に攻撃的だ。家族の中で唯一、インフィニティグランデがファンタジーな異世界と理解している妖だったが……それ故に周囲が敵に見えて仕方ないらしい。

 拗らせた中二病、顕現した独特な魔術、引きこもりゆえの他者との壁が化学反応を起こした結果が……制御も理解も叶わない魔法使い【狂乱魔術の妖精王】の誕生であるというわけだ。


 もうおわかりかと思うが僕が一緒に呼ばれた理由は通訳であり、妖を唯一止められる最強の存在という触れ込みが魔術界にも蔓延しているからである他ならないが、先ほど見せた通りもう1つ理由がある。

 それは妖の能力に起因する、妖の魔術は【妖が発した中二病言語とイメージに対応するものが顕現する】というデタラメ極まりないものだからだ。

 魔術界では中二言語は一切理解できないものらしい。僕らの言語である日本語はインフィニティグランデでは何故か自動通訳されているが、中二病言語は不可解な詠唱にしか聞こえないらしく賢者でもお手上げの代物。故にーー理解しているのは僕と妖しかおらず(家族みんなも理解していない)……安全装置みたいな役割も任されているのだ。


「あっ……ありがとうございますシン様っ! 強大すぎる妹君の力はやはり学べるような代物では無い……私共には身に過ぎた能力……妖精王様の怒りは最も……この場で焼き尽くされても仕方なかった……しかし、慈悲深きシン様は私共に『これを教訓とせよ』と生かしてくれたのですねっ!? 皆、今日の演習は終わりだ! シン様に感謝し日々訓練に励むこと! シン様! 報酬はこちらですっ! ではさようなら~っ!!」

「あ……………はい、もうそれでいいです……」


 物凄い拡大解釈をして学院の皆さんは一目散に演習場から退避していった。毎回どこへ行ってもこんな感じで申し訳なくなってくる。


「妖、駄目じゃないか……最初は簡単な魔術にしろって言ったのに……」

「………だって。女生徒がお兄ちゃんに色目を使ったから……お兄ちゃんは私のだもん……私の方が凄いって見てほしくて……」


 妖の弁に僕は反省する。

 調子に乗って安易に手を振り返したりなんかしたからヤキモチを妬いた故の行為だったようだ。

 強大な魔術を扱おうが、そのしおらしい姿と所作はただの女子中学生であり僕達の愛らしい妹のそれだった。

 守ってやらなければーー僕は再度そう誓う。男として、兄として、家族として。


「大丈夫、誰よりも妖が凄い事は知ってるし、僕はいつだって妖といる。お兄ちゃんだからな、じゃあ帰ろうか」

「……うんっ! 怖いから手ぇ繋いで! それじゃあ行こう! 『悠久の狭間にて時と空間を統べし時空の番人よ、我が帰りし地への次元を開きたまへ』」


 妖が詠唱すると、僕らの目前にはブラックホールみたいな空間が出来上がる。これは潜り抜けただけで家に帰れる空間魔術。21世紀の未来道具よろしくどんな場所にもひとっ飛びの便利な魔術だ。


 うん、僕いらないなこれ。便利すぎるし滅茶苦茶すぎるし出鱈目すぎる。

 深淵の闇へと手を引かれながら、改めて我が最強の妹の凄さを知るのであった。

 

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・現在までに判明しているステータス

◇【樹山妖精王】 LEVEL24385691

 ・種族【ヒューマン】・年齢14歳

 ・クラス【魔界神】レベル

 ・HP 62254563/62254563

 ・MP 99999999999999999999999999

 攻撃C 防御A 敏捷S 精神S

 魔力【狂神】

 スキルⅠ〈思想顕現(われおもうゆえにわれあり)〉

 ・自身の思うままの魔術を詠唱(ちゅうにげんご)に乗せて発現できる。制約や反動はなく詠唱が済めば防ぐ術もない。

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