第9話 絶対不倒(ねえさん) 【樹山殲風】
僕、樹山森は現在……ギルドへの依頼(クエスト)で王国内地方にある村に来ていた。依頼は【村の護衛】だ。
その村の周辺に山賊が根城を築いたらしく、その山賊達がに村に護衛料(みかじめ)なるものを徴収しに来たらしいのだ。
無論、村長は突っぱねようとしたが……その山賊達は『村人達よりちょっとだけ強い』らしく村のために逆らえないとのことだった。ファンタジー系の漫画やゲームに通じていればよく聞くような依頼だけど『村人よりちょっとだけ強い山賊』なんてワードが出るのはこの世界だけだろう。
通常であれば地方領主や衛兵が何とかするような仕事だけど……何故か依頼は僕らのギルドにきた。それはこのギルドがクエストを【国内の依頼は一日で即解決。達成率100%】を売りにしているからだろう。現にこの村はギルドから馬車でも3日かかるくらいの距離なんだけど、【殲風】姉さんは僕をおぶりながら32分で走破した。
国内外問わずーーひっきりなしに依頼(クエスト)が来るために僕ら(主にみんな)は大忙しだ。取捨選択も必要だ、とセリカには言われるけど……僕は困っている人がいる頼みを差別化するなんてできない。そんな僕の我が儘で苦労するのは家族みんなで本当に申し訳ないんだけど(本人達は行ってすぐ終わらせるので苦労とは思ってないみたいだけど)それでも見捨てる事はできない。
だから……いつか家族みんなに報いたいーー恩返しをするために強くなりたいという僕の願いも相まってどんな無茶苦茶な難易度のクエストにも僕は同行させてもらっている。
今回のクエストは僕と殲風姉さんの二人きり。みんなは別のクエスト中。
村に着いて村長に根城としている洞窟の場所を聞いてそこに来たまではよかったけど……現在、絶体絶命中だった(言うまでもなく僕が)
「ぉ……おい……こい……この方達……【絶体不倒のセンプウ】さんと【不動のシン】さんじゃねえか! まさかマスター自らあんな辺鄙な村のために動くとは……!」
「ひ……怯むんじゃねぇ!! 【アース・オブ・ファミリー】が出張ってくるのは想定のうちだろうが! 俺達は古代の秘宝を偶然手にできたんだ! 射た者の動きを絶対に奪うというカーズシリーズの一つ【呪いの矢】をなっ!!」
山賊達の言のとおり、殲風姉さんは矢に射られ動きを封じられていた。
「ちっ、あたしもヤキが回ったな。こんなもんに当たって動きを止められるなんてよ」
姉さんは平然としながらも本当に動けないようだった。正確には射られたわけではなくーー罠として山賊達の手によって地面に埋められた矢の先を踏んづけてしまっただけなんだけど……。
この世界に眠る様々な秘宝やアイテムには本当に信じられない物が数多くある。カーズシリーズと呼ばれる呪い系の秘宝もその一つだ。最強である姉さんにその効果を生じさせているのが何よりも物語っている。
と、いうわけで総勢60人くらいいる山賊に僕と姉さんは取り囲まれてしまっているのだ。
「こっ……この後はどうすんだっ!? センプウの動きは封じたけど……まだ不動のシンさんがっ」
「うろたえんなっ! まずは動けないセンプウに止めをっ……」
「ーーおいコラてめぇら。アタシのことは何度殺したってかまわねぇ……けどな、シンに手ぇ出したら……どうなるかわかってんな?」
山賊達の動揺は姉さんの圧倒的な覇気に掻き消される。
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
それは絶大な効果だった、姉さんを『恐れるあまり』に山賊達は隙だらけの僕を無視して一斉に姉さんを攻撃するくらいに。
「がはっ……ぐふっ……」
「姉さんっ!」
数人に剣や斧で刺され抉られ、姉さんは大量に血を流す。たとえ大丈夫だとわかっていても……その光景は何度見ても慣れるものじゃない。
何で大丈夫ってわかるかって? 勿論、これまでにも何回も経験しているからだ。姉さんは何をされても『絶対に倒れない』んだ。
「…………あー、慣れてきた慣れてきた。この動けなくなるやつ……結構ヤバそうだったけどなんてこたねーな」
意外にも家族の中で一番血を流しているのは僕ではなく姉さんだ。というより……恐らく人類史の中でも一番血を流しているのが姉さんだ。
それが姉さんの最強たる証だから。姉さんの強さは父さんや母さんのようなわかりやすい強さとは異質で……おもに【根性】のみで成り立っている。
地球にいた時からケンカっ早く、ヤンキーだった姉さんは何かあるとすぐにケンカしていた。けど、決して強かったわけじゃなく……しょっちゅう怪我していた。だけど絶対に倒れなかった。
しかも傷の治りが早く痛みを学習していた。ナイフで刺されても2日で完治し、更に次の日同じようにナイフで刺されるとわずか数時間で完治した。
【倒れない】し、【治りが早く】て【痛みを学習】する。それがこの世界で更に開花(ファンタジーか)する。
溶岩に呑み込まれ、細胞レベルで消滅しても翌日には戻ってきた。次の日には溶岩で泳ぐ事も可能になり、父さんと競争していた。姉さん曰く、全部根性でどうにかしているとの事だ。
【無敵ではないが絶対に負けない】、それが僕の姉【樹山殲風】だ。
「おらおらーっ!! さっきまでの威勢はどうしたーーっ!! あははははっ!!」
「ぎゃあああああっ!!?」
ヤンキー街道絶賛まっしぐらの姉さんだけど、それは全部僕が原因だ。昔からナヨナヨしていて弱気だった僕はイジメの対象だった。それをずっと姉さんは守ってくれていたんだ。そうしている内に自然と他のヤンキーに目を付けられ……僕へのイジメが止んだ後でも姉さんはずっと絡まれ続けていた。
それを僕はずっと気にしていた、当然だ。僕のせいで姉さんは修羅の道を選ばざるを得なかったのだから。
『ーー違うぞシン、アタシがこの道を選んだんだ。アタシは自分の道は自分で選ぶ、誰にも口出しさせねー。アタシがこうしたかったんだ、だから気にすんじゃねー』
かつて血まみれになった姉さんが泣きじゃくる僕に言った言葉が鮮明に蘇る。まだ八歳だった僕でもわかった、全部僕のために見せた強がりだったって。
だから僕は思うんだ、強くなろうって。誰よりも最高で最強の姉さんを今度こそ僕が守るんだって。
「あははははっ!! 楽しーなー!! もっと殴らせやがれ!」
「………」
気がつけば辺りは戦争跡みたいになっていた。山賊達はもの言わぬ屍になっている。
うん、たぶん、僕に気を使ってくれたんだ……よね?
----------------------------
・現在までに判明しているステータス
◇【樹山殲風】 LEVEL89337564
・種族【ヒューマン】・年齢18歳
・クラス【鬼修羅】レベル
・HP 17005636225456/17005636225456
・MP 6753/6753
攻撃SS 防御A 敏捷S 魔力A
精神【不屈】
スキルⅠ《絶対不倒》
※どのようなダメージを受けても必ず完治する。即死レベルのダメージも自然再生する。そして同様のダメージを受ける度に耐性を身に付けていく。溶岩は克服済。
----------------------------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます