素晴らしいペット

 よお、次は俺の番か。なあ、お前はペットか何か飼っているか? 


 ペットショップでも、引き受けたものでも、何でもいいけどさ。拾う場合は注意した方がいいかもな。


 俺の友達は、得体の知れない生き物を拾ったんだ。その話をするよ。


 俺の友達は近所に住む女の子だ。まあ、幼なじみってやつだよ。幼稚園の頃からずっど一緒さ。帰る道が同じだから自然と一緒に帰るようになっていたんだ。


 ある日彼女の母親が行方不明になってしまったんだ。家族旅行で山登りに行って、母親が遭難してしまったのさ。母親は見つからなかった。彼女はすごく塞ぎ込んでしまったよ。情けないことに、俺はなんと声をかければいいのかわからなかった。


 彼女はしばらく学校を休んだよ。彼女の家に行っても、出てこなかった。部屋にこもっていると彼女の父親に言われたよ。


 一ヶ月後、彼女が俺の家に尋ねてきたんだ。学校に行こうと誘いに来たんだ。彼女の顔はとてもすがすがしい顔をしていたな。なんというか、すごく元気なんだ。良かったと思う反面、不思議だったよ。なんでこんなに彼女が元気なのか。


 登校中に彼女が訳を話してくれたんだ。とても素晴らしいペットを飼い始めたって。彼女の家の前に現れて、ずっと側にいてくれるんだとさ。涙を流すと、頬をペロペロと舐めて慰めてくれると嬉しそうに話していたよ。


 俺は犬か猫を飼ったのかと思ったんだ。それで彼女が元気ならそれでもいいと思ったよ。彼女は俺にそのペットを見せてくれるって言ったよ。俺は学校帰りに彼女の家に行ったんだ。


 当たり前だけど彼女の父親は仕事で家にいない。俺と彼女の二人きり、少しドキドキしたな。彼女は自分の部屋に俺を招いたよ。


 ドアを開けると、彼女の部屋の半分を占領するサークルと、床に散らばったおもちゃがあったんだ。彼女の部屋でペットを飼っているのか。置いてある物から、犬を飼っているのかなと思ったんだ。


 でも、肝心の犬がいない。見知らぬ俺が来たから警戒しているのかと思ったよ。


 彼女は何もないサークルに手を伸ばして「ただいま! 寂しかった?」と声をかけるんだ。俺もサークルに近づいたよ。でもなにもいないんだ。


 俺は彼女に聞いたよ「お前のペットはどこ?」って。彼女は俺を不思議そうな顔で見たよ。サークルの中の何かを抱えると、彼女は俺の方に向いたんだ。

「何を言っているの? 見てよかわいいでしょ?」と彼女は何もない空間を愛おしそうに撫でるのさ。


 俺はその時、彼女は母親を失ったショックで妄想のペットを飼っていると思ったよ。彼女は硬直する俺の右腕を掴んで引き寄せたんだ。


「ほら、触ってみてよ」


 彼女に言われるままにしたよ。抵抗したら、彼女を傷つけてしまうと思ったからな。妄想に付き合うことにしたんだ。


 でも、手を伸ばした先に何かがいたんだ。何もないはずなのに、生ぬるい感覚とぐにょぐにょとした感触が。じわじわと俺の右腕に侵食するんだよ。俺は慌てて手を引き離したさ。


 彼女は「ね? かわいいでしょ?」とずっと何かを撫でていたんだ。


 俺は恐ろしくなって逃げるように彼女の家から出て行ったよ。


 次の日、彼女は死んだ。父親も一緒に。彼女の遺体は骨だけで見つかったよ。新しい骨さ。肉だけを食い荒らされたような形で見つかったのさ。彼女のペットはどうなったのか知らないよ。彼女の妄想かもしれないし、俺には姿が見えないんでね。


 彼女が死んだ後、俺はショックで塞ぎ込んだよ。ずっと一緒だった人が急にこの世からいなくなるなんて信じられなかったんだ。もっと彼女を支えてあげれていたらと後悔ばかりしたさ。


 そんな俺にも心の支えになるものが現れたんだ。家の前で待っていたかのように現れて、ずっと俺の側にいてくれるんだ。


 ほら、ずっとお前の隣にいるだろう? すごくすごくかわいいペットさ。撫でてあげてくれないか?                                            

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