詐欺の恐怖

 次は私だね。怖い話しね。私は怖い体験なんてしたことないのよ。

 うーん、私のおばあちゃんから聞いた話でもいいかしら。


 ある悪い男がいたの。人を騙してお金を奪う詐欺師よ。

 あらゆる手段で手に入れた情報を駆使して、お金持ちからお金を奪い取る悪者。その男には仲間がいて、複数人のグループだったわ。


 その詐欺グループはある家を狙っていたの。山奥にぽつんとある豪邸。なんでも昔の華族の屋敷と噂されていて、現在は1人のおばあちゃんが住んでいるという情報があったのよ。屋敷は古くても手入れが行き届いていて、漆塗りの立派な建物だったの。


 詐欺グループたちは、次のターゲットに狙ったわ。山奥に住むおばあちゃんひとり。周りに家もないし、人も滅多に来ない。仕事はひとりでも十分だろうと、下っ端のひとりに任せたわ。

「屋敷についた」その連絡を最後に、下っ端の者は帰ってこなかったの。


 逃げたのか? 男はそう思ったわ。怖じ気づいたのか、お金を独り占めするために逃げたのか。それを確認するために、男は手下を連れて、ふたりで屋敷を訪れたの。


 行く途中は、人にも車にも出会わなかった。暗い山道をぐねぐねと車で向かい、やっと屋敷に着いたわ。窓には明かりが付いていたの。あの下っ端は仕事をせずに逃げたんだ。男は逃げた者をどう始末しようかと考えつつ屋敷に向かったわ。このまま、屋敷の金品を奪い取ろうと企んだのね。


 男は綺麗なスーツに着替えると、チャイムを押したの。すぐに中から白髪のおばあちゃんが出迎えてくれたわ。


「別域銀行の者です」


 男はでたらめなことを言って家に上げてもらったの。おばあちゃんは快く招いて、お茶とお菓子を用意してくると台所に向かっていったの。


 男はテーブルの前に座って部屋を見渡したわ。高そうな骨董品がたくさん置いてあって、いかにもお金を持っていそうな雰囲気。男は舌なめずりをしたわ。おばあちゃんを気絶させた後にゆっくりと物色しようと。誰もいない山の中で時間はたっぷりあるものね。


 お茶とお菓子をもったおばあちゃんが戻ってきて、男は真面目な顔に戻したわ。せっかく用意してもらったし、腹ごしらえにいただこうとお茶を飲んだの。


 おばあちゃんはにこにこした顔で世間話を始めたわ。この屋敷は昔、宿をしていたことをね。


 昔は旅の途中のお客さんが来てくれたけど、今はめったに人が来なくて寂しいと。そして、久しぶりに人が尋ねてきてくれて嬉しいと話してくれたの。男は適当に相づちを打ったわ。興味があるのはお金で、おばあちゃんに興味はないものね。おばあちゃんの相手は手下に任せたわ。


 手下はおばあちゃんに聞いたの。「最近、俺たち以外に誰か尋ねてきましたか」って。下っ端の者がここに来たか確かめたかったのね。するとおばあちゃんは答えたの。


「ええ来ましたよ。ご馳走したわ。いいわね。若い人はたくさんお肉を食べられるから」とにこにこしていたの。


 下っ端はここに来た。で、おばあちゃんに手厚く迎えられて何もせずに帰った。男は呆れたわ。最近の若者は使えないと。


 お茶も飲んだし、お菓子も食べた。そろそろ頃合いかと、手下に合図をして立ち上がろうとしたわ。でも、体が動かなかったの。足がしびれたとかじゃない。石のように重かったのよ。ぐらぐらと視界が揺れ出して、意識がもうろうとしだしたの。目の前のおばあちゃんがにたりと笑っている顔を見て、男は意識を失ったわ。


 男は頭痛と吐き気で起きたわ。そして、すぐに異変に気が付いたの。目を覚ました場所は、おばあちゃんの屋敷。でも景色が逆さま。体は縛られて身動きがとれず、ゆらゆらと勝手に揺れていることから、男は自分が逆さまに吊されていることに気が付いたわ。


 逆さまの視界の中で、おばあちゃんが目の前に立っていたの。おばあちゃんは白い割烹着を着て、手に包丁を持っていたわ。男は何が何だかわからず、おばあちゃんを見ていたの。


 そして、自分の右隣から、ポタ、ポタと雨漏りのような音が聞こえてきたの。男は右を見たわ。


 そこには、手下が自分と同じように逆さまに吊り下げられていたの。真っ青な顔をしてね。目を大きく開いて、口をだらしなく開けて。首から一筋の血を流して。


 落ちた血は波紋を広げて、タライに溜っていたわ。名前を呼んでも手下は反応しない。死んでいたの。


 男はなんとかここから逃げようともがいても、抜け出せなかったわ。もがく男におばあちゃんが近づいてきて、耳元でささやいたの。


「大丈夫よ、絞めるのは得意なの。うふふ、今日も焼き肉ね」


 そういうと、おばあちゃんは手に持っていた包丁を振り上げたわ。男の意識はそこで途切れたの。


 どうかしら? これが私のおばあちゃんから聞いた話よ。


 え? 話のおばあちゃんと私のおばあちゃんは同一人物なのか?


 さあ、どうかしら? 


 じゅる……


 あら、失礼。あなたを見ていたらよだれが出ちゃった。うふふ……。                             

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