第4話 … 変態との壮絶バトル

「ほーら、言ったでしょ? 彼女、強そうでしょう?」


 阿部さんが鼻の穴を膨らまし、興奮気味に言う。


「まあ、強そうですけど……」



「いやぁ、それにしても凄いなぁ。闘神水を飲むとこうなるのか。初めて見たなぁ……写真撮って、後で村の連中に自慢しよ」


 阿部さんはスマホを取り出すと、茜を撮影し始めた。



「えっ? ちょっと待って。もしかして、その闘神水って、誰も飲んだ事がないんですか?」


 パシャパシャ撮ってる阿部さんが、こちらを見ずに口元を緩めた。


「……ははは。飲むわけないでしょう。あんな小便みたいなもの」


「えっ! ひどーい! それを飲ませようとしたんですか?」


「でも、これでクニマサと対等に、いや、それ以上に闘えるはずですから!」



 画像保存した阿部さんは、スマートフォンをポケットにしまった。


 そして、宙に浮かぶ茜へと近づく。



「さあ、茜さん、念力を使ってみて下さい」


「念力?」と茜。


「ええ、巨大な物体でも、自由自在に動かせる事が出来ます。持ち上げたい物に掌を向けて、念じてみて下さい」



 茜は阿部さんの言葉に従い、掌をかざした。


 手の先には、赤い三角コーンがある。


 茜がフンと唸ると、それは五メール程の高さへと浮かび上がった。



「わぁっ、凄い!」


 私は思わず叫んだ。



 茜も、驚きと嬉しさに満ちた顔をしている。


「では次に、クニマサをやっつける究極の技を教えますね」


「えっ、究極の技?」


 茜が阿部さんを見て、フッと力を抜いた。


 そのため、浮遊していた三角コーンが重力を手に入れて、落ちてきた。



 ——バコンッ‼︎



「ウギャー‼︎」


 三角コーンは見事に、阿部さんの頭に当たった。


 それも先端の尖った部分が、脳天に直撃したのだ。



「痛いぃ! 痛いぃぃぃ!」


 阿部さんは頭を押さえて、地面を転がり回った。


 茜は「あ、ごめーん」と、反省の色なし謝罪。



 私は悶絶する阿部さんへと駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか?」


「う、うーん……なんのこれしき……それより早く、究極の技を茜さんに教えないと……クニマサが帰ってくる前に……」



 涙目の阿部さんは、頭をさすりながら起き上がった。


「茜さん、ピストルのように人差し指を突き出してみて下さい」


「え? こう?」


 茜が人を指差すようにして、手を伸ばした。



「死神消滅ビーム、と叫んで、指先からビームが飛び出すイメージを持ってみて下さい」


「えっ? こう? 死神消滅ビーム!」



「ウギャーーーー‼︎」


 青い光線が、阿部さんへと命中した!



 バリバリバリッ!


 電流が流れ、阿部さんは前後に痙攣し始めた。



「あ、ごめーん阿部さん!」


「ごめーんじゃないですよぉぉ! なんで僕に向けるんですか……あう……ゥゥゥ……」




 ャ

   ァ

    ァ

     ァ

     ァ

      ァ

     ァ

     ァ

    ァ

   ァ

   ・




 阿部さんは炎に包まれると、最後はフッと灰になって消えてしまった。


 しーんと静寂。


 焦げ臭い中、私達は目を点にして立ち尽くした。



「し……死んじゃったね」と私。



 ——死んどらんわッ——


 阿部さんの声がした。


「あ、阿部さん? どこ?」と、キョロキョロする茜。



 ——僕は死神ではありませんから、この攻撃では死にませんよ。ただ身体が消滅してしまったので、元いた場所に帰ります。君達は協力して、なんとかクニマサをやっつけて下さいね——


「任せて、阿部さん!」


 茜が力強く拳を握った。



 ——頼みました……よ……——


 阿部さんの声が、遠退いていく。


 その気配が完全に消えると、茜は厳しい表情になった。



「阿部さんが消えちゃった……。許せない、絶対に許せない! カタキは、必ず取るからね!」


「いや、阿部さんを消したのは茜だよ……」





 その時だった。


 何処からともなく、真っ赤な風船が、フワフワと飛んできた。



「何これ? 何で風船が?」


 それは私の目の前で、ピタリと止まる。



 何気なく両手で、それを掴もうとした時——


 突然、膨張してパンッと破裂した。


 一瞬、鼓膜に痛みが走った。



 なぜかモクモクと煙が広がると、人影が浮かび上がる。


 姿を現したのは、やはりクニマサだった。



『キシシシ……』


「わわっ、出たぁぁ!」


 私は急いで、茜の背中へと隠れた。



 強くなった茜は腕組みをして、自信に満ちた声で宣言する。


「来たか、変態ジジイ! 今度こそ、ボッコボコにやっつけてやるからね!」


『はっ、ちょっと見ない間に、小娘が生意気になりおって!』



 クニマサは、全身に力を込め出した。


『どうやって文章を元に戻したか知らんが、この技を喰らえば、ひとたまりも無いぞい! 今度こそ、この小説は終わりじゃ! キシシシ』


 何か、とんでもない攻撃をしてきそうな気配があった。


『お前ら小娘が、最も嫌うものを出してやるぞい!』



 ……最も嫌うもの?


『それは、これだっ! くらえっ、ゴキ◯リ一万匹シャワー‼︎』



 ええっ、ちょっとー‼︎ 嘘でしょ‼︎


 クニマサが空に向かって、大きく口を開ける。


 すると口の中から、黒い霧が上空に放出された。



 ブワッ!


 途端に夜が訪れた様に暗がった。


 それは、ゴキ◯リの大群だ。



「うっぎゃあぁぁぁぁーーーー‼︎‼︎‼︎」


 ゴキ◯リの雨が降ってくる!



 私は両手を頭に置いて、しゃがみ込んだ。


「春香、心配しないでっ!」


「え?」


 力強い茜の声がして、片目だけ開いて見上げた。



 すると茜が上空へ向けて、両手を広げ叫んだ。


「チョコになれーーー‼︎」




 キラキラキラッ……!


 *・✳︎・*: *・✴︎・*:.。.:*・.*・✳︎・*: *・✴︎・*:.。.:*・.•.



 

 線香花火の様な綺麗な光が、視界いっぱいに広がると、ゴキ◯リはハート形のチョコへと変わった。


 バラバラッ!


 辺り一面に、チョコが落ちてきた。



 私は、ゆっくりと立ち上がった。


「凄いね茜、チョコに変えちゃうなんて」


「まあねー」と、茜は得意げな顔をした。



 あれ?


 茜がクチャクチャと、口を動かしている。



「何、食べてるの茜?」


「チョコだよ」


「ええっ‼︎ それさっきまで、ゴキ◯リだったんだよ!」


「でも美味しいよ。春香も食べなよ、ほら」


「いや、いいよ、いらないよ!」





『お、おのれぇ……‼︎』


 怨みのこもったダミ声がした。


 私はハッとして、クニマサに目を向けた。



『ワシの奥の手を……お菓子にしよって……。もう手加減はなしじゃ。二人とも、トマト潰したみたいに、グッチャグチャにしてやるぞい!』


「えっ、なんか凄い怖い事を言ってるんだけど……」


 私は再び、茜の背中に隠れた。




 クニマサは、サッカー用のゴールポストに向かって、手をかざししている。


 目測で高さは二メートル、横幅は五メートル程ありそうだ。



 グラッ!


 なんと念力により、その大きなゴールポストを宙に浮かせたのだ。



 だが、茜も負けていない。


 クニマサと同じように、念力で重そうな朝礼台を、宙へと持ち上げた。


 こちらは縦横、一・五メートルほどだ。



 パラパラと砂を落としながら、鉄製の物体が二つ、宙に浮かんでいる。


 その異様な光景に、私はゾクリとした。



『くらえっ!』


 先に攻撃を仕掛けたのは、クニマサだ。


 殺意に満ちたゴールポストが、猛烈な勢いで、私達に向かって飛んでくる。



 茜も、朝礼台を投げつけた。


 同じく、猛スピードだった。


 ゴールポストと朝礼台が、空中で激しく衝突する。



 バキーン‼︎‼︎ \\\\☆////



 耳をつんざく、金属性の硬く激しい音。


 その衝撃音が伝わって、私の身体は小さく揺れた。




 その後、ゴールポストと朝礼台は、つば迫り合いの様に一進一退の押し合いを展開した。


 砂塵を撒き散らしながら、ギリギリと鉄同士の軋む音がする。



『くっ、小娘の分際で……念力まで使えるのかっ……』


「負けるかぁ、ジジイ!」



 茜が、更に両手に力を入れると、遂に朝礼台が打ち勝った。


 クニマサの操るゴールポストが、弾かれたのだ。



 バキッ‼︎‼︎



 飛ばされたゴールポストは回転して、校舎の三階へと突き刺さった。




 \\\\ ドゴォォォォン‼︎‼︎ ////




 物凄い轟音だった。


 コンクリートの壁や、窓ガラスの破片が、バラバラと地上に落ちる。



「どうだっ、ジジイ!」


『まさか……ワシが、念力で負けるとは……』



「トドメは、阿部さん直伝、死神消滅ビーム!」


『な、なにぃ! 死神消滅ビームじゃとお‼︎』


 茜が人差し指を、クニマサに向けた瞬間だった。



『た、助けてぇぇぇぇ! もう悪さしないからぁぁぁ!』


 クニマサは突然、土下座をすると地面に額を擦り付けた。


「えっ?」と、茜の力が緩んだ。





つづく……


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