第16話
その後ろ姿に目を向けながら、ディジャールは何かを考え込むように黙って口元に手を当てた。
明らかに何かしらの力がかかった現象であると、彼の勘がそう言っていた。このタイミングで、ドワネスフの力を借りられないということに、どこか引っ掛かりを覚えたのだった。
ドワネスフの技術を国内に封じ込めようとしているのではないか。これが、主人の話を聞いて第一にディジャールが思いついたことであった。
この国の技術は、他国に広まることによって、世界的に大きな発展をもたらした。産業革命があったときは光の如くその技術が他国にもたらされ、それが多くの人命を救ったこともある。それだけドワネスフの技術は、多くの国にとって重要なものだった。
(……クリミズイ王国もそうだったじゃないか)
ディジャールは、ふと、クリミズイ王国の医療が、ドワネスフの技術を多く活用していることを思い出した。そしてそれが最先端のものであり、他国では真似できないほどの医療革新をもたらしたということを。
当時は不治の病と言われていた結核も、クリミズイ王国では治ると言う。それもまた、ドワネスフの協力あってのことに他ならない。
(まさか、クリミズイ王国の医療技術を発展させないために、わざわざ詐欺行為をさせた、と……?)
思えば、クリミズイ王国にかけられた呪いは、病に似た形で人命を奪っていた。それは恐らく、人々に「呪い」を「病」と勘違いさせることにあるのだろう。勘違いさせることによって対処を遅れさせ、あわよくば国民全員の命を奪う。そういうことであろう。
しかし、病に対する医療技術が高いクリミズイ王国だ。万が一にも、その病に対する薬か治療法を編み出してしまうかもしれない。
もしもクリミズイ王国の惨劇をドワネスフが知ったらどうなるか。明確だった。またその技術をもたらして、医療革新をするに決まっている。そしてそれによって病の侵攻が遅れでもしたら、誰かがそれが「病」ではなく「呪い」であるということに気がつくのも時間の問題であった。
(それでドワネスフの技術を封じ込めようという算段か)
そう考えたところで、鍛冶屋の主人が何本かの短刀を持って帰ってきた。ディジャールは思考をひとまずやめ、主人のセールストークに耳を貸すことにした。
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