第30話 類は愛を呼ぶ
「翔利君翔利君」
「何?」
「お付き合いってなにをするんですか?」
結婚を前提にお付き合いをするという言葉を聞く事があるが、自分がその立場になって思うのはなにをしたらいいのかわからないという事だ。
昨日は華に宣言しろと言われて言ってはみたけど、なにをすればいいのかはわかっていない。
「とりあえず検索する?」
「それはしました。そしたらデートをして手を繋いだり、あわよくばキスをしたりといった感じなんですけど、してるんですよね」
「そうだね」
デートは一度だけ散歩をした事があって、手なんかはほとんど毎日のように繋いでいて、キスも昨日した。
「一緒に下校するとかは絶対にしますし、最終的に家族に挨拶もしてます」
「付き合うって難しいんだね」
「そこは多分付き合う前から付き合ってるみたいな事をしてるところに違和感を持つとこです」
「つまり俺達じゃ解決できない事って訳ね」
「あ、翔利君が大変な事を思いつきました」
別に変な事は思いついていないはずだが、確かにいい事は思いついた。
「じゃあデートの次いでにやります?」
「うん。連絡する」
そう言って翔利は紗良と新に連絡を入れた。
「という訳で、どうしたらいいと思う?」
「それを私に聞くあたり翔利なんだよね」
紗良が少し不機嫌になりながら翔利に軽くデコピンをした。
「まぁ翔利だしね」
そう言って手招きしてきた怜央にもデコピンされた。
「俺もやっとく?」
「新にはされる筋合いないからやだ」
「確かにないけど」
「それで付き合うって何するの?」
新を無視して話を続ける。
「まず付き合うって事を聞いてないけど? 知ってたけどさ」
「紗良はそこまでわかるんだ」
「いや、気づいてないの翔利だけだったから」
「俺は認めない」
なんとなくそんな気はしてたけど、認めたら負けだから認めない。
「そもそも人選も悪いでしょ。私は人と付き合った事ないし、好きになったのは翔利だけだし」
「僕も」
「俺は紗良に片思い中だね」
「じゃあ付き合ったらなにがしたい? で」
翔利としても酷い事をしてる自覚はあるけど、背に腹はかえられない。
「翔利とって話なら毎日……かな」
紗良の発言に新と怜央がバッと視線を向けた。
「聞こえなかった」
翔利には何故か聞こえなかった。
「そりゃ瑠伊が翔利の耳を押さえてるからね」
そう言われて翔利は自分の耳に手を当てる。
「されてないよ?」
「瑠伊は過保護すぎなんだよ。たかが……ぐらいで」
また肝心なところが聞こえなかった。
「的確にやるな。面白くなってきた」
「紗良、やめなよ」
「声は抑えてんじゃん」
「そういう事じゃなくてね」
新がちらちらと翔利の背後を見ながら言うが、紗良はニマニマとして楽しそうにしている。
「……とか……とかって翔利だって知ってるでしょ。だいたい……はいつかするんで……、なんでわかんのさ!」
「紗良ほんとに」
「紗良さんこっちに来なさい」
「ほんとにやばいじゃん」
瑠伊の敬語が抜けたとても冷たい声が背後から聞こえる。
「来なさい」
「あ、はい」
なんだか振り向いたら駄目な気がしたから退避しようとしたら瑠伊に肩を掴まれた。
「翔利君は私から離れないでください」
「はい」
反抗は悪手だと思ったのでその場に留まる。
背後では瑠伊が何かを言っているようだか耳を塞がれていてなにを言っているのかはわからない。
新と怜央の顔を見ると引き攣っているので多分やばい事だ。
「終わりました」
「瑠伊、さん。翔利、に、慰め、て貰っても、いい、ですか?」
背後から紗良の涙声が聞こえる。
「駄目ですけど?」
「ほん、の少しで、いいんです」
「翔利君を汚そうとした紗良さんは許されません」
瑠伊の声が冷たく少し怖い。
「瑠伊」
だから翔利はそんな瑠伊を元に戻したく立ち上がる。
「なんです……か?」
翔利が瑠伊のおでこに自分のおでこをくっつけた。
逃げようとする瑠伊を翔利は抱きしめて離さない。
「虐めたら駄目。瑠伊が優しい子じゃないって思われるの嫌」
「あの、ちが、その」
瑠伊の目がキョロキョロとして言葉と一緒に閉じられた。
「紗良を泣かせてごめんなさいは?」
「……紗良さん、ごめんなさい」
「えと、こちらこそすいませんでした」
仲直りが済み、一件落着なのだが、翔利は瑠伊から離れない。
「翔利君、離れていただく事は?」
「瑠伊の顔を間近で見てたらキスしたくなった」
「だ、駄目です。昨日は我慢したじゃないですか」
「我慢した分のが今来た」
昨日は一緒には寝たけど、お互いに自制が効くかわからないという事で手を繋いだだけで済ました。
だけど翔利の抑えられた欲求が間近で瑠伊の顔を見たせいで爆発しそうになっている。
「止めてくれる人は居るよ?」
「そういう問題ではないです。私はまだ人前では恥ずかしいんですよ」
「帰ったらいっぱいしよ」
そう言って翔利は渋々離れた。
「私、帰ったらなにをされるんですか……」
「楽しみ」
「私達はなにを見せつけられてんの?」
すっかり涙が引いた紗良が呆れたように言う。
「見せつける為に呼んだの?」
「付き合うについてだよ。新はないの?」
「俺は普通だから参考にならないよ」
「普通を知りたいんだよ」
「翔利達には参考にならないんだよ。デートしたいとか、手を繋ぎたいとか、あわよくばキスとか」
新が言ったのは朝話した事だった。
「全部やってるでしょ?」
「やってる。けどそれが普通の付き合うなんだよね」
「つまりさ、翔利と瑠伊はそのままでいいんだよ。元から付き合ってたって思えば」
怜央がそう言って笑顔を向けてくれた。
「強いて言うなら今までよりもスキンシップが過剰になるぐらいじゃない?」
「なるほど」
それを聞いた瑠伊が肩を震わせた。
「実際付き合うって結婚する準備な訳じゃん。本当にこの人で大丈夫なのかって見定める感じの。だから翔利と瑠伊の場合は付き合う過程が必要ないんだよ」
紗良が自分の座っていた椅子に座り直して足を組みながら言う。
「じゃあ普通でいいって事か」
「そうそう。翔利は可愛い瑠伊を毎日見てるだけでいいの」
「役得」
「今日が山場ですかね……」
瑠伊が顔を赤くして翔利の隣に座る。
「そういえば怜央はあるの?」
「付き合ったら何したいか? まぁ僕は散歩が出来ればいいかな」
怜央が自分を指して「こんなだし」と笑顔で言う。
「後、介護してくれる人なら完璧かな」
「翔利君は駄目ですよ」
「わかってるよ。でもそれなら……」
怜央が何かを企んだような顔で瑠伊の手を取る。
「瑠伊でいいんじゃない?」
「え?」
「散歩してくれそうだし、翔利で介護にも慣れてるだろうし」
「怜央嫌い」
翔利が瑠伊を抱きしめて怜央に威嚇する。
「シンプルに傷ついた。自業自得だけど」
「翔利君は独占欲強いですから」
瑠伊がとても嬉しそうに言う。
「瑠伊が言えるのか?」
「類は友を呼ぶ……類は愛を呼ぶ?」
新が独り言のようにボソッとそう言った。
「まぁ似た者同士ではあるか」
「独占欲が強いとことか、嫉妬しすぎるとことか、過保護なとことか?」
「後は好きな人には甘えたがるとこと、お互い離れたら禁断症状が出るとこも」
紗良と瑠伊が翔利と瑠伊の似てるところを挙げていく。
「恋に盲目なところもか」
「好きな相手しか目に入らないからね」
「もうやめてください」
瑠伊が顔を押さえてうずくまる。
翔利はその背中を優しく撫でる。
この小さな背中を守る為に翔利はこれから頑張っていく。
その手始めに。
「二人とも」
「なんだ? 嫁を助ける為に怒るのか?」
「僕達は負けないよ」
「瑠伊の可愛いところは俺が一番知ってるし」
瑠伊に関しての事なら負ける訳にはいかない。
「張り合う方ね。ご愁傷さま」
「翔利だもん」
「瑠伊はね……」
翔利の言葉は物理的に閉ざされた。
周りからは呆れた視線が飛んでくる。
翔利はそれを真正面から受け入れて抱きしめ返した。
その日の夜はめちゃくちゃ愛し合った。
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