第23話 朱里ちゃんの初仕合

 朱里ちゃんと隊長がそれぞれ木刀を持つと、格の高そうな鎧を着た女性騎士が中央に進み出てきた。

『では姫様からのご指示があったので、僭越せんえつながら近衛隊長の私が審判をさせて頂く。仕合の終了は、私が止めるかどちらかが参ったと言った時とする。宜しいか?』

『おう』

『はい』

『ではお互いに正々堂々と勝負するように』


そう言うと女性の近衛隊長は数歩後ろに下がり、朱里ちゃんと隊長も少し離れた後お互いに礼をすると、それぞれの木刀を構えた。


「はじめ!」

近衛隊長が叫ぶと、


隊長が踏み出しと同時に背中の羽を羽ばたかせ、瞬時に間合いを詰め、ブンッと木刀を振り下ろした!


…速っ!俺が目で追うのもやっとのスピードに驚く中、朱里ちゃんはさっと横に移動すると共に、カウンターで横薙ぎにシュンと木刀を振っていた


隊長はそれを体を真横にする程傾けてかわすと、羽を羽ばたかせ傾けた方向にスライドするように朱里ちゃんから離れた


…うわっ人間ではあの避け方はできないよなぁ朱里ちゃん大変だ…と思っていると、朱里ちゃんは間合いを開けようとする隊長にダッシュで追い付き、叩き落とすようにザンッと鋭く斬撃を放った


体勢が不十分な隊長はそれを何とか弾き、体勢を立て直すために、後ろや左右に羽の推進力を使って鋭角に素早く動き離れようとするが、朱里ちゃんが離れず追いすがり、ガッガッガッと息もつかせぬ連撃を放って隊長を追い込んでいった。


…スピードは朱里ちゃんが上回っていそうだな


さらに体勢を崩した隊長に、朱里ちゃんがビュンと袈裟懸けに振り下ろした!

これは決まった!と思った瞬間に隊長が手を横に伸ばし何かを叫ぶと、隊長の体は手を伸ばした方向と反対にブオッと動き、朱里ちゃんの木刀を紙一重で躱していた。

躱された朱里ちゃんは間髪入れずに踏み込みながら振り下ろした木刀を斜めに跳ね上げ、すくい上げるような一撃を放ったが、隊長はこれをガシッと木刀で受け止め、その反動も利用して空に飛び上がり、朱里ちゃんの手が届かない上空で一息ついたのだった。



『かっかっかっ、まさか躱すのに魔法を使わされるとは、やるなぁ!じゃあちょっと本気を出すかな!』

そう言って隊長が呪文を唱えると、隊長の体はオレンジ色の光に包まれた


あれは身体強化魔法か!?


『いくぞ!』

掛け声とともに、隊長が目にも止まらぬ速さで朱里ちゃんに突っ込み、間合いに入る寸前でフェイントを入れて横に飛び回り込むように移動すると、俺は一瞬隊長の姿を見失っていた。

そのスピードに乗ったまま、隊長が朱里ちゃんの周りをハリケーンのように飛び回りヒット・アンド・アウェイを繰り返して斬撃を行うと、朱里ちゃんはその猛攻に対して防御に徹して耐える形になった。

朱里ちゃんは徐々に押し込まれながらも、攻撃をまともに受け止めるのではなく受け流して力の方向を誘導することで、ダメージの蓄積を抑え、相手の体勢が崩れるのを狙いながら、反撃の機会を伺っているようだった。


 そうして10数回目の隊長の攻撃を朱里ちゃんが受けようとした時、木刀同士がぶつかる瞬間に隊長が片手を木刀から外して叫び、手から風を生み出して横にスライドした。

そして、意表を突かれてバックステップで逃げようとする朱里ちゃんの、攻撃を受けようとして前に延びていた腕に対して、隊長は木刀をブンッと振り下ろした


あれは木刀ごと引き戻すには深すぎる!間に合わない!


すると朱里ちゃんはパッと木刀から手を離していた


武器を手放した朱里ちゃんに対し、勝利を確信しニッと口角を上げた隊長は

『ハァッ!』

と気合いと共に木刀を振り抜いていた!


しかし朱里ちゃんはその瞬間、避けるのではなく何と、重心を落としながら前に踏み込み、

『セアァッ!』

と全体重を乗せた掌底を突き出していた!


二つの掛け声が響いた結果、木刀よりも先に朱里ちゃんの掌底が届き、

『うそーーーんっ』

という声を残して隊長がごろごろ吹き飛んでいた。



 続けて木刀を拾い直した朱里ちゃんが追撃しようと駆け出すと、朱里ちゃんの目の前の地面が光ったと思うと、ボンッと音を立てて噴き上がった!


急制動で何とか飛び退いた朱里ちゃんが着地する間に、隊長はユラァ~と立ち上がって朱里ちゃんを見据えていた


『ハハハッ、まさかここまでやるとは!面白い!ここは一つ全身全霊をかけて…』


と隊長が言い、呪文を唱え出すと、火の玉が5つ空中に現れ、どんどん大きくなっていって…


『かけるなアホゥ!』


という近衛隊長の声と共に、大量の水が隊長の上に降りかかり、火の玉が消え、隊長は

『うわっ…!ぁぷっ!』

という変な声と共に水に圧し潰されたのだった。


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