第24話 仕合後

 俺と朱里ちゃんは大迫力の落水と予想外の結末にあっけにとられていたが、姫様や周囲の観戦者は、予想以上の名勝負とコミカルな終わり方に、拍手喝采はくしゅかっさいしたり笑い声を上げたりして大盛り上がりだった。

 

 俺とリュノがいる方に戻ってくる朱里ちゃんに向かって、朱里ちゃんの名前を呼ぶ念話や、すごかったぞーとかの歓声念話が送られていて、凛としていれば綺麗な朱里ちゃんは、ある程度実力を認められ人気も得ているようだった。



 そんな中、近衛隊長はスタスタと地面に没している隊長の方へ行き、濡れネズミ状態の隊長を引きずって戻ってくると、こちらの手前にべちゃっと放り投げた。

『ぐえぇっ』


『アカリ殿、素晴らしい戦いであったな。感服した。私は近衛隊長のミズハ・アンミという。以後お見知りおきを。カズマ殿も含め、ミズハと呼んでくれれば良い。そして、このアホは攻撃隊長のダガトというが、迷惑かけてしまったな。申し訳ない』

近衛隊長のミズハはそう言うと頭を下げていた。


『いえミズハさん、頭をお上げください。安全に仕合を収めて頂きありがとうございました。あと私もアカリと呼んでください。

…それで、迷惑ということは全然なく、勝負については楽しかったですし、私が通用するか試したかったので、仕合をしてくれて感謝しかないです。

それに、ダガトさんも最初から魔法を使わずに、こちらに合わせた戦い方をしてくれていましたし』

『ふむ。それはこのアホが脳筋で近接戦闘が好きなだけってこともあるんだがな』

『それでも、手が届かない所から魔法を撃たれたらどうにもできないですし。それに皆さん魔法がメインですよね?実際のところどうでしょうか?』


『はっはっはっ、分かっているではないか。そうとも俺様はまだ実力の半分も…ぐぇ!』

にゅっと復活したダガト隊長が胸を張るが、ミズハ隊長にはたかれ、また沈んでいた。


『確かに私たちの種族は魔法がメインだし、身体能力に優れる種族には近接戦闘ではかなわない。とはいえ、このアホはスピードはかなり優れている方なので、身体強化もなしにあそこまで対応できるなら大したものだし、たいがいの相手なら通用すると思うぞ』

『そうなんですね。少し安心しました』


『しかもその若さでその実力ならまだまだ伸びるだろうし…若いよな?』

『はい、皆さんの若さの基準は分からないですが、17歳です』


『ということは、リュノの1つ下になるのか…はぁ』

『ミズハ姉さん?どうして私を見てため息ついているのかな!?』

…リュノの名前がリュノ・アンミだし、ミズハさんはリュノと同じ蒼い髪で、顔立ちもリュノをキリッと大人びさせた感じで似ているので、もしかしたらと思ったけど…やっぱり姉妹だったのか!

そしてリュノがわちゃわちゃと落ち着きなくミズハさんに突っ込みだしたけど…ため息はそういう所だと思うぞリュノ…



『それなら私と同い年になるのね』

外から鈴が鳴るような綺麗な声が聞こえたので振り向くと、姫様が微笑ほほえんで居た。


『これは気付かずに失礼しました』

慌てて姿勢を正すと

『良いのよ。楽にしてね。改めまして、私はフラウ・ノワ・フーリルと言います。よろしくね。それよりアカリさん、凄かったわ!同い年なのにどうやったらそんな風になれるの!?』

と目を輝かせて気さくに話かけてきた。

朱里ちゃんが答えようとすると、

『アカリさんの鍛錬方法は私も気になるな。あとさっきの受け流しは…』

『俺はその体でどうやったらあの威力の掌底が出せるのかが…』

とミズハ隊長とダガト隊長も話に加わり、こちらも魔法のことを聞いたりして盛り上がった。

姫様、里の人達との距離感も近くて親しみやすい感じだし、周りの人達の表情を見ると、美しさだけでなく人柄でも皆に好かれているのが良く分かった



しばらくすると、立派な服を着た威厳のある人が

『姫様、ご歓談はあとで時間を取るとして、ひとまずお屋敷への移動と、カズマ殿にお持ち頂いた物の確認などをしたいのですが』

と促してきた。


『あ、そういえばそうね。すいません、私ったらこのような場所で立ったままお時間を頂いて。里の皆もお二人のお姿を十分拝見できたと思うので、よろしければ私の館にご招待したいと思うのですが。ご足労頂いても宜しいでしょうか?』


『は、はい。もちろん問題ありません』


そうして、俺たちは塀に囲まれた2階建てのお屋敷に案内されたのだった。

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