第17話 リュノと朱里(2)

 とりあえず朱里あかりちゃんが是非ぜひ試したいとのことなので、大樹たいきさんにも了承を取ったあと(朱里ちゃんが電話で有無を言わさず押し切っていた)やってみることにした。

まず、リュノに魔力を見えるようにして貰うと、朱里ちゃんは名前の通り、透き通った鮮やかな朱色の魔力をまとっていた…解せぬ。


「『じゃあ、まずはコーティングからするぞ…極力影響が少ないように、左手の甲とか小指にするか?』」

「小指は握力とかに直結するから、薬指が良いかな。左手の薬指で。左手の薬指で。」

「『2回言って意味を持たせようとするなよ…じゃあいくぞ、変なら直ぐに言えよ』」


 そうして左手の薬指の先端からコーティングをしていくと(これ、はた目には指輪を付けているように見えるかも…うーむ)、朱里ちゃんの鮮やかな朱色の魔力が、薬指だけ俺の錆色が混じってくすんだ感じになった。

…うん、相変わらず色が悪いな


「『とりあえず薬指をコーティングしたけど、どうだ?』」

「うん、特に変な感じはしないよ」

朱里ちゃんが指をにぎにぎと動かしながら確かめていた。

「『よし、じゃあリュノ、触ってみてくれるか?』」

『うん、じゃあそれ!』

リュノが朱里ちゃんの指を触ると、何と薬指だけすり抜けずに触ることができるようになっていた。

『カズマ、触れるよ!凄い!こんなことが!』

「あぁ!これは!触られてるのが感じられるよ!これリュノさん!?」

リュノは興味津々な感じで指を触り、朱里ちゃんは見えないので指に全神経を集中して動きを止めていた。


「和真君!指先だけじゃなくて全身で感じたいんだけど!」

「『…ちょ、言い方と声の大きさ気を付けようね。また先輩怒鳴り込んできそうだから。コーティングは大丈夫そうなんで、範囲広げるのは良いけど…このままコーティングを広げる?それとも譲渡を試してみる?』」


「はっ!そうね!…じゃあ次は和真君のもの(魔力)を私に入れて欲しい!」

「『…おい!お前そのニマニマ顔はわざとだろ!』」

「てへへっごめん、ちょっとふざけてた。でも魔力譲渡を試して欲しい気持ちは本気だよ」

「『ったく…うーん、そうだ、とりあえずっと…よし、じゃあとりあえず左手からで良いか?いくぞ!』」


予防対策を施してから、朱里ちゃんの左手と握手する形を取り、自分の左手に集めた魔力を朱里ちゃんの左手に押し込むようなイメージで渡してみると、自分の魔力が朱里ちゃんの左手に吸い込まれていった。


それと同時に

「えっ!あっ!あんっ!……ああぁぁん!」

と朱里ちゃんが体を震わせ、妙に色っぽい声を上げた。


「『ちょっと待てい!』」

冗談かと思って声をかけたが、朱里ちゃんは余裕なさそうに座っていたベッドにそのまま倒れ、肩で息をしていた。

…えっ!?

『あーうん、そうなるかもね…』

リュノが何となく状況が分かっているみたいで、慌ててないから大事ではないとは思うけど…

「『だ、大丈夫なのか!?』」

とちょっと焦りつつ2人に目をやって確認していると、

「ふ、ふぅーー…。大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけ」

と言って、朱里ちゃんが起き上がり、ちょっと赤い顔をパタパタ仰ぎながら、座卓のコーヒーに手を伸ばそうとした。

そして、座卓の先に居たリュノの方に目を向けると、

「えぇぇぇ!見えてる!!」

と叫んだ!


 朱里ちゃんの反応に驚いていると、ピンポーン、ガンガンガン!と玄関のインターフォンとドアが激しく鳴った。

さもありなん…。

ドアを開けると

「藤堂!!?さっきのお嬢ちゃんの声は!お前!」

と先輩が掴みかかってきた。


「いや、落ち着いて先輩、パソコンでVRしてただけだから。朱里ちゃんがVRしたことが無くって、ちょっと興奮しただけだから。ほら見て」

部屋の中では、予防対策として立ち上げといたパソコンの前でVRを手にした朱里ちゃんが手を振っていた。

「ぬぬぅ~!確かに!いやしかし、さっきの声はおかしくないか!?」

「あーあれは朱里ちゃんが悪乗りしただけだから」

「一体何のゲームを?」

先輩の質問にやべっと思うと部屋の中から、

「あ~今は和真さんのパソコンに保管されてる画像データを見てまーす」

と朱里ちゃんから返答が。へっ!?


「はあっ!?ちょっと待てぇーーい!!!」

慌てて玄関から部屋に戻ると、玄関から「南無…」という声と憐れむようにパタンッとドアが閉まる音が聞こえた気がした…。



 その後、俺が魔力譲渡をすると、朱里ちゃんもリュノを見たり触ったりすることができ、リュノの念話や魔力感知、身体強化などの魔法を受けられることが判明した。

このことに朱里ちゃんもリュノも凄く興奮し、大喜びだった。

そして2人は直ぐに仲良くなり、俺も喜ばしいはずなんだけど……。

……パソコンの電源を付けるという墓穴を掘って白い灰になったオレは、風に流されて消えゆくのみ……

(和真君、ごめんって!おーい!おーい!……)


『カズマが死んだままなんだけど…』

『予想以上に大ダメージね。ヤバいの出たら即閉そっとじしようと思ってたけど、データはまぁ予想の範囲内だったし、引くようなのはなかったんだけどな~』

『そうだよねー。カズマがして欲しい姿の元絵があったのは驚いたけど』

『あっそれ!これ知ってるってリュノさんが言った時、和真君膝から崩れ落ちたよねー』

『あの姿をしたらカズマ復活するかな?』

『それは追い打ちになるんじゃ…止めて差し上げて』

とか言いながら生暖かい目でちらっとこちらを見る2人。

「『ぐぁーーー!お前ら鬼か!!もういっそ殺してくれ!』」

『声に出して叫んでるよ~』

『近所迷惑だよー』

『がぁーー!念話でこそこそ風に話してても全部綺麗に聞こえるんだよ!』

『カズマ、前も言ったけど大丈夫だよ、気にしないで』

『そうそう、和真君がエッチな姿の女の子が好きな普通の男性と分かっただけだから。好感度とか落ちてないし、変な性癖が無くて良かったね。ぷくく…あれ?…ぁ…っ』

『『どうした(の)?』』


「あ、聞こえなくなった!?リュノさんも見えない!」

「『それは…時間制限とかあるのかな?薬指のコーティングはまだ効いてるみたいだけど…そっちも色が薄まってきてるかも?』」

「あぁ!ねぇ和真君!もう一回魔力譲渡して!お願い!!」


……さて、どうしよっかな?

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