第9話 扉に向かって出発
朝になり、目が覚めると隣にリュノがこちらを向いて眠っていた。
あぁ現実だったんだなぁ。
リュノの存在感から夢とか幻ではないと感じてたし、リュノと話した印象から魔力や食料をだまし取ったり、こちらを害したりすることはないと思ってたけど……あまりに不思議な体験だったし、実はこちらに言えない事情とかがあって、朝起きたら綺麗さっぱり居なくなってる可能性もあるかなーって思ってた。
それにしても、ホントにすやすや眠っているな。
信頼してくれているようでちょっと嬉しい…寝てるときに羽がどうなっているかとか少し気になるけど…起きるまでそっとしておこう。
とりあえずコーヒーを飲もうと、お湯を沸かしていると、リュノがゴソゴソと起きてきた。
ひとまず、おはようと伝えようとしたが、伝わっている感じがしなかった。
ボーとしてるリュノの目の前で手をヒラヒラさせると、リュノは何かに感づいたようで、
『ゴメン、念話の魔法、効果が切れてた。いつもは1日くらい保つのだけど、こっちだと切れるの早まるみたいね』
と伝えてきた。
『そういえば魔力も見えないな』
『あぁ。そっちもかけ直しとくね』
リュノが魔法を唱えると、錆びた鉄のような色で半透明のものが自分を覆っているのが見えた。
『しかし、見た目の悪い色だな…』
思わず渋面になると
『気にしない気にしない。カズマらしくって私は好きだよー。…ぷくく』
と笑いながら言ってきた。
…それは、励ますふりをして
『どうやら、朝飯は要らないらしいな?』
『違う違う、派手な色より落ち着いた色の方が、色んな場面にも合わせ易いし、目立たず使えて良いと思ってるのよ。ホントに。カズマの雰囲気にも合ってるし。ただ、思った以上にカズマが気にしてるからちょっと面白くて』
『そうかよ。……お前が綺麗な色の人とチェンジとか言うから、より気になったんだがな?』
『あーそれは…ハハハ。ゴメンね。半透明の時には渋くて良い色よ。凝縮して丸薬にしたのは色も味も勘弁だけどね~。…はっ!私の言葉が気になってしまうということは…私のことを!』
…何かふざけたことを言い出したところで、丁度2人分のコーヒーを
『アホなこと言ってないで、飲み物ができたぞ』
『ん、この飲み物、独特の苦味があるけど美味しい〜』
『そうだろ、コーヒーって言うんだ。朝はコレに限る』
『は〜香りも良いし、確かに癖になりそうー…ん?ぐぇぇ、にがっ!エグッ!』
『おや、珈琲豆がそのまま入ってしまったかな〜?にっこり』
『ぐぇぇ、魔力増えてるし!絶対丸薬入れたな!』
『そういえば、俺の魔力がらしさがあって好きって言ってたから、サービスしたんだった』
『くぬー』
なんてバカなこともやりつつ、ホットサンドを作って2人で美味しく食べ終えると、テントをたたみ、道具をリュックに詰め込んで、撤収準備を完了した。
さて、とりあえず扉に行く用意は整ったな。
リュックは…置いていくのも不用心だし、サバイバルに使えるから、一応持っていくか…重いけど。
『リュノ、じゃあ扉に行こうか。案内して』
『カズマ…ホントにありがとう。こっちよ』
『あっと、ちょっと待って。携帯の登山用の地図アプリ立ち上げるから』
危ない危ない。帰れなくなったら大変だしな。
『何それ?』
『あーこうして使うと、こんな感じで周辺の地図と現在地が分かるんだ』
『へー便利ね』
『迷ったら大変だしな』
『あ、さては私の案内を信じてないな?』
う、確かにリュノってポンコツだから、ちょっと不安なのは否定できない…(笑)
『ま、多少不安なのは否定しないが(笑)。でもこれはどちらかと言えば帰り用。帰りは俺1人で戻らないといけないだろうし』
『もうっ!でもそっか。一応帰り道が分かるように魔法で印はつけようと思ってたけど、こちらだと魔法の効果も落ちるみたいだし、2重の方が安心ね。…あ、ついでにコレ渡しとくね。』
そう言うとリュノは赤い宝石のようなものを渡してきた。
『これは?』
『発信器のようなものかな。それと対になるのを私が持ってるので、魔力を通せば、離れてても方向と大体の距離が分かるのよ。そっちからもできるよ、やってみたら?』
そういってリュノが少し遠くの木の向こうまで離れて見えなくなったので、赤い宝石に魔力を込めると、何となく方向と距離が頭に浮かんだ。
これは凄いなと感心していると、
『あと、双方が魔力を通せば念話の魔法が使えるよ、こんな風に』
と念話が届いた。
『凄っ』
『相手が魔力を通すと赤く光るから、その時に魔力を通すと念話ができる状態になるよ。とりあえず持っといて』
そしてリュノが先に魔力を通してこちらで応答するのを試したりした後、リュノが戻ってきて、
『じゃ行くよー!』
と出発し、リュノの案内の元、キャンプ場からさらに山に入って行った。
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