第8話 眠る前に

眠ってれば良いぞと声をかけると、リュノは

『ん。大丈夫。カズマが寝るまでは起きてるから…』

と伝えてきたが、

『そっか、じゃあ洗い物してくるけど、付いて来る?』

と問いながらリュノを見ると、既にこっくりこっくりと頭が揺れていた。


…やれやれ、テントに運んでおくか。


そう思ってリュノを持ち上げようとすると、体の大きさ相応の重さを感じた。

う〜ん、自然といえば自然だけど…質量保存の法則はよ?

魔力を消費してその分のエネルギーを補充してるのかな?

よー分からんが、自分の大きさや重さを変えたり、魔法を使ったりするのは、地球の法則から外れるだろうから、それで弾かれて認識されないのかもしれないなー。

…もしそうだとしても、俺だけに見える理由は全く分からんけど。


そんなことを考えながらリュノを抱えて運んでいると、リュノが目を開けた。


『あっ、カズマ…寝てた?ごめん』

抱えられて運ばれている状況に気づき、顔を赤くしていた。

『気にするな。そのまま寝とけ』

『いや、歩けるし降ろしてくれれば…』

『もう着くし。それより大きさに応じて体重も増えるのな』

『当たり前でしょ。元の体重のまま小さくなってたら、飛べないし、乗せようとしたカズマの手ぺちゃんこになってるわよ』

…おう、ぺちゃんこは言い過ぎだが、それは何て罠だ。

そうか、元はもっと大きいのか…最初に会った姿が小さいからベースをそっちで考えてしまうな。大きさと体重が比例して、自由に小さくできるのか。

『体重が増えたらちょっと身体小さくしてごまかしたりしてそうだな』

『何で知って…いやね、そんなことする訳ないじゃない。ハハハ』


テントに入ったので、視線が泳いでるリュノをひとまず降ろし、マットに魔力コーティングしてその上に座ってもらった。そして寝袋と毛布を取り出して両方に魔力コーティングしつつ、どっちが良いかな?とリュノを見た。

服装は出逢った時と同じで、ボディーラインが強調されるようなぴっちりとした黒色のレオタードのような感じで、(体が大きくなったからスタイルの良さがより感じられて少々目のやり場に困る…持ち上げるとき意識しないようにするのが大変だったよ…じゃなくて、)夜に気温が下がると少し寒そうだな…って、


『そういえば服は体の大きさに合わせて伸びてるのか?便利な素材だな』

『あぁこれ?これは私の魔力で作ってるからねー』

『へー』

『だから形や色は自由自在よ。複雑なのは無理だけど。今回は極力魔力使わないように、体をぴっちり覆う感じで、一応あの光る虫に合わせて黒色にしといたんだけど』

『あーなるほど』

『もし、して欲しい格好があったら、伝えてくれたらしてあげても良いわよ。ふぁ~~』

…な、何だと!?

思わず、あくびをしながら伸びをするリュノの姿に、2次元で目にするような際どいイメージを重ねてしまった。

『魔力をそれなりに使うけど、今の会話のようにイメージを伝えることもできるから。一瞬ならそんなに使わないか…ちょっと試してみて…』

『あっ……』

『!………』

リュノの顔が真っ赤になってる。うええっ!これさっきのイメージ伝わった!

『いや、そのっ!ちがくて!不意打ちで、こんなん頼まないし!』

『……………えっち。』

「『ぐぁぁ!殺してくれ!!っその前にごめんなさい!うぁぁ!』」


思わず叫び転げ回っていると、テントの外から

「あの~、すいません。もうちょっと静かにして貰えますか?」

と声がかかった。あっ、また叫んでた…。

「す、すみません。ちょっと変な夢を見てしまって」

冷や汗がだらだらの顔でテントから出ると相手も納得したようで、

「あ、あー…。わざとじゃないみたいなんで、良いですけど。気をつけて下さいね」

「はい!すいませんでした!気をつけます!」

と頭を下げるこちらを若干残念な子を見る感じで見て去って行った。

あぁ~自分もどんどんポンコツになってる気がするよ…。


他のキャンパーさんが去った後、リュノへの恥ずかしさでテントの外から

『さっき取り出した寝袋と毛布、寝るときにどっちか使ってくれたら良いよ。夜は冷えるし、ちょっと寒そうだから、寝袋の方が良いかも。俺は外に出たついでに片付けしてくるから。…そのさっきはごめん』

と伝えて

『ああ。うん。分かったよー』

とまともな返事があることに安堵しつつ、大いに落ち込みながら洗い物をしに向かった。


 片付けが終わり意を決してテントの中に入ると、リュノは寝袋の中に入り、まだ起きていた。

『お勧め通り、この寝袋を使わせてもらうことにしたよ。これあったかいね。ありがとう』

『あぁ。いや、さっきはごめん』

『ふふ、そんな何度も謝らなくて良いよ。若いし、分からなくもないし、まぁその、こっちがいきなり繋いじゃったしね。だから気にしなくて良いよ』

『あ、ありがとう』

『でも襲ってきたら、消し炭だからね』

『し、しないって』

『ふふ、おやすみ~』

『あぁ、おやすみー』

そうして、かなり異質で濃密な1日が終わり、俺はリュノの隣で背を向け毛布に包まると、泥のように眠りに落ちたのだった。



・・・・・

カズマが寝静まったあと、リュノはカズマを見ながら今日の出来事を思い出していた。


カズマに叩き落とされたとき、認識できる存在に出会えたことに、焦って助けてと言ったのはホント不味かったよね。

捕まえられたり、何を要求されても仕方ないようなとこだったよ。

弱みを見せたのに、つけ込むこともなく助けてくれたカズマはホントに優しい。

そういえば、手で包み込むように魔力をくれた時は、あまりに気持ちよくて思わずヘンな声が出てしまった…カズマに気にされなくて良かったよ。それこそこっちが恥ずかしくて死ぬとこだった。

その後の丸薬は想像を絶する不味さだったけど…涙は置いとくとして、コーティングした食べ物で魔力回復できるのは、凄いし、ホントに里が助かるかもしれない。

私みたいな未知の生物がいるのに、警戒せずに隣で寝てるし…この信頼にはこちらもしっかりと応えないと。

何か頼むことになったら、対価は何が良いのかなー?


カズマに出会えてホントに良かった。

明日もよろしくね。おやすみ、カズマ。


そうしてリュノも心地よい眠りに落ちていった。

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