第10話 扉

 リュノの案内に従って山の中を歩き、1時間も経つとリュックの重みが苦しくなってきた。

…スクーター移動だからそこまで軽量化してなかったしな。靴も登山用でないし。


『リュノ、あとどれくらい?』

『あと倍くらいかな?しんどい?』

『足元悪いし、荷物が重いのがな~。…そういえばリュノ、さっき発信機の道具とか取り出したけど、どこに仕舞ってるの?』

『それはねぇ…ヒ・ミ・ツ♪』

『………まさか』

『何赤くなってるの?…あ、何か変な想像してるでしょ!?違うからね!大量に物が仕舞えて重量が感じなくなるマジックポーチってのがあって、それを魔力の服に引っ付けてるのよ』


おーあるのかマジックポーチ!

『良いなそれ!…ってことは、このリュックを入れることもできるのでは?』

『あー…それはちょっと無理かも』

『そうなの?容量一杯なのか?』

『えっとね…そう、一番小さくなる時に袋も小さくしたせいで、中身がぐちゃぐちゃになっててね、リュックが汚れるかもしれないし、取り出すときに他のものを引き連れちゃうかもしれないから…』

『ふ~ん、物理法則無視して大量に入れれるのに、外部の影響で中の物がぐちゃぐちゃになるんだ…割れ物とか入れにくいし、ちょっと不思議だなー。どう管理してるの?』

『……えーと(汗)』

『……?』

『ごめん!ぐちゃぐちゃなのは元から!テキトーに放り込んでたら、いつの間にかね!?』


…相変わらずのポンコツっぷりだった。

『そ、その代わりに身体強化魔法かけてあげるから!』

そう言うとリュノは呪文を唱えた。


 すると、リュノから届いたオレンジ色の光が俺の体に吸い込まれ、その瞬間一歩踏み出すのが楽になり、重かったリュックがかなり軽くなった。

『おぉ!これは凄いな!』

思わず飛び跳ねてると

『ふふっ、体力が回復した訳じゃないから、はしゃぎ過ぎると後がシンドイよ。私も最初そうなったけど』

と忠告してくれた。

『なるほど。でもこの超人になったような感覚ははしゃぐよなー』

『効果時間が半分になっても1時間くらいはもつはずだからそれで頑張って!』

『うぃ』

俺を機嫌良く次の一歩を踏み出した。



 そうしてまたしばらく進むと、岩盤が崖となってそびえ立つ場所に辿り着いた。そして崖の手前には小さな小屋があった。

『あの小屋か?』

『そうよ』

『でもあの小屋、扉開いてるぞ?』


小屋の扉は上側の蝶番ちょうつがいが外れ、外に開いて傾いていた。

『あーあの扉じゃないのよ。中にあるの』


 そう言って、リュノがすーっと近づいていくので、その後ろに着いて小屋に近づいた。


 とりあえず小屋の外観をぐるっと確認すると、小屋はかなり年季を感じる丸太小屋ログハウスで崖に密着するように建てられていた。そして、崖と建物の隙間はモルタルで綺麗に埋められていて、隙間から小屋の裏を覗くことは出来なかった。


 リュノと共に傾いた扉を潜り小屋に入ると、正面の奥の壁に、次の部屋に続くような木製の扉があった。


『うわっ!あれか!?』

『そ、そうよ。ど、どうしたの?』

『いや、配置がおかしいだろ!?』


この小屋は崖に密着するように建てられていて、奥行きは今居る部屋分しかない感じだった。つまりあの扉は、開けても崖がすぐ迫って意味がないはずの位置にあった。


 気持ちを落ち着けるためにもひとまず扉から目を離し、小屋の中を見渡すと、小さな流し台と木製の机と椅子が1つあるだけだった。


『よし、じゃあ扉を見てみるぞ』


 リュノに伝えて扉に近づき注意深く観察したが、何の変哲もない木製の扉だった。扉のノブに手を触れると、鍵もなく回して開くことが出来そうだった。


 ふぅーと息を吐き、一旦ノブから手を離してリュノの方を振り返ると、心配そうにこちらを見ていた。


『多分、開けることは出来そうだ』

『ほんと!じゃあ…お願いできる?』


…うん。ここまできたら、やってみるか。


『よし、じゃあ開けるぞ』

『あ、ありがとう!あ、ちょっと待って、何か出てきても良いように準備するから』


そう言うとリュノは、体に膜を張って防御力を上げる魔法をリュノ自身と俺にかけ、そして何かの呪文を途中まで唱え、発動一歩手前の状態にして、こちらを向いて頷いた。


それを確認した後、俺はゴクッとつばを飲み込み、ノブに手をかけ、

『いくぞ!』


掛け声と共に扉を開いた!

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