30. 利用

「どうして、胡桃がそこに!? それにお前はっ!」


 カベツヨは慌ててゴブリンたちが押さえつけていたはずの胡桃を見る。しかしそこに胡桃の姿は無く、ゴブリンたちも困惑していた。


「くっ、何をしたんだ!」


 カベツヨが唾を飛ばすも、胡桃は冷静な表情で見返す。


「それをあなたが知る必要はないわ。それより、さっきの話は本当なの? カベツヨは私を殺すために近づいたの?」


「あ、あれは、そうだ。ドッキリ。ドッキリの企画なんだ!」


「ふぅん。なら、その企画の主催者を教えてよ。こんな悪趣味なことを考えて、許せないわ」


「それは、その」


「ちなみに、この様子は動画で配信してます。だから、適当なことは言わない方がいい」


「な、なんだと」


 胡桃はカメラのディスプレイ機能を作動させる。カメラの上に、視聴者たちのコメントが表示され、カベツヨの顔が青くなる。


====================


パンピー:キモっ

おげん:通報しました

キラキラスマイル:こっち見んなw 変態

ウキウキわっち:通報しました

さとう:通報しました


====================


「わかったかしら? あなたの企みはすでにバレています」


 カベツヨは血が出そうなほど強く唇を噛むが、邪悪な笑みを浮かべる。


「そうか。なら、仕方がない。本当は闇マーケットに流すつもりだったけど、今、ここでお前が死ぬ姿を世の人間たちに拝ませてやろう! 来い! オーク!」


 カベツヨの叫びが森の中に吸い込まれる。静寂。オークが出現しないので、カベツヨの頬を冷や汗が伝う。


「ど、どうした。来い、オーク!」


 カベツヨは指笛を鳴らした。森に指笛が響く。が、やはりオークが現れない。焦りだすカベツヨに対し、佐助が言った。


「オークって、もしかしてこいつのことでござるか?」


 佐助が指を鳴らすと、茂みをかき分け、オークがその巨体を現した。


「な、なぜ、オークがお前の言うことを!?」


 そこでカベツヨはオークの異変に気付く。オークは夢でも見ているかのような顔つきでぼんやりと宙を眺めていた。


「な、何をした!? 俺のオークに何をした!?」


 佐助は薄い笑みで答える。『闇魔忍法――催眠の術』で、オークの意識を奪ったのだが、わざわざ説明する義務はない。


「くっ、だがいい。俺にはゴブリンたちがいる。こいつらがいれば、何とかなる。さぁ、行け! ゴブリンたちよ!」


 しかしゴブリンたちも、夢を見ているような顔でぼんやりと宙を眺めていた。これまで一度も経験したことが無い事態に、カベツヨの汗は止まらなかった。


「何だ、何が起きている!?」


 佐助は胡桃の耳元で囁いた。


「配信を止めて。これから流れる映像は刺激が強すぎるでござるから」


 胡桃は戸惑いながらも配信を切った。そして配信が止まったことを確認し、佐助は不敵な笑みをカベツヨに向ける。


「なぁ、カベツヨ殿。拙者はスナッフフィルムというものを知らないでござるが、おそらく、ただの殺すだけの動画ではないのでござろう? 良かったら、拙者にその様を見せてはくれぬか?」


「は、はぁ? ふざけるな!」


「まぁ、カベツヨ殿が拒んでも、こやつらに教えてもらうのでござるのだが」


 佐助が指を鳴らすと、オークたちが動き出した。ゴブリンが逃げようとするカベツヨを地面に押し倒し、オークも駆け付ける。オークは持っていた棍棒を投げ捨て――。


「いや、嫌だぁ! やめろぉぉぉ!」


 カベツヨの絶叫が森に響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る