14. 裏街道

 洞窟内を一羽の隼が飛んだ。炎をまとった隼は、周囲を照らしながら、迷いなく進んでいく。佐助の頭の中には、B19階へ向かうための最短ルートがあった。そのルートを使えば、普通なら1日は掛かる移動を約5分に短縮できる。


(大丈夫。あれを使えば間に合う!)


 佐助は確信するも、大事なことを忘れていた。視聴者である。


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黒の慟哭:始まっているのか?

ねっとりめがね:いや、ストップウォッチが動いていない

あああ:トラブル?

くのー:大丈夫かな

カマキリオ:カメラは切り忘れ?


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 何回かカーブを曲がった後、行き止まりになっている一本道に入った。その先に、宝箱がある。佐助はその宝箱の前で変身を解き、人間の姿で宝箱を開けた。すると、魔方陣が発動し、光に包まれる。暗転。次の瞬間には森の中に立っていた。


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あああ:今の何?

うっぴー:ここどこ?

くのー:さっきの宝箱にはB4階へ転送するトラップが仕掛けられていたはず

銃心ファイヤードラゴン:解説助かる

黒の慟哭:ここはB4階か


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 B4階のフィールドは『森』だった。佐助はもう一度飛び、大空を凄まじい速度で駆け抜け、急降下で一本の木に突っ込んだ。ぶつかる寸前。佐助はリスとなって、木のうろに飛び込む。うろの中は闇に包まれていて、隼に戻った佐助の炎が周囲を照らす。前方に小さな光の点が見えた。近づくにつれ、光は大きくなり、その光の先に――結晶だらけの道が現れた。


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キラキラスマイル:何だここw

くのー:ダンジョンにこんな場所が

うっぴー:きれい

ねっとりめがね:!??!!!!?!?


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 視聴者は誰も知らなかった。それもそのはず。この場所は、佐助と一部の人間しか知らない裏街道。この場所を公にしなかった理由は、この場所がとにかく危険だからだ。その理由が、後方から迫ってくる。結晶が割れる音と地鳴りめいた激しい足音が裏街道に響く。カメラが佐助を追い抜き、佐助とともに後方から迫る影を捉えた。それは巨大なライオンだった。そのライオンには首が2つあり、背中には翼があって、尻尾からは7つの蛇が生えていた。佐助が『キメラ』と名付けたその怪物は、大きな口を開け、涎をまき散らしながら迫ってくる。


(あ、やべっ)


 佐助はカメラの存在に気づく。勝手にこの場所を公表してしまったので、あの人に怒られてしまう。が、今はカメラを止める余裕がない。一瞬でも気を抜けば、キメラに殺される。だから佐助は気合を入れて、速度を上げた。むろん、そんな事情を知らない視聴者からは、驚きの声が上がる。


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キラキラスマイル:なんか来たw

あああ:レベル0じゃん

くのー:違う。カンストしてる。多分、99を超えた化け物

黄昏剣士:やべえええええええええええ

ねっとりめがね:逃げてええええええ


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 1体の蛇が佐助に狙いを定め、氷のビームを放った。佐助は回転しながら、このビームを避ける。さらに2体の蛇が炎のビームと雷のビームを放つ。佐助はそれらの光線も避けて、『光魔こうま忍法――分身の術』を発動し、的を増やした。すると、全ての蛇がビームを放ち、七色の光線が結晶の道を照らす。コンサートの演出めいた幻想的な雰囲気であったが、それを楽しんでいる余裕なんて、もちろんない。当たれば一撃必殺の殺人光線だ。


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キラキラスマイル:やべぇw

うっぴー:きれい

くのー:そんなこと言ってる場合か!

黒の慟哭:生きろ、サスケ!


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 佐助はギリギリのところで光線をかわしながら周囲にある結界に視線を走らせる。そして、見つけた。内部に紫色の空間を閉じ込めた結晶があった。佐助は、『光魔こうま忍法――閃光』を発動し、キメラの視界を一瞬だけ奪う。その隙に、見つけた結晶に突っ込んだ。結晶が割れる。暗転。佐助は空が紫色の階層に出た。空からは常に雷が降っていて、眼下には荒野が広がっていた。


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キラキラスマイル:今度はどこだよw

ねっとりめがね:どこだここは

うっぴー:きもい


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 ここはB20階。フィールドは『地獄』。現時点では、佐助が桜花ギルドに報告していないため、未踏となっている階層だ。佐助は一瞬だけ変身を解いて、光の球体に触れた。カメラのレンズを光で覆い、見えなくなしてから、隼に戻る。配信も切りたいところだが、そこまでしている時間が惜しい。


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くのー:何も見えないぞ

黒の慟哭:無事か、サスケ!


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 佐助は眼下を確認する。黒い点が蠢いていた。亡者である。レベルは5しかないが、とにかく数が多く、生者を感知すると積極的に襲い掛かる。実際、眼下にいる亡者たちも佐助の存在に気づき、砂煙を上げながら佐助を追いかけ始めた。最初はまばらな黒い点だったが、徐々にその数が多くなり、黒い集合体となった。しかし空にいる佐助にとって、恐れるに値しない。すぐに置き去りにした。


 飛び続けていると、目的の場所を見つけた。空の一部が円形に白くなっていて、その下にピラミッドめいた黒い塊があった。近づいてわかる。それは亡者の群れだった。亡者は白い部分から伸びる一本の糸に飛びつき、その糸を上るのに必死だった。佐助はそれらの群れに突っ込み、糸沿いに上を目指す。そこはストローのようになっていて、糸沿いに進まないと上には行けなかった。空から亡者が飛び掛かってくる。が、翼を畳んで、ドリルのように回転すれば、それらの体を貫いて、上を目指すことができる。だから佐助は、回転しながら飛び続けた。糸の先にある光に向かって――。

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