異世界生活・12日目

私が聖女だと告げられてから、司教様より教えられたのは、私が教会にお世話になってから今までの事と、教会に伝わる神の使者のお話でした。


実は女神像を光らせてから、私について本教会…つまりこの女神教の本部にて話し合いが行われていたそうです。


古い文献に、『この地に神の使者降臨す。その者の祈りは神の祈り。ひとたび祈れば御神体は光り輝き、その光はすべてを癒やす。大地が穢れ、人々の心に暗雲立ち込める時、神の使者は異世界より喚ばれる。我ら女神教は、神の使者の祈りを妨げるべからず。神の使者の意志のままに、我らは女神の教えを世に広めるべし』と書かれているそうです。


そして、先代の聖女もまた私と同じように異世界から喚ばれて女神像を光らせたのだそう。


司教様の話は、荒唐無稽な話に聞こえましたが私が異世界からこちらへ来ている以上、どれもほんとうの話なのだと思いました。


エドさんは、実は枢機卿まで勤めた女神教の中でも力のある方だそうです。なので、神の使者についての文献も目にしていたらしく、私の姿を見てすぐに聖女だと思ったそうです。


それでも、すぐに聖女だと言われなかったのは私がこの世界に馴染めるまで待っていてくれたのだそう。すくにでも私の保護に来ようとする本教会の人々を押し留めて見守るように言ってくれたのもエドさんなのだと、司教様から聞いて、嬉しくて涙が溢れました。


右も左もわからなかった私を、少しも不審に思うこと無く優しく教え導いてくれたエドさんには、本当に頭が上がりません。マルクスさんやマーサさんも、私が何者かはエドさんが伝えていたそうですが…3人とも本当に優しい人達です。


教会にも、聖女は本教会に在るべし。教皇の元で権威を振るうべし。そんな考えの方も少なからず居るようです。また、私を意のままに操って権力を欲する人も…


エドさんは、そんな人達から私を守るべく信頼できる方達に働きかけて下さっていたのだとか。そして、その中のひとりがクレイトスの領主様と司教様。今回この場所へ連れてこられたのは、顔合わせと今後の話の為だそうです。


教会で衝撃的なお話を聞いたあとは、領主邸へ移動して領主様と顔合わせです。

私はこちらの作法を知らないので、不安だったのですが、エドさんによると領主様は気さくな方で無作法で怒るような方では無いそう。それに、聖女にそのような事を言う者は居ないと言われました。


それでも、やはり緊張はするもので…最初の挨拶で思い切り噛んでしまいました。今思い出しても恥ずかしくてたまりません。


領主様は思ったよりお若く、明るい茶の髪に緑の瞳の優しそうな方でした。年も私より五つ上で、領主となられてからまだ数年ほどだそうです。

先代の領主様は、国外旅行中だそうです。なんでも奥様と世界旅行がしたかったらしく、領主様が成人してすぐに領主を引退されたのだとか。


エドさんは先代領主様と懇意にしていたそうで、息子さんである現領主様とも幼い頃からの付き合いなのだとか。お二人の昔話がとても面白くて、あっという間に時間は過ぎていきました。


その後は、領主様と一緒に教会へ戻って夕方の礼拝をします。この時もやはり女神像は光り、領主様や領民の方達が大変驚かれていました。


私はそのまま教会へお世話になるのだと思っていたのですが、領主様よりエドさんと共にお屋敷に滞在することとなりました。どうやら噂を聞きつけた領民の方が私の姿を見たいと教会へ押し寄せているらしく、危険だと判断されたようです。


少し淋しいですが、仕方ありません。私の危険よりエドさん達に累が及ぶのは嫌ですから。


用意されたお部屋は落ち着いた雰囲気ながら、質のいい家具類で整えられていました。そして、このお部屋には浴室があったんです!猫脚のバスタブを見たときは感動しました。シャワーもあって、久しぶりにゆっくりとお湯に浸かり全身を洗うことが出来ました。洗浄の魔法は便利ですが、やはりお湯に浸かれると心もホッとしますね。


ベッドもフカフカで、高級なホテルに泊まったかのような心地でした。

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