異世界生活・13日目

朝、見慣れぬ天井に一瞬驚きましたがすぐにここは領主邸だった事を思い出しました。部屋に備え付けの洗面台で身支度を整え、着替えを済ませます。


教会まではさほど遠くないので、朝の散歩がてら歩いて向かいます。シスター服は頭にベールを被るタイプもあるので、そちらを身に着けていきました。


昨日は領民の方で賑わっていた領主邸前も、まだ夜明け前だからか静かです。守衛の方には驚かれましたが、教会へ向かうと伝えると快く送り出して下さいました。


人通りの少ない道を一人で歩きます。夜明け前独特の空気が身体を満たしていきます。やはり、私はこの時間が一番好きだと改めて思いました。


通りを歩けばすでに働き始めている方もチラホラと見かけられます。もしかしたら、これから家へ帰る方なのかもしれませんが…。元の世界から遠く離れてしまいましたが、ここにも確かに生活はありました。何故か、それがとても愛おしく感じます。女神様もこんな心地なのでしょうか?


さて、教会へ着くと朝の礼拝準備が行われていました。私もなにかお手伝いしようと、外でお掃除をされている神官様に声をかけます。最初は不審がられましたが、クローウッドからエドさんと共に来たと説明すると、安心した顔をされていました。


何か、身分を提示できる物があれば良いのですが、これはエドさんに相談したほうが良さそうです。


神官様と一緒に外回りの掃除をしていきます。落ち葉を掃き集めて麻袋へ入れ、イッパイになったら手押し車に乗せます。

手押し車に3袋ほど乗せたらお掃除は終了です。


そろそろ礼拝の時間との事だったので、掃除道具を片付けて中へ入ります。教会の表はとても賑やかで教会の中も皆さんが忙しそうに走り回っていました。規模の大きな教会というのは何かと大変そうです。

礼拝堂へ向かうとエドさんの姿が見えました。朝の挨拶をすると、大変驚かれました。どうやら、私が部屋にいなかったのでちょっとした騒ぎになっていたようです。


申し訳ない事をしてしまいました。エドさんは「そんなことだろうと思った」と笑って下さいましたが、誰かに言付ければ良かったと思いました。


さて、挨拶を済ませたら礼拝です。このままの格好でと思ったのですが、着替えをと言われて断りきれませんでした。外仕事をしていましたから、もしかしたら礼拝の場に相応しくないのかもしれないと思い、服をお借りすることに。


初めは違う服を用意して頂いたのですが、着慣れたシスター服の方が良かったので交換して頂きました。それに、あの服は汚したらと思うと歩くことすら出来なくなりそうだったので。


礼拝場はクローウッドの教会よりも広いはずですが、礼拝に訪れた方達が教会の外まで溢れています。

私はベールを被ってシスター達の列に並びます。隣の方が話しかけてきたので、少しだけお喋りをしました。その方はアンジュさんといって、昨日からシスターとしてこの教会に来ているのだそうです。


礼拝で女神像が光ると、周囲から驚きの声があがります。シスターや神官も大声こそあげませんが、さざ波のように声が広がっていました。


礼拝後、私はエドさんと共に領主邸へ戻り朝食を頂きました。司教様も来てこれからの事を話します。


明日には王都から騎士団が到着して、私とエドさんはその方達と本教会へ向かうことになるそうです。クローウッドに戻れると思っていたのですが、それを聞いて落胆してしまいました。


私は知らなかったのですが、クローウッド以外の土地はすでに大地の力が失われつつあり、農作物が上手く育たずに人々が貧困の一途を辿っているのだとか。


なので、このまま各地の教会を礼拝して周り女神様のお力を届けて欲しいと言われました。私が出来るのは女神像を光らせるくらいなのですが…そのような話を聞いてしまっては断れません。


しかし、クローウッドから来ているのは私とエドさんのみ。このままではすぐにバレてしまうのでは?と思ったら、クレイトスの教会から司教様と複数の神官・シスターが巡礼の旅に出るので、その集団に混ざるのだそうです。


それを聞いて、少し安心しました。

決まってしまったモノは仕方ありません。せっかくなので、旅を楽しんで王都も観光したいと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る