異世界生活・11日目

休憩が終わったら、馬車に揺られて隣街へ向かいます。

目的地までは馬車で10時間ほど。到着するのは夕方になりそうです。元の世界では都会に住んでいて、自然に触れる機会は数えるほどだったので、草原や木々に囲まれた道というのはとても新鮮でした。


この世界の事を何一つ知らない私に、エドさんが色々と説明してくれます。

魔物や、冒険者の事。王様やこの国の事。女神様の事…話を聞く度に「ここは異世界なんだ」というワクワクした気持ちと「元の世界に帰ることは出来ないかもしれない」という焦燥感に駆られました。


お話をしているうちに、隣街へ到着しました。クローウッドの街と似たような建物が並んでいますが、街の規模はこちらの方が大きいです。そして、城壁のような壁で周囲が囲われています。門には門兵が立っていて、人の出入りの際に身元の確認をしています。


この街はクレイトスといって、領主様が住んでいるのだそうです。なので、人の出入りも厳しくチェックしているんですね。


ここ、フォレントス王国には領主がいて、それぞれの土地を管理しているそうです。

クローウッドとクレイトスはマドリック公という方が治める土地で、国の中でも序列が高く豊かで安全なのだとか。日本の都道府県をイメージしましたが、各領地はそれぞれ独立しているので江戸時代の藩に近いのだと思います。



私達が向かうのは、クレイトスの中心部にある教会です。エドさんはそこの司教様と懇意にしているのだとか。教会の役職は上から教皇、枢機卿、大司教、司教、司祭、助祭、侍祭…とあって、エドさんは司祭だそうです。一般の人は教会に勤める人の事を「神官様」と呼んでいるので、役職名があるなんて思い至りませんでした。


クレイトスの教会はとても大きくて荘厳という言葉がピッタリな建物でした。中には大勢の神官やシスターがいて、内装の一つ一つが豪華です。たくさんの部屋の一つに通されて、司教様を待ちます。出された紅茶もカップも高級品なのがひと目でわかりました。


少し緊張しながら待っていると、数人の神官と共に司教様がやってきました。エドさんより少し若いでしょうか。とても丁寧に接してくださいます。なんでも若い頃にエドさんにお世話になったのだとか。


軽く挨拶を交わした後、まずは女神像へお祈りを…という事になりました。

礼拝場のある建物は大聖堂と呼ばれていて、何メートルもある美しいステンドグラスが壁一面に飾られています。

女神像もクローウッドの教会のものより大きくて、近くに行けるのは司教様や一部の神官のみだそうです。今回は特別に女神像の足元まで行くことが出来ました。


クローウッドから持ってきた花束を女神像の足元へお供えします。そして、皆で女神像へお祈りをしました。

ここの女神像も柔らかな光を放ちます。エドさん以外の皆さんが大変驚かれていました。…やはり、女神像が光るのはおかしいのでしょうか。


クローウッドのように、女神像から放射状に光が広がる事はありませんでしたが、後から聞いたところ大聖堂に光が降り注いだそうです。


その後、大切な話があると言われ司教様のお部屋へ案内されました。華美ではありませんがすべて高級品ですね。ソファに座るのも緊張してしまいました。


この後のことは、私も未だに信じられない気持ちでいっぱいです。違うと言いたいのですが、事象を起こしている以上認めざるを得ません。


私が聖女だなんて。

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