異世界生活・6日目

6日目にもなるとルーティンが確立します。

まず、夜明け前に起きて身支度。水道なんて無いので裏庭にある井戸で水を汲みます。最初は水の冷たさにビックリしましたが、今ではこの冷たさが気持ち良く感じます。


日が完全に登る頃に礼拝が始まるので、その前に礼拝堂を開けて軽くモップをかけます。汚れているから掃除というより、礼拝の作法みたいなものですね。この掃除は心の掃除の意味が強いです。なので、教会では熱心な方が礼拝の前に掃除をする姿がよく見られます。掃除をすることで心の整理をして、神の前に額づいて己の心と向き合うのだそうです。


朝の礼拝が終わると、食事の時間です。この世界は朝しっかり食べて、昼はなし。夜は軽く済ませるのがスタンダードなようです。昼がない分、お茶の時間は午前と午後に一回ずつあって、焼き菓子やサンドイッチを摘みます。アフタヌーンティーみたいな感じですね。


メニューは毎日ほぼ一緒です。黒くて少し酸味のあるパンが主食で、ステーキと野菜の入ったスープが出ます。朝からステーキはビックリしましたが、慣れるものですね。ちなみに、教会で頂く食べ物は教会の畑で採れたものと、ご近所さんからの差し入れです。


朝食が終わって、片付けが済むと次は教会へ寄せられた品物の仕分けをします。毎朝毎夕の礼拝毎に、何かしらの品物を持ってきてくださるのですが、教会だけで使うのではなく街の外れの孤児院の分も含まれているのです。孤児院の運営は厳密に言えば教会が行っているわけでは無いのですが、教義に『子は宝と心得よ。子の前には富めるも貧しきも平らであれ』とあるので、こうやって寄付された品を孤児院へ渡すのです。


ご近所さんもそれを知っているので問題ありません。孤児院へ直接渡さないのは、神様に供えられた物というのが大切だからなのと、孤児院へ直接寄付すると、それが孤児院の収入と見なされて税金が発生するからなのだそう。教会から渡されるのは供物の下げ渡しになるので、収入に換算されないというカラクリだそうです。


まぁ、そんなわけで一旦女神様の前に置いて祈りを捧げます。不思議なのは、祈る前と後で供物の量が変わるって事ですね。たぶん、お好みのモノを受け取って下さっているのでしょう。毎回違うものなので、バランス良く召し上がってるようです。物品はほぼそのままなのですが、本は確実に無くなります。そして、一定期間で戻ってくるのです。読み終わったからですかね?


そのうちお手紙でも書いてみましょうか。


さて、前日までに仕分けたモノがあるので食材と一緒に孤児院へ運びます。一人では運べないので貸し荷車を頼みます。荷車を曳くブーモという牛に似た動物も一緒なので、私は付き添うだけです。ブーモはとても賢くて、行き先を告げれば一匹でも確実にその場所まで行ってくれます。荷運びが終わると、ブーモにアププという、りんごに似た果物を食べさせてあげればあとは自分で帰っていきます。


荷車の貸賃は、通常一回で銅貨10枚。教会は毎日使うから、専属のブーモと荷車を所持していて、貸し荷車屋でひと月銀貨1枚で預かってもらっているのです。価値が未だに覚えられないのですが、銀貨1枚では毎日の餌代にしかならないそうなので、荷車屋さんからの寄付のようなものだと思います。


孤児院へ品物を運び、子供達と少し遊びます。サボっている訳ではなく、こうして子供達と触れ合いながら、健康状態などを確認するのも私のお仕事なんです。子供達はなかなか自分の異変を大人に言わないので、こうしてさり気なくチェックしています。

年長の子が少し足を引き摺っていたので、院長先生へ伝えておきました。お茶をして教会へ戻ります。


もうすぐ夕方の礼拝時間になるので、礼拝堂をかるくモップ掛けして扉を開けておきます。私が来てから参拝者が増えていると聞きました。…まぁ、女神像が光りますからね。そろそろ自分のせいなんじゃないかと思い始めました。いえ、気付いていたんです。本当は。でも、現実から目を逸らしたくて…


生活に慣れて来ましたし、受け入れなければいけませんね。


礼拝が終わり、具の少ないスープとパンで軽く食事をするとあとは就寝です。身を清めてベッドに入ります。

今日も変わらないけれど充実した1日でした。

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