第4話 恋の炎
出来が良くない私の頭でも、
このような現象が世界中で起きているのなら、この交差点で意識を失っている人たちだけを救えたとしてもそれはただの自己満足と言われても仕方がないことであるかもしれなかった。
でも、目に映っている以上、見捨てて逃げるって難しい。
この気絶してしまっている人たちにも家族がいて、帰りを待っている人がきっといるに違いないからだ。
自分の身体が、まるで別人のように軽く、力強く動かせていることに少し気分が高揚した。
あれ? 殴りつけた拳も痛くないし、なんか私、頑丈になってる!
『こりゃ、体力の無駄遣いをするでない。屍鬼には中途半端な打撃など効果が薄い。両足をへし折ったり、首をもいだりすればしばらくは行動不能にできるが、効率が悪い。
『
『そうじゃ、儂を宿し、ご神体と化した今のお前には、神たる儂の力を使役することができるようになっとる。もっとも修練を積み、もっと力を増さねば全てを思い通りにとはいかんがな』
「えー、すごい。どんなことができるの?」
理世は掴みかかって来る屍鬼たちを躱しながら、白兎に問いかける。
『良いか。屍鬼には炎が有効じゃ。儂の
「ええっ、≪恋の炎≫? 何それ、可愛い名前だけど弱そう」
『五月蠅い。儂は縁結びの神様でもあるのじゃから、ネーミングについてはしょうがないじゃろ。良いから黙って、屍鬼に掌を向け、≪恋の炎≫と唱えるんじゃ。最初はちょっと手伝ってやるから、それで感覚をつかめよ』
理世は言われた通り、日よけのつば広帽子をかぶった美魔女っぽい屍鬼に向かって、掌を向けた。
屍鬼って言われても、ついさっきまで普通に生きていた同じ人間だ。
冷静になって見るとちょっと気が
さっきは殴ったり、蹴ったりしてごめんなさい。
そして、これからすることも許してね。
本当に、本当に、ごめんなさい。
「成仏して、恋の炎!」
理世の掛け声と同時に、桃色の炎が球状になって現れ、マダムっぽい屍鬼に向かって飛んで行った。
桃色の火球は屍鬼の身体に命中すると瞬く間に全身に燃え広がり、断末魔の叫びを上げさせる暇もなく、一瞬で炭化させてしまった。
「ひえっ、怖い」
理世はあまりの威力にたじろぎ、思わず頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
魔法みたいで凄いけど、怖すぎる。
人が一瞬で燃えてしまった。
『ほれ、次が来るぞ。その小さな頭を
「嫌です……」
理世は白兎の脅しに、渋々立上り、迫りくる屍鬼たちに≪恋の炎≫を連発していく。
「……恋の炎! 恋の炎!恋の炎!恋の……ほのおー、ハァ、ハァ……」
なんか一気に疲れてしまった。
「ううっ、もう無理かも」
頭が少しぼんやりして、酸欠ともちょっと違うんだけど、しゃがみ込みたくなるようなそんな疲労が感じられる。
『どうじゃ、気がすんだか。見ろ、切りがないことにまた少しずつこっちに屍鬼たちが集まりだしたぞ』
白兎神の指摘通り、今回の異変による死者はまだまだいるらしく、その全てが屍鬼になっているわけではないようではあったが、遠く壊れた乗用車の影や瓦礫の向こう側、損壊したビルや建物の方にもちらほら動く人影が確認できた。
だが、動き出したのは屍鬼たちだけではなかった。
気絶し、地面に横たわったままになっていた人々が一斉に、動き出したのだ。
そして、にわかに溢れる絶叫と混乱。
「ひ、人が燃えてる!」
「世界の終わりだ。」
「大地震だ。消防、警察、いや自衛隊を呼べ」
パニック状態になった群衆が無秩序な動きを見せ始め、辺りは騒然となり始めた。
「くそっ、なんだ。こいつら。怪我人なのに俺たちを襲ってくる!」
「ゾンビじゃね? これってゾンビじゃね?」
「まさこー。俺がわからないのか。か、かじるな。引っ掻くな!正気を取り戻してくれ」
屍鬼たちと遭遇し、恐慌状態になったり、格闘を始めた人たちもいる。
『理世、混乱に乗じて、儂らもとんずらするぞ。妙な力を持った人間がいると普通の人間たちに知られると色々と面倒だ。いいな!』
「ふぁい……」
白兎様、神様なのにとんずらとか言っちゃって、すごく俗っぽいなー。
ちっとも神様らしくないよね。
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