第3話 名前


「ねぇラムィ。私の名前……だっけ、アムと言ったよね。それは一体なんなの?」

 宇宙を彷徨って三ヶ月程経った頃、私はふと自分には名前というものがあることを思い出した。宇宙の本でも天界でもヌビリにも教わらなかったもの。

「んー……名前っていうのは空番の子が貰える勲章のようなものだよ。この世に存在している事の証明……みたいな。でも、僕も正直よく分かっていないんだ」

「そっか、なにか意味があるのかと思った」

「意味はあると思う。アムって名前にも、ラムィって名前にも。でもその意味は空番の役目を終えない限り誰も教えてくれないんだ」

「そっかぁ。じゃあ早く役目を終えないとだね」

 私がそう言うと、ラムィは少し寂しがるように私から目を逸らした。

「…………ラムィは、いつからここに居るの?」

 宇宙に来てから三ヶ月もの間、飽きることなく会話をしてきたのに、肝心なラムィのことを私は何も知らなかった。

「空想員になってから、もう四年になるよ」

「そんなに?随分と長いんだ」

「空想員に終わりは無いからね」

「……そう、なんだね」

 終わりはない、という言葉に私は違和感を覚えながらも、私は続けて「寂しくない?」そう問い掛けた。

 ラムィは私の方を見て優しく微笑んだあと、ぐっと指を折り曲げてその拳に爪がめり込むほど何かの感情を押し殺していた。

「旅立っていく空番の子を見るのは少し寂しいけれど、同時に嬉しくもある。素晴らしい世界は誰もが幸せになれるはずだから……だから…………どうかみんな、アムも、幸せになって欲しい」

「幸せに……?」

「幸せに」

 ラムィのその言葉は重く私の心に突き刺さった。空番と空想員は立場が違うと言うのがあるけれど、楽観的なラムィの言葉の中には、深い孤独が渦巻いている気がした。

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