第4話 別れ

「大丈夫、怖いことなんて何もないよ」

「こんな真っ暗で、どうして平気なの…えーん」

「あわあわ、どうしよう」

 数ヶ月の日々が経ち、私は空番の中でも先輩という立ち位置になりつつあった。空想員でも無いのに多くの新しい空番の子を気にかけるようになっていた私は、その日々の充実さを喜んだ。素晴らしい世界に行くまでの間、やることなんて特になく、地球や星々の合唱を聴いたりする程度だったので空番の子の世話は、暇つぶしにはちょうどいいものだった。

 泣きじゃくる空番の子の世話をし終わって、一息着こうと雲道へ向かおうとした時、地球が奏でる音楽に違和感があることに気づいた。

 音はめちゃくちゃで、時々エコーする。私が世話をしている間に地球に一体何があったのか。

「ねぇ、なにか聴こえが悪くない?」

 私はすぐ隣にいた空番の子に話しかけた。

「----?--------、--」

「え、なんて?」

「――――?――――、――――」

 彼女の言ってる言葉がよく分からない、聴こえない。これは一体……。

「なに、私の耳が、おかしいの……?」

 視界に映るものはどれも今までの日常と変わらないのに、その音が変だ。

 戸惑いながら、私はただ地球を見つめる。そして地球に手を伸ばそうとした時に、私は絶望に気づいた。

 手足が全く動かないのだ。必死に動かそうにも、力は入らず、もはや神経が通っているのかすら怪しい。

「どうして……?! あ、ラムィ!」

 傍を通りかかったラムィを思わず引き止める。

「どうしたの、そんな必死な顔して」

 ラムィの声が聞こえる事を確認すると少し安堵したものの、動揺は治まらない。

「動かないの、手も、足も、助けて、それに耳も、聴こえが変なの、」

 私の言葉足らずの必死の説明に、ラムィはただ私を見下ろす。そして何かを悟ったような顔で白のクレヨンで光の道を作り、私の頭を優しく撫でる。

「ごめんね。僕は……君がゆくべき所へ帰る手助けしか出来ない」

「どう言うこと?! 私、どうなるの?!」


「素晴らしい世界の話は、忘れてね」


 ラムィの瞳は、酷く潤んでいる。


 心做しか、私はその言葉の意味が分かった気がした。

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