通告 1話

「もう、本当に会えないんだ…お母さん…お父さん…」

「えりちゃん、大丈夫だよ。これから私がずっと一緒に居てあげるから!だから泣かないで!」


泣いている少女、蛇ノ目英理歌は当時12歳であり、これは小学校6年生程の幼さだった。

先日、両親が通り魔に刺殺されてしまい、親権者となる人物が居なかったため幼馴染みであった藍晶水仙の家に引き取られる事になった。


「ここが自分の家だと思って気楽にね、私達は家族みたいなモノなんだから!」

「そうそう!怖がらないでいいよ!」

「迷惑が掛かるとか気にしないでドンドン迷惑を掛けてもらっていいぞ!」


少女はそんな温かい言葉と共に新たなる家族に受け入れられた。



それから1年の年月が経ち少女達は中学生になった。

それだけの時間があれば少女も両親の死を受け止め、新しい生活にも慣れ、藍晶との生活を楽しんでいた。


「起きて、朝だよ」

「んー…あといちじかん…」

「毎日そう言って学校に遅刻しそうになるじゃん。起きて」

「うるさい…」

「わっ」


平日の朝、何時もの如く時間になっても起きない藍晶を少女が揺すり起こそうとするがベッドに引きずり込まれた。


「また…早く離して」

「いや…はなさない…」

「ていっ」


あと少しでも近づいたら唇が触れ合ってしまう程の距離の中、少女は少し頬を赤くしながら目の前でぐっすり寝ている藍晶に向い手刀を放つ。


「いたっ!もー!えりちゃん、何するの!?」

「起きないすいちゃんが悪い」

「もっと優しい起こし方があるじゃん!」

「はいはい、文句は後でね。私は先に下に降りてるから、早く来てね」

「はーい」


お互いを「えりちゃん」「すいちゃん」と渾名で呼び合う光景は仲の良い友人の様だった。



「行ってきます」

「行ってきまーす」


朝の支度が終わった少女達はいつも通りの時間で学校へ向い家を出た。


「今日何かあったっけ?」

「今日は歴史のレポートの提出日だけど…やった?」

「うげっ、忘れてた。やばい…どうしよう…そのー英理歌様、見せてもらったりとかはー?」

「丸写しはやめてね」

「やったー!ありがたやありがたや」


道中でそんな他愛もない会話をしながら歩いていく。



「おはよー!」

「おはよ」

「おはよー」


自分の教室に到着し、先に席に着いていたよく絡む友達の新庄千草しんじょうちぐさに挨拶し席に座る。 


「水仙さーん、レポート、終わってますかー?」

「全然終わってません!」

「そんな堂々と…」

「だって皆終わってないもん!周り見てみてよ」


教室にいる大多数が歴史の教科書を机の上に出し、レポートを必死に終わらせようとシャーペンを走らせていた。


「だからってそんな堂々としないでよ」

「別にいいじゃん。というかー千草は終わったの?」

「………手を着けてはいる」

「終わってないじゃん!えりちゃんが見せてくれるから今の内に終わらせちゃお」

「おお!助かる!えりちゃん、ありがと!」

「えりちゃんと呼ぶな」

「いたたた!」


少女をえりちゃんと呼んだ新庄が少女にアイアンクローをされ、顔面からミシミシという人体から出てはいけないであろう音が鳴る。


「やめっ、やめてください!それ以上は死んでしまいます!」

「反省した?」

「はいっ、反省しました!だからっ!だからどうか御慈悲を!」

「次はない」

「助かった…大丈夫?私の顔ジャガイモみたいになってない?」

「大丈夫大丈夫、いつも通りだよ」

「私の握力をなんだと思ってるの?」

「ゴリr…すみません許してください何でもしますだから、だからどうかその手を降ろしてくれませんか?」


先程の流れで何も学んでいないのかゴリラと言いかけた藍晶に少女が掌を向けアイアンクローをしようとするが、直前で謝ったので事なきを得た。


「水仙にはレポート見せないから」

「何で私だけっ!?」



学校が終わり皆がワイワイと楽しそうに話しながら帰っていく中、藍晶はとてもやつれていた。


「あー…づがれだー」

「お疲れ様」

「誰のせいじゃ!えりちゃんが見せてくれなかったから授業中内職してやっと終わらせたんだからね!」

「元はやってなかったすいちゃんが悪いよ」

「ぐぅ」


藍晶は少女からぐぅの音も出ない正論パンチを喰らい黙る事しかできなかった。


「てかー、何ですいちゃんは学校で私の事水仙って呼ぶの?」

「…から」

「え?」

「恥ずかしいから!」

「…え?そんな理由だったの?」

「そう。…悪い?」

「なーんだ、そんな理由なんだ?かわいいー!」

「からかうなー!」

「いたっ!」


少女は顔を赤くしながらからかってくる藍晶に向けてまた手刀を放った。


「はーあ…こんな日が続くといいね」

「そうだね」


それはいつもと変わらない、平穏で普通な最後の日常だった。

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人間不信ちゃんとヤンデレちゃん 鏡華 @kei_usshy

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