9話 社長令嬢変態ヤンデレ美少女厄介公認ストーカー

私が目覚めてから二日経った。その間にクラスメイト達がお見舞いに来て病室を爆破したが大した事は起きていない。

しかし、幾らあと一日で退院出来ると言えど私が腹を刺された事に変わりはない。

動けば傷が少しばかり痛むし安静にしていろと医者から言われている。普通に考えればこんな状態で鬼ごっこをしようとは考えないだろう。


「待って!待ってください!やっと会えたんですよ!?なんで逃げるんですか!?」

「貞操の危機を感じた!」

「……そ、そそそそんなこと微塵も考えてま、ません…よ」

「考えているじゃないか!」


つまり、こういう事だ。

何があったか話そう、たったの数分前の事だ。



〜数分前〜



やはり男性教師は冤罪でも退職させられる可能性がある…女子生徒数人で校長室に泣きながらセクハラされましたと言いに行き、それを複数回繰り返した結果その男性教師は解雇された。……実に胸糞悪い。痴漢冤罪よりも余程達が悪いな。繊維鑑定やDNA鑑定、それに防犯カメラなどを──


コンコン


人か、医者はさっき来たし忍や赤花は少し前に来たばかり…誰だ?


「どうぞ」

「し、失礼、します」


聞き覚えのない声が聞こえ、入ってきたのは黒髪ロングでアイビーの葉の形をした髪飾りを着けているどこか既視感がある美少女だった。


『一応注意しとけ』

「……久しぶり。確か…雅愛歌みやびあいかだったか?」

「あ、お、覚えてて、くれたんですね」

「あんな強烈な事をされたら忘れろという方が無理だろう」

「その時の事は忘れてください!」

「無理だ」


雅愛歌。私が小学生の頃に助けた少女で、私の公認ストーカー。改めて考えると公認ストーカーとか本当に意味が分からない。何故当時の私は許可したんだ?


「それより、その、傷は大丈夫ですか?」

「あぁ、後一日で退院出来る。そっちは元気だったか?」

「は、はい!順調です!あ、此処に来た目的を忘れちゃう所でした。これを」


そう言って持っていた袋から取り出したのは有り得ない量の箱やお菓子だった。

忍といい雅といい世界の法則を破り過ぎでは?いや、もう慣れからいいんだがやはり学校での教育は当てにならないな。


「多すぎないか?」

「あっ、そ、そうでしたか?気分を害してしまったらすみません。死にますね」

「私は気にしていないから死ぬな」

「分かりました」


取り敢えず近くにあった箱を開けて中身を確に…ん………

よし、見なかった事にしよう。私は現金が詰まった箱なんて見なかった。うん、そうだ。私は何も見なかった。

き、気を取り直して次の箱を………

まあ、こうなるとは薄々思っていたがこれも現金が詰まってる……


「よくこの量の現金を用意できたな」

「えへへ、実は私の家ってお金持ちなんです。あ、もちろんそのお金は自分のですよ。私の両親も『好きな人ができた?分かった。好きにしなさい。私達も全力でサポートしよう』といって快諾してくれました。あ、あと『今度私達の所に来なさい、お話死しようじゃないか』と言ってました」

「………ちなみに両親はどんな職業だ?」

「えっと、お父様が雅グループの会長です。お母様はモデルをしています」

「……………さて、国外逃亡でもしようか」


面倒臭い、非常に厄介だ。私でも雅グループを敵に回すとなると骨が折れる。そんな事になる位なら国外逃亡した方がマシだ。

雅グループ、日本最大の財閥であり会長の一言だけでいともたやすく人一人の人生を終了させられる程の影響力を持った財閥。

そして私はその会長に呼び出されたと……いや、まだ敵とは限らない。

まあ、もし敵でも最大限の嫌がらせはさせてもらうが


「えっと…多分そんな事にはならないと思いますし私がさせません」

「読心術か…雅グループだと必修技能だな。うん」

「別に必修技能じゃないですよ!?」

「…私はどうすればいい?取り敢えず今までの失礼な態度に土下座した方がいいか?」

「し、しなくていいです!頭を上げてください!」

「じゃあ、どうしてほしい?」

「えっと、じゃあ……少しは、いいよね。だ、抱きしめてさせてください!」

『逃げろ!今すぐ逃げろ!貞操がやばい!』

「分かった…………は?」

「や、やった!えと、それじゃあ、えいっ」

『早く抜け出せ!そして逃げろ!あと落ち着け!』

「え?は?」


?????おおおお落ち着け。こういう時は素数を数えるといいらしい…2.4.6.8.10.12.14.16.18.20。ふう、落ち着いた。

『偶数だろ。落ち着け』

私は冷静だ。現実を受け止めよう。

現在私は雅に抱きしめられていて震えが止まらない。

そして雅グループの会長に呼び出されている。

……受け入れたくない。


「ふへ、いい匂い。スーーーーーーーーーーッ」

「…吸うな!私は猫じゃない!離せ!あと息を出せ!死ぬぞ!」

『そいつの事なんて気にせずさっさと逃げろ!』

「プフゥーー……も、もっと」

「離せ!や、やめろ!私の側に近寄るなぁぁぁ!!!」

「あっ、逃げないでください!待って!もっと抱きしめさせてください!」

『なんだこいつクソ速いぞ!?』

「私の!貞操の!危機なんだ!」

「傷が広がっちゃいます!止まってください!」

「嫌だ!」


正直少し痛いが私の貞操に比べれば安い。今はとにかく逃げなければ。

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