6話 自己犠牲 ※一部三人称
これは単なる独り言だから聞き流してもらって構わない。本当に単なるつまらない独り言だ。これを聞かなくても君の未来に大きな影響はないだろう。
よくあるだろう?テレビ等で何が起こるか期待していたらCMや広告に邪魔される、なんて。これはそんな聞く価値も無い独り言だ。これはフリでもなんでもない。君も一刻でも早く今起こっている物語の続きを知りたいだろう?
君は目の前で人が刺されたらどうする?
一般的には警察を呼ぶ、救急車を呼ぶ等答えられるだろう。
しかし、いざ本当にそれが自分の目の前で起こったらそれを実行出来るだろうか?
君は絶対に実行出来ると言い切れるのだろうか?
実際、目の前で突然起こったらすぐに反応するのは難しいだろう。唖然とし、立ち尽くしてしまうかもしれない。恐怖で悲鳴を上げ、その場にへたり込んでしまうかもしれない。
飽く迄も私の持論だが、それらは悪い事ではない。しかし、良い事とも言えない。
目の前で起こるのは異常な事だ。異常事態に咄嗟に反応出来る人間の方が少ないだろう。しかし、その場で立ち尽くす等と何も行動を起こさないのは危険過ぎる。
もし犯人が向かってきたら?もし警察をすぐに呼んでいたら人が死なずに済んだら?それらは可能性に過ぎないが起こる可能性があるならリスクは避けた方が良いだろう。
時々「もし私がすぐに警察や救急車を呼んでたらあの人は死なずに済んだ」というくだらない考えに囚われ、罪悪感に苛まれる人が居るがそれは余りにも愚かな行為だ。そいつが死んだ理由は君の所為ではなく、殺した奴が悪い。なので気負うな
さて、ここまで散々事件に出会した時の事について語ったが残念ながら世の中には『その状況をスマホで録画し何もせず終わったらネットに上げる』という非常に愚かで、倫理観の欠片もなく、自分の事しか考えないエゴイストが居る。
冷静的に考えよう。人が死ぬ場面を面白がり撮影する行為はどう思う?有り得ないだろう?
そしてそれをネットに上げるなんてどうやったらそんな思考が出来るのだろうか?被害者のプライバシー、加害者の関係者のプライバシー、倫理観。これ等を軽視し過ぎている。
例え話をしよう。
ある所に普通の家庭で生まれ、普通に育った少女が居ました。
その少女は友達との買い物をしていました。
しかし、その少女に不審者が近付いて行きます。
少女が気付いたがもう遅く、友達はナイフで刺されてしまいました。
不審者は標的を変え、他の人を襲い始めました。
少女は当然周囲の人間に助けを求めました。しかし目に入るのはスマホをこちらに向ける人々の姿でした。
誰かが警察を呼んだのでしょう。警察がやってきてその不審者は逮捕されました。
場面は変わり少女は学校に登校しました。登校した少女は周囲に違和感を感じました。何処か視線が集まっています。
教室に入って待っていたのは「大丈夫?」「怖かったね」などの同情や憐憫、心配の声でした。
少女は混乱しました。テレビで放送されはしたものの顔は隠されていたし、警察からも関係者に口外しないよう言っていてプライバシーは守られる筈でした。
しかし、その場に出会し、動画を撮っていた人間が無断で顔も隠さずネットに上げたのです。
結果、少女やその友達、加害者も不特定多数の人間に知れ渡りました。
クラスメイト達はそれに気付き、少女に声を掛けました。
だけどそれの善意が少女にとって良い事ではありません。少女は事件のトラウマを抉られました。当時の光景がフラッシュバックしパニックを起こしてしまいました。
そして、周囲から浮き、大切な友達を失った少女は耐えきれず自殺してしまいました。
加え、加害者の家族も周囲から蔑まれ、いじめられました。そして、加害者の家族も自殺しました。おわり
さて、私はこれの一番の戦犯はネットに上げた奴だと考える。もし自分がこの様な状況になったとしたら徹底的にそいつも断罪するだろう。
もし、自分が似たような状況になったら、だが
全部聞くとは…君は暇なのか?それとも物好きなのか?
だが、こんな独り言に付き合ってくれた君に感謝を。
閑話休題
「お前のせいで!」
「え?」
ナイフを振り下ろそうとしている黒フードを被った女と何が起きているか分からずただ唖然としている忍の姿があった
その凶器は勢い良く振り下ろされ
ザシュ──
いとも容易く人間の皮膚を引き裂き
ポトッポトッ──
肉を貫き
「英理歌…?」
忍を庇った英理歌の腹部に深く突き刺さった
「お前じゃない!お前じゃない!お前じゃない!」
「ぐっ…黙、れ!」
「やめろ!はなs─」
英理歌はナイフが振り下ろされる瞬間、咄嗟に忍を突き飛ばし自身を犠牲にする事で忍を庇ったのである。
英理歌が腹部にナイフが刺さっても尚自分の大切な人を失わない為に痛みを痩せ我慢しながら女を締め落とし意識を奪う。
されどナイフが刺さっている状態で激しい動きをしたら傷口が広がり出血量も多くなる。
「忍、警察と救急車」
「う、うん!」
血が失われていき意識が朦朧していくのに加えナイフで刺された強烈な痛みに耐え冷静な指示を出す。
周囲には鉄のようなむせ返る血の臭いが広がり、腹からは血が止めどなく流れ出て地面を赤く染めていく。
周囲の傍観者達は駆け寄って来たり応急処置をする訳でもなく唯目の前で起きている事に驚き立ち竦んでいるか、こんな珍しい光景をスマホで写真を撮るだけである。
「英理歌!大丈夫?血が凄い流れてるけど」
「あー…ナイフ刺さってる、からこれは抜か、ないでくれ、抜いた方、が危険だ。」
「英理歌…大丈夫だよね?死なないよね?」
「……あぁ、私は、死なないよ。約束は守る」
「だよね、ずっと一緒にいるって約束したもんね」
そんな事を話していても血は流れ出ていき、視界も少し灰色に染まってきている。
「ゲホッ!ゴボッ」
ベチャ
口から出た赤黒い液体の塊が地面に落ち更に赤黒く染め上げる。当然抱きついている忍の服も、忍に選んでもらった服も赤く、赤く染まっていく。
「英理歌!英理歌ぁ!」
「だい、じょうぶ、だ、から、なく、な」
「うぅ、ぐすっ、喋ったらもっと酷くなっちゃうよ!」
刺された腹部がとても熱を持っており嫌でも重傷だと分かってしまう。大分血が流れているのに加え、此処まで刺さっていたら臓器も傷ついく可能性も多いに有り得るだろう。
この時点で英理歌は意識が無くなりそうだが気合いで意識を保っているとサイレンが聞こえてくる。警察と救急隊が到着したのだろう。
「英理歌っ!救急車来たよ!もう大丈夫だよ!」
「そう、か、よか、った」
「英理歌?ねぇ、英理歌?返事してよ!えりかぁ!」
安心したことにより緊張が解け、意識が失われていく。
沈み行く意識の中、視界に捉えたのは。駆け寄ってくる警察と救急隊、涙や鼻水が顔がぐちゃぐちゃになりながら必死に声を掛ける忍。
完全に意識が黒く染まる寸前、視界の端に写ったのは、昔見た事がある顔だった。
「絶対に逃さない」
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