第19話 ペンギンを詠う社会批判(2)

 こんなのができる子じゃないと思ってた。

 いや。

 八重やえがきかいの相互評価でも、こんなにさりげなく歌の意義を引っぱり出すなんて、なかなかない。

 その千英ちえ

「少なくとも相手方のパンダ短歌よりはずっとよかった」

……と言われて、朝穂あさほはずっこける。

 いや。ベッドにきちんと腰掛けてるから、とりあえずずっこけはしないけど。

 それはそうでしょうよ!

 あのパンダ短歌を作った穂積ほづみあきら、短歌としての評価とかぜんぜん考えてないんだから。

 そこに、コップを拭いて、人数分のコップとかマグカップとかもトレイに載せて持って、あいが戻って来た。

 戻って来て、自分の椅子に座って、短めロングの髪が前に回ってくるのをぱさっとやる。

 なんか。

 色っぽい。

 「八重垣会って」

 その色っぽさを見せた愛が、またあのとろぉんとした声で言う。

 「社会批判短歌なんでしょ?」

 ぱん、と、紙玉鉄砲で胸を打ち抜かれた感じがした。

 紙玉や発泡スチロール玉では胸は打ち抜けないけど。

 ぎくっ、としたのは確かだ。

 そうやって、ぱん、とやっておいて、愛が続けて言う。

 「だから、由己ゆきのペンギン短歌も、ペンギンのかわいらしさと、人間社会批判と、両方が両立してて、すごいと思った」

 そんな評価、八重垣会の相互評価でもめったに出ないんだけど!

 「いや」

 由己が困っている。

 言うか、どうしようか。

 「短歌は社会批判の武器であるべきです。いや、文学っていうのは社会批判の武器であるべきです」

といつも言っているのがあの顧問の細川ほそかわ恵理えり先生だ。

 でも、その恵理先生理論を信じているのは、部長の道村みちむら先輩と、部長と同じ三年の猿渡さわたり総乃ふさのさんと、樹理じゅりだけ。

 たぶん、一年の片山かたやま留美南るみなもそんなの信じてないと思う。

 そういう会の現状を前に、先生はもっと批判的になりなさいと叱責しっせきする。

 道村先輩や総乃さんでも叱責される。

 というより、批判的なはずのその二人がいちばん叱責される。

 先生も、そんなので青筋立ててるから、あの穂積晶に思いっきり愚弄ぐろうされるんだ。

 「青白く」

 いや、違う。

 青白いのは、朝穂自身の色。

 青白色は、美しい。

 由己も、その青白くてはかなげに見えるところが美しい。

 だから、先生は青白ではないと思うから。

 「青黒く 青筋立てたら パンダだよ」

 ……自分までパンダ短歌を構想してどうするんだ!

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