Breed

 夏の終わり、暑さも柔らぎ涼しい風が心地よい真夜中、俺はいつもの様に“ネコのオアシス”で休んでいた。

 異常気象の夏を終え、ネコの為の心地良い真夜中にふと群れに目をやるといつもならヒステリックに声をあげる白猫の“しらす”が見当たらない事に気がつく。


 隣で寝ている情報屋の“いちご”を起こし話しを聞いてみる事にした。


「おい、いちご起きてくれ」


 軽く叩いて見るが起きる気配が無い。コイツは本当にネコなのか?警戒心の欠片も無い。


俺は耳を噛んだ。


「にゃ!みりんさんおはようございます」


「オマエはネコなのに警戒心が足りないと見た」


「どうしても昼間の監視で疲れるんですよ。それに此処は敵も居ませんし」


 そう言うと後ろ足で耳を勢い良く掻き出す……毛が辺りに舞い散る……辞めてくれ俺はネコアレルギーなのだ。


「ネコらしく気配で起きてくれ、本題だが最近しらすを見かけないな、アイツはヒステリックに鳴き喚くから目立つ筈なんだが……」


「しらすさんだけではありません!ここ最近、毛並みの綺麗なネコを中心に姿が見えなくなっているんですよ!」  


「怪しいな……何か知っているか?」


「最近、作業着の男がネコのオアシスの周りを徘徊しています。作業着にはペットショップ“Breed”の刺繍がしてありました!」


 大型ショッピングセンターにあるペットショップ“Breed”

 噂ではあるがネコの保護を名目に野良ネコを攫い売りつけてるって噂だ……本当だとしたら許せる事では無い……人間って奴は本当に愚かだ。

 我々と同じ動物なら小賢し真似はせずに裸で狩りでもすれば良いものの……


「いちごよ、怪しいとは思わないか?」


「怪しいですね……みりんさん、いつもの様に忍び込みますか!?」


「あぁ、正体を暴いてやろう」


 ネコのオアシスのすぐ裏に位置する大型ショッピングセンターへ二匹は向かう。


「大きい建物ですね、みりんさん」


「本当にでかい建物だ……建てるのにキャットフードがどれぐらい買えるんだ?」


「それは僕にもわかりません……」


「ペットショップは何処だ?」


「一階の突き当たりの店です。あそこの通気口が壊れています!あそこから入りましょう」


 二匹は通気口の隙間からショッピングセンターに侵入。真夜中の為、店の中に人の影は見当たらなかった。


「入れたな……何か聞こえないか?」


 耳を澄ませると遠くからネコの鳴き声が聞こえてくる。


「みりんさんあっちです!」


 ペットショップ“Breed”に着くと小さな値札を貼られた檻がずらりと並べられてある。

 一際大きな鳴き声の前に行ってみるとしらすが狭い檻に入れられていた。


「みりんにいちごじゃない!アンタ達早く私を助けなさいよ!暴れるのも疲れるじゃない!」


「あぁ今出してやるよ」


せっかく助けて来たのにこのヒステリックな態度だ……俺はふとしらすの値札を見てみた。


¥1280円


「しらすさん!しらすさんの売値は1280円です!」


いちごが余計な事を口にする……


「1280円!!!ふざけるんじゃないわよ!昨今の秋刀魚より安いじゃない!」


しらすはさらにヒステリックに暴れる……しかし俺は気づいてしまった……値札の下の『更に50%OFF』の文字に……あんまり暴れるから値下げされたのだろう……勿論余計な事は言わない。


「さぁ始めるか……」


 俺は檻の鍵を片っ端から自慢の犬歯で壊していく(ネコなのに犬歯とは気に入らないが)人間共はネコが非力だと思っているのか実にチープな鍵だった。壊す事に苦労はしない。


「おい、いちご!売り上げの札束を紙屑にしてやれ!」


「了解です!」


 野良ネコを攫い安値で売りつける等言語道断。

 俺達の生き方を邪魔する人間は許さない。この店もぶっ壊してやる。


 辺りを見ると1280円が余程に頭に来てるのかしらすの暴れっぷりは凄まじいものだった。本当は50%OFFの640円なのだが……


 他の囚われたネコ達も大いに暴れ、店は元の姿からはかけ離れた姿になってしまった。

 売り上げの札束もいちごが綺麗に紙屑に変え、この店はもう終わりだと確信する。


「朝が近い、ここまでだ」


 俺達は夜明けと共に囚われたネコ達と店を後にする。


 後日いちごから聞いた話しだがペットショップから鮮魚店に変わっていたらしい。


「みりんさん!初物の秋刀魚が一匹1600円だそうですよ!」


「そうか、今年の秋刀魚は不作だな……」


 evil cat blues “Breed”

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