Paint It Black

 俺は黒猫の“クロ”


 その名の通り真っ黒な毛皮だ。

 真っ黒と言ってもただの黒じゃない。

 光を吸収してしまう様な極上の黒だ。

 夜の闇に紛れてしまえば俺の事は見つけるのは不可能である。

 瞳だけが闇の中で光る。

 夜に俺を見つけたればその光る瞳を探してくれ。


 俺は兄貴分の“みりん”の思想に惚れ込んでいる。


 人間の繁栄の為に俺達が生きにくくなるなんて吐き気がする。

 その思想の元、奴は奴なりのやり方をやれば良い。そして俺は俺なりのやり方がある。


“俺は群れる事は決してしない”


 一匹狼ならぬ一匹猫だ。俺は俺のやり方で反旗を翻す。それも塗り潰された真っ黒な旗だ。


 俺のやり方を教えてやろう。


 俺はあるペンキ屋に居候している。猫好きマスターの好意を逆手に取り、食事と寝床を与えて貰っている訳だ。

 少し猫撫で声を出せば骨抜きになる。本当に人間とは愚かな物だ。


 俺はそのペンキ屋から黒のペンキを拝借する。


 俺の強いこだわりで使用するのは“ベンダブラック”だ。このペンキはブラックホールの様に真っ黒だ。全く光を反射しない。俺の唯一の相棒とも言える。


 夜の闇が一番深い真夜中に俺は動き出す。

拝借したベンダブラックを体に塗り付ければ準備完了だ。


“人間の世界を黒く塗り潰す”


 外の世界は愚かな人間の作った物で埋め尽くされている。俺はそれが不快で堪らない。


 まずは間抜けな面の写真が並んでる選挙のポスター。


 端から端まで体に塗り付けたベンダブラックで塗り潰す。


 目元には黒目線を入れてやりまるで指名手配の写真の様なアート作品の出来上がりだ。


 毎晩、毎晩、選挙カーの演説がうるさいから不眠症のネコが増えちまってる、その報復だ。


 俺は世界を塗り潰す。


 車の窓ガラスを塗り潰す。


 家の表札を塗り潰す。


 コンビニの看板を塗り潰す。


 工事中の看板を塗り潰す。


 道路標識を塗り潰す。


 塗り潰せ。


 塗り潰せ。


 塗り潰せ。


 世界の全てを黒く塗り潰してしまえ。


 ベンダブラックを纏った俺は夜の闇に紛れて誰も見つける事は出来ない。


“ブラックアーティスト”


 世間ではそんな名前のアートテロリストの仕業だと思ってるらしい。


 まさか犯人がネコだとは思わないだろう。


 やがて朝日が昇り始め俺の仕事は終わる。


「また悪戯して」


 居候先に帰ると店主が俺を丁寧に洗ってくれる。水に流れた黒いペンキを見て俺は達成感に包まれる。


「ありがとよ、マスター」


 俺はお礼に短く鳴くとペンキ屋のレジの上で眠りに着く。


 俺は、夢の中でも全ての世界を塗り潰す。

今晩、お前の夢を塗り潰してやろうか?


 evil cat blues ”paint it black”




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