crazy doctor


 この街は俺のテリトリー

 俺達ネコの生き方に害を与える者には容赦はしない

 それがこの俺のやり方だ


 嫌な噂を耳にした……近頃ある動物病院に出入りするネコが決まって体調を崩しているらしい。


 ヤブ医者め……飼い主の不安を煽り必要の無い薬を処方してるに違いない。

 

 噂が確信に変わったのは白猫の“しらす”の様子がおかしい事に気付いたからだ。


 俺はある夜、いつもの空き地 通称 “ネコのオアシス”で休んでいた。


 するとしらすが重い足取りで俺の所へ歩いてきた。


「あら、みりん、ご機嫌よう、良い夜ね」


「よぉ、しらす、なんだか毛並みの調子が悪そうだな?」


 このメスネコのしらすは本来気性が荒く構うものなら直様 “シャーシャー”威嚇されちまう筈だ。妙に元気が無い事に俺は気が付いた。


「そうなのよ!飼い主がやたらと病院に連れて行くの!錠剤ばかり餌に混ぜられて嫌になるわ!」


「ほう……飼い猫も楽じゃないな」


錠剤か……怪しいな……ここは情報屋の“いちご”に聞いてみるか。


 俺は空き地の隅で寝ているいちごを見つけた。

 涎を垂らし間抜けな面で寝てやがる……


「おい、いちご!起きてくれ!」


「にゃ!みりんさんどうしました!?」


「寝てる所すまないな、近頃怪しい病院の噂があってな」


「あっ一丁目の動物病院ですね!もうすでに目は付けてますよ!」


「さすが情報屋だな、知ってる事を教えてくれ」


「はい!あそこの動物病院は最近出来たばかりのようです!」


「ほう」


「もうすでに一丁目の多数のネコが体調を崩しています!」


「やはりな……」


「実は今日の昼間の営業時間に院長と看護師の会話を盗み聞きしました!なんでも架空の病状をでっち上げ大量に薬を売りまくっているようです!」


「ヤブ医者め……いちご……行くぞ!」


「はい!喜んで!」


 二匹はネコのオアシスを出て一丁目の動物病院を目指す。

 ほどなくすると真新しいでかい建物が見えてきた。


「馬鹿でかい病院だ。ネコに錠剤を売り付け建てた錠剤御殿だ」


「許せませんね!」


 動物病院は夜間も営業している様で二匹は自動ドアを通りすんなりと侵入した。


 静まり返った病院内を散策していると奥に院長室を発見した。


「ここだな・・・・・・」


 二匹は室内を覗くと札束を数えている院長がレザーのソファーに座っていた。

 にやけた面で一枚一枚大事そうに金を数えていやがる。


「いちご、あの札束を自慢の爪で引き裂いてやれ、俺は院長をやる」


「了解しました!」


 俺は勢いよく部屋に入りまずは院長の眼鏡を蹴り落とした。


「何者だ!」


 院長がふらふらと眼鏡を探している所へ足に絡みつき派手に転倒させる。 

 俺は転倒した院長に馬乗りになり詰め寄る。


「ネコ!?」


「あぁまさにネコだ、そんなに金が好きか?」


「ヤブ医者め、お前が適当に処方した薬で仲間が苦しんでいるんだ、分かるか?」


「ネコが喋っている!?」


「動物が物を言わないなんて大間違いだ、しっかり罰を受けて貰おうか。」


 俺は院長の顔を鋭い爪でズタズタに切り裂き札束を持つ両手を噛みちぎった。


「うわぁぁぁぁぁ痛い痛い痛い痛い!」


 大きな悲鳴が部屋に響き渡る。


「二度と俺達に舐めた真似はするなよ?命だけは助けてやる」


 院長は泣いてるのか笑っているのか分からない様子でぐったりしている。


 大量に破られた札束の上にいちごが満足そうにグルーミングをしている。


「いちご、帰ろう」


「良い仕事をしましたね!」


 目的を果たした二匹は動物病院を跡にした。


 後日、病院は閉鎖した。どうやら院長の気が狂ってしまったらしい。

「猫が喋る」そう言う院長の話しは誰も信じてくれない様だ。罪と罰……当然だ。

 廃病院は俺たちのアジトとして使ってやろう。


 この街は俺のテリトリー

 俺達ネコの生き方に害を与える者には容赦はしない

 何度も言う、これがこの俺のやり方だ


 evil cat blues “crazy doctor”









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