溜まり場を死守せよ。

 俺は夜の王様 

 この街は俺のテリトリー

 オマエも狙われないよう気をつける事だ。


 以前、確かに俺はそう忠告した筈だ。


 にも関わらず馬鹿な人間どもはまた俺達の生き方を邪魔しやがるみたいだな。


 俺は真夜中いつもの時間に家を抜け出す。

鈴虫の鳴き声が心地よい夏の終わりの夜、近所の塀に座り夜風を浴びていた。


“タッタッタッタッ”


 静かな夜に足跡が響く。この足跡は情報屋の“いちご”だな。


「大変です!みりんさん!大変です!大変です!大変なんです!」


 全くうるさい野郎だ。せっかくの静かな夜が台無しだ。


「どうした?いちごよ一体何が大変なんだ?」


「みりんさん!大変なんです!!」


「大変なのは分かったよ!さっさと説明しろ!」


 俺はいちごの頭にネコパンチを喰らわす。

心配無い……爪は引っ込ませてある。


「みりんさん!聞いてください!いつも僕らの溜まり場、一丁目の空き地がありますよね!?」


「あぁ、ネコのオアシスだな」


 通称“ネコのオアシス”


 俺達が夜な夜な溜まり、情報の交換、ネコ同士の親睦を深め、身体を癒す、またネコとしての指針を決める大事な場所だ。


「そうです!ネコのオアシスです!今朝いつもの様に情報収集に向かったんですが……」


 そう言うといちごは、がっくりうなだれた。


「……駐車場に変わっていました」


 いちごの瞳から涙が溢れる。


 俺はまたネコパンチを喰らわす。

大丈夫だ……もちろん爪は引っ込ませてある。


「オスネコが泣くな!」


「いちごさん……酷い!」


 ネコのオアシスが駐車場に……また車か……本当にネコからしたら害でしかない、言ってみりゃデカイ害虫だ。


 人間は自分が中心だと勘違いしてやがる。


 あんな鉄のカタマリが幅を効かせてもらっちゃ俺達は困る。


「おい、いちごよいつまでも泣いてるな」


「はい……」


「行くぞ!」


「行きましょう!」


 静寂が支配する狭い街。涼しい夜風を浴びながら俺はいちごを連れネコのオアシスを目指した。

 余程ショックなのかいちごの口数も少ない。


「着きましたね。」


「あぁ」


 改めて見るネコのオアシスの変わり様に俺は驚いた。

 雑草は綺麗に刈られ、地面はコンクリートで覆われている。


 先日の集会から時間も経たない内にこの変わり様……人間の仕事の速さには驚愕してしまう。


 車を見てみると漏れなく高級車が並んでいる。

 無駄に装飾を付け、月明かりを写しギラギラと光り輝いている。


 さぁどうしてやろう……


「おいいちご一丁目のネコを全て集めるぞ!野良猫も飼い猫も一匹残らずな!」


「了解しました」


 そう言うといちごは走り出し仲間を集めた。


 俺は夜を切り裂く程の雄叫びをあげる。


「にゃあおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 俺の雄叫びは空気を揺らし街全体を包みこんだ。


 数分もしない内に数十匹のネコ達が集まる。


 俺は集まったネコを並ばせると黒光りしている高級車の上に登った。


「みんなよく集まってくれたな!見ての通り俺達のネコのオアシスがこの有様だ……」


 集まったネコ達は思い思いに声を上げる。


「ネコのオアシスを返せ!」


「愚かな人間共め!」


「車なんて一台残らず壊してしまえ!」


 騒ぎ立てるネコ達を前に俺は再度雄叫びを上げる。


「にぃやぁおぉぉぉ!」


 ネコは一斉に鎮まり帰る。


「さぁ俺達の力を見せてやろう!」


 その言葉を合図にネコ達は動きだした。


 あるネコはタイヤを噛みちぎりパンクをさせ。


 あるネコはエンブレムを折り。


 またあるネコはボンネットを爪で引っ掻きまくる。


 それぞれのネコ達が暴れ回る。


 一斉に暴れている中、白ネコの“しらす”の姿を見つける。


 いちごが駆け寄り声を掛けた。


「しらすさん!生きていたんですね!」


「勝手に殺さないで頂戴!あんたが見つけた時も気絶してただけ!あんたの目は節穴!?」


 そう言うと“シャー”といちごを一喝する。


「何よりです!」


 いちごは仲間の生存に嬉しそうだ。


 夜明け近く迄散々暴れ回り駐車場の車は見るも無惨な姿に変わり果てた。その光景を見て俺は満足した。


「もう夜明けは近い!集まれ!」


 俺の言葉を合図ににネコが集まりだす。


 俺は元居た高級車の上に登り終わりの言葉を告げる。


「これで人間も少しは懲りただろう。最後の仕上げに俺達の場所だと印を付けておこう」


 そう言うと集まったネコ達は一斉にマーキングし始める。


 太陽が顔を出し始め、辺りを照らし始めた。


「よし!解散だ!」


 朝が来る前にネコ達はそれぞれの家に帰っていく。


「良い仕事をしましたね!みりんさん!」


 いちごもすっかり気を取り直した様だ。


「あぁ……骨が折れたな、帰るぞ」






 次の日……


“ニュースです。昨夜何者かにより一丁目の駐車場が荒らされた模様です。駐車場の利用者は次々と解約を申し立て、駐車場は閉鎖になるとの事です”





 この街は俺のテリトリー


 以前、確かに忠告した。


 俺達の居場所は俺達で守る。


 せいぜい気をつけてくれよ。


 evil cat blues “溜まり場を死守せよ”









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