30 記憶を思い出したい




 その少女の説明を受けると、ぼくはどうやら転生というのをしたらしい。

 世界間移動。地球というのは第一創造世界で、ここの世界は第四創造世界というらしい。

 なんだそりゃ。意味が全く分からん。


「……これだけ説明しても嬉しそうじゃないですねぇ〜……むぅ」


 腕を組んで唸る少女を前にして、小さく座ってるぼくは髪の毛を梳くようにして掻く。


「……あの」


「はい?」


「記憶……がないんです。すみません……。ごめんなさい」


 手放しで喜べれない理由はそれだ。

 何かが抜け落ちた感覚があった。そして、それがぼくにとってかけがえのないモノだという不確かな確信もあった。


「記憶……? あぁ! 多分、神様とあったんですね? その時の記憶や前世の記憶をもやもやっとさせてるんだと思います」


「そんなことできるんですか……?」


「神パワーです」


 かみぱわー……。


「戻すことはできませんか」


「できますよ! でも、たぶんしないほうがいいとおもいます」


 安心して胸を撫で下ろす準備が出来ていたが、思ってもみない返答がきた。


「……それはなんでですか?」


「恐らくますたーは、世界で人生で疑問を持たれ、人生を楽しめてなかったのだとおもいます。それも重度に」


 座ってる僕の目の前にいた少女は僕の隣に話しながら寄ってきて、隣に座った。


「それが適性の一つです」


「人生を楽しめてないのが適性……? そんなのことが? そんなの以前の僕の周りにはたくさんいたはず……」


 明瞭な記憶はないにしろ、人生を楽しめてないという言葉はなにか思い当たることがあった。

 だとしても、一個人の僕が抱える不満程度なら誰でも持ってるはずなのでは?


「もちろん適性はそれだけじゃありません。精神力や生命力、どんな環境でも耐えうる体。……努力して、努力しても報われなかった人」


 報われなかったのか? 以前の僕は。

 

「……だとしても思い出したいと漠然と思うことは……思い出さないといけないと感じてるからだと思うんです。えと、その記憶じゃないどこかで、そう思ってるんだと思うんです」


 横の少女にぐいっと詰め寄り、懇願する。


「お願いします、思い出したいんです」


 その圧に押された少女は少しビクッとなりながらも、僕の顔をみて、額に手を当てた。


「本当にいいんですね? 思い出して後悔しても私は責任をとれませんよ?」


 唾を飲み込み、僕の額に右手の親指をあてている目の前の少女を見て頷く。


「じゃ……チクッとしますよ、えいっ」


 額においた指を力強く押し込んだ――

 ぷつん。

 僕の視界はブラックアウトした。


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