29 転生、おめでとうございますっ!



 ………………

 …………

 ……


 感じたことの無い感覚に襲われ、意識が溶けるようになくなった。


 ぼくの体……どうなったんだ?


 浮遊感に似た感覚がありながら、緩やかな速度で落下しているような感覚もある。不思議な感覚だ。

 ずっと眠りに落ちる時のアレが続いている……と形容するのがいいかな。 

 何か喋ろうとしても口も開かない、周りを見渡そうとしても目も開けれない……今、僕はどうなってる?


「…………」


 じわじわと体に何かがしみていくような感覚がした。

 指を動かし、足の先を動かし……開けられなかった目を開くことができた。


「え」


 ぱちっと目を開けると、そこは木漏れ日が差し込む大木の根本。

 具合を確かめながら上半身を起こしてみると、心地いい風が頬を撫ぜた。

 地面についている両手には土草の感触。ざらとした手触りと手首辺りに触れては引き返す草。


「……これは」


 目の前に広がるのは草原地帯。境界線までずっと木々も生えていない。若干の凹凸はあるがほとんど真っ平らだ……。


「ここって……」


 後ろに目を向けると起きたときに見た大木の全貌が見えた。


「でっか……」


 樹齢何年なんだ? すごいな……。

 両手を広げてもまったくその太さには至らないだろう。見たことがないほどの大きさだ、公園に生えている木とは比べ物にならない。


(僕の身長より横幅の方が大きい……ってどれだけ……)


 巨木の葉に光があたり、木漏れ日となり地面に降り注いでいたのだ。


「ここは………? ぼくは……というか……ぼくって、誰だっけ」


 自分のことが思い出せない。なんでこんな場所にいるのか。

 ずっと長い夢を見ていたような気持ちだ。その夢の詳細も思い出すことができない──……。


 ぼふ、と仰向けに倒れ込んで、手をかざした。


 風が吹き、木漏れ日がチカチカと様子を変化させ目を刺激してくる。


「……でも、心地いい…………」


 瞼を閉じ、視界を閉ざしても日が当たると真っ暗な視界から真っ赤に変わった。

 目を瞑ったまま体で風を感じ、陽の光の明暗をまぶたの裏で感じていた。

 こんなに外でゆっくりするのはすごく久しぶりな気がする。

 記憶がないにしても、なんとなく心のどこかでこの場所を懐かしく感じていた。



 状況の理解を置いて楽しんでいると数秒暗い時間が続いた。


「……?」


 雲でもかかったか?

 ふと閉じていた目を開けた。


「お目覚めですか! ますたぁ!!!」


「うわっ!?!」


「え!?? なんっ――」


 ゴンッ。

 驚いて仰け反ってしまったら、互いの額がぶつかり鈍い音を響かせる。


 目を開いた先には少女がいた。覗き込んでいたのだ。


「「ううううっ……!!」」


 僕は反射的に額を手で抑えたが、その痛さから涙がでてきそうになるのを我慢して、ぶつかってきた少女の方に額をさすりながら目を向ける。


 少女の容姿は幼く、髪はそこまで長くないけどいくつか髪が垂れていて、髪色は少し紫が入っているような黒で艶々としている。

 足や手が出てる白いワンピースのような服を着ているが……女性の服の名前とか分からない。

 ブーツのような靴を履いている足をバタバタさせ、ぶつかった痛みで悶えてる少女だ。


「君は……」


 こちらの声に気づいたのか、両手でぶつかった部分を抑えながらこちらをゆっくりと顔を動かした。


「いてて……ますたーいきなり……お元気なんですね。痛かった……。いや、でも! 先に――」


 少女は額に当てていた両手を開き、満面の笑みを向けた。


「転生おめでとうございます!」


 目の前の少女は出会って数秒で、パンパカパーンって擬音語が入りそうな笑顔で祝ってくれた。

 ぶつかったオデコがまだ痛そうに赤くなっているままだけど。

 それに対し、いまいち状況が飲み込めずパッとしない顔をしていると、少女は首をかしげて不思議そうな表情になった。


「あれっ、嬉しくないんですか?」


「いや、その……状況が飲み込めてなくて……」


 髪の毛をくしゃっと掴み、少女に顔を上げた。

 

「転生……ってなんですか」




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