第39話 休み時間

「……とりあえず、一段落かな」


 教室の椅子に深く座りながら呟く。

 グリムの催眠魔法で、『グリムは編入生でアオイさんと一緒にうちのクラスに編入していた』、『グラウンドの大穴を開けたのは先生』、『私たちが授業から姿を消したのは保健室に行っていた』、という方向で誤魔化した。


(後はヴラムが何とかしてくれるかな。今ヴラムは独自行動中らしいけど、それぐらいはやってくれるでしょ)


 それにしても、グリムは本当に凄い。

 スコールの話だと、催眠魔法はヴラムより強力かつ広範囲らしい。

 戦闘面についても、ヤサクニが自動で私を守ってくれなかったら、最後の魔法で倒されていただろう。


「……じー」


「うんうん、グリムは本当に頑張ってくれたよ」


「……むふー♪」


 褒めて褒めてとばかりに、こっちを見ていたグリムの頭を撫でる。

 まあ私からしたら、優秀さとかどうでもよくて、こうやって私を慕ってくれる事が一番嬉しいのだが。


「……随分と仲良しになったわね」


「あ、アオイさん! 調査の方はどうでした?」


「捗ったわよ。『誰かさん』が錯乱したおかげでね?」


「……返す言葉もございません」


 ヤサクニ姿を、外で、一応知っている人たちに見られるのは本当に恥ずかしいんですから! と言いたいところだが、さすがにグラウンドに大穴はやりすぎだと自覚している。

 というか、ヤサクニ着用後のフルパワーアポカリプスがあれ程の破壊力とは……これは本当に注意しなきゃいけない。


「実技試験会場についてだけど……結論から言うわね。時空の歪みを解除して、魔王の武具を手に入れるのは無理。一応、調査は続けるけど期待は薄い。以上よ」


「そうですか。ということは……」


「ええ。ロナードの言う通り、魔法実技試験に『現れる』んでしょう。癪だけど、向こうの思惑通りに動くしかないわ」


 ゲームのレムリアは、魔王の武具をいつのまにか持っていたので考えた事なかったが、おそらく同じように苦労して手に入れていたんだろうなぁ。

 まあ、ゲームだとロナードがテスタメントから離れないから、普通に回収できるだろうけど。


「魔法実技試験は今月末でしたっけ。となると、今できる事は……」


「幽鎧帝を探す、三つ目の魔王の武具を探す、これぐらいかしらね。まあ、どちらも今は手掛かりを探している段階だから、貴女が動く必要は無いわ」


 という事は、暫くは学校生活を楽しめる感じか。

 まあ、そういう事ならゆっくりさせてもらおう。


「……ところで、その子の頭をいつまで撫でているのかしら?」


「あ、つい無意識で。ごめんねグリム」


「……別に、ずっとしてくれていても構わない。むしろして」


 そう言いながら、寝そべるようにして私の膝に頭を乗っけてくる。

 うーん、本当に可愛い。


「グリム? 貴女の名前はたしか……」


「……グリムは、魔道具工房のマイスター名。一族から離れているから、今はこっちが本名」


「ああ、そういう事なのね。ところで、もう一度言うけど、貴女はなんで頭を撫でているの?」


「あ、つい無意識で。ごめんねグリム」


「……別に、ずっとしてくれていても構わない。むしろして」


「……同じやり取りをしないで」


 私もやめようかと思っているのだが、自然としてしまう。

 これもグリムが可愛すぎるからだろう。


「……アオイ。隣空いてる」


「あ、アオイさんもしましょうか?」


「…………結構よ」


 以前、膝枕をしてもらったし、お返しという事でしてあげたかったけど、やっぱり無理か。

 まあグリムは気に入ってくれているみたいだけど、トールくんは私の膝枕はあんまり気持ち良くないって言ってたから、断られて良かったかも。


「アオイ様!」


 そこに、クラスメイトの子たちが話しかけてくる。


「……何かしら?」


「ひぃ!?」


「ありゃ、ご機嫌ナナメ~? アオイっちが探してた、校内で不思議な現象を見たって子見つけてきたけど、後にする~?」


「いいえ、行くわ。グリムも来なさい。貴女の魔法が役に立つわ」


「……え~?」


「アオイ様になんて態度! しかも、レムリア様にそんな……ご迷惑になりますわ!」


「やめておきなさい。その子は、私より『容赦』がないわよ」


「え……アオイさんより……?」


 いっきに恐怖の顔になる、名も知らないクラスメイトさん。

 たぶんだけど、アオイさんに何かされたのだろう。

 だって、たぶんあれ、マジギレモードのアオイさんを前にした私と同じ顔だもの。


「……八つ裂きにしてやろうか。下賤な人間が」


「し、失礼しました!」


 そして、グリムからも威圧されてのダブルパンチ。

 アオイさんの調査に協力してるって事は、たぶんアオイさんと友達になったって事だよね?

 羨ま……じゃなくて、とりあえず、このどSコンビにフォローを入れておいた方がいいかな。


「あ、私が好きでやっているだけで、迷惑なんてないから。こんな事でよければ、いつでもするし」


「「「えっ!?」」」


 あ、やば。

 レムリア口調……は、もういいか。

 エミルと話すときはこれだから、こっちが素ってバレてるだろうし。


「あ、あの……そ、それって言えば私も……」


「じゃあ、お言葉に甘えて~……うーん、これは最高だ~♪」


「ちょっ、フェリル! 貴女、レムリア様になんて事を!」


「え~いいじゃん。遠慮いらないらしいし、ここはノリってやつだよ」


「え~と、じゃあ私も……よしよし」


「お~、至れり尽くせりだ~」


 なんとなくこっちも、グリムと同じぐらい小柄な子……耳が魔族の人よりも長く、尖ってるからエルフさんかな? の頭を、グリムと同じように撫でてみたが、喜んでもらえたようでなにより。


「アオイっちの目も怖いからこのへんでっと……改めて自己紹介しとくね~。あたしはエルフの、フェリル・バレスティーナだよ~。で、そっちは……」


「ヴァルモン家のエレオノーラでございます! 本日もレムリア様は大変お美しく、そして聡明でおられますね!」


「いや、そんな無理に煽てなくてもいいよ? というか、その点で言うならエレオノーラさんも奇麗で聡明だと思うし」


「え……わ、わたくしが……? レムリア様からそのようなお言葉を頂けるなんて……末代まで語り継がせていただきますわ!」


「そ、それは末代の子たちが可哀そうだから、やめてもらって……」


「えっと、その……私は……」


「そっちの恥ずかしがっているのが、アンナベル・ウィロウ。仲良くしてあげてよ~」


「仲良く……!? それはむしろ、こっちからもお願い!」


 まさかの友達候補!


 そんなのこっちからお願いしたいぐらいと、アンナベルの腕を握る。


「あ、あの、その……きゅぅぅ……」


「えっ!?」


「ア、アンナベルさん!?」


 なんか顔真っ赤で倒れたんだけど!


「あ~、色々な意味で限界超えたか~」


 なんというか、色々と濃い子たちが話しかけてくれたものだ。

 というか、この三人の声、どっかで聞いたような……


「……貴女たち、いつまでやってるのよ。休み時間が終わる前に行くわよ」


「は~い、それじゃあまた後でね~、レムリアっち~」


「あ、いってらっしゃい……って、アオイさん!」


 また暫くぼっちかぁと思ったが、今思ったら、それってまずい!


「何よ?」


「いやその、私の周りに誰もいなくなるというか……」


 護衛が一人もいなくなるのは、ちょっと怖いんですがと暗に伝える。


「大丈夫よ。そろそろ、『世界最強の子』が来るでしょうから」


「え、それって……」


「レムリア・ルーゼンシュタインはいるか?」


 そこに現れたのは、『聖闘士』ことトールくん。


「レムリア。学校では久しぶりです」


「うん、会えて嬉しいよ。エミル」


 そして、『勇者』エミル。

 なるほど。たしかにエミルがそばに居てくれれば安心だ。

 ……まあ、魔王が勇者に守ってもらうというのはどうかと思うが。


(それにしても……)


 なんとなく、トールくんの方を見てみる。


「……なんだよ?」


「あ、いや、別に……」


 エミルとトールくん……この二人はいわゆる勇者パーティーなので、珍しいというわけではないのだが、最近までバチバチにやりあっていた仲なので、ちょっと意外だ。


 というより、トールくんが落ち着いているというか、なんか大人びているように感じる。

 正直なところ、何かあったのか気になるのだが……


「何もねえならいい。それより、生徒会として聞きたい事があるから、生徒会室まで来い」


「え……」


 要約すると、『勇者パーティーが全員揃っている生徒会室に、魔王一人で来い』という、とんでもない誘いのせいで、そんな事を気にする余裕はなくなり、ただただ私は固まるだけだった。

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