第38話 男の子とハンバーグ

「……塩唐揚げ定食二つ」


「はーい。今揚がるからちょっと待ってて―」


 唐揚げを揚げつつ、付け合わせのポテトサラダや、ミネストローネを用意する。

 うん。我ながら結構良い出来なのではないだろうか。


「……ここに居るって聞いたから来てみれば、どういう状況だよ、これは」


 そこに、おそらく学校の教師と思われる人が現れる。


「あ、いらっしゃい。ハンバーグと塩唐揚げどっちに……ん? えっと、どこかで……」


「俺だよ。調査とお前の護衛の為に潜入中」


「あ、スコールか」


 オールバックを崩し、眼鏡を取ると見慣れたスコールの顔になる。

 変装までできるとか、本当に多才だなぁ。


「……で、お前はなんでこんなところで飯作ってるんだ?」


「ん~と……どうしてかな?」


「……どうしてかな?」


 私の真似をするように、同じように首をかしげるグリム。


「なんだこの、うちのフェンリスみてえなガキは」


「あ、スコールもそう思う? 私も喋り方似てるなって思ってた」


「……被っているとは。倒さなければならない相手ができた」


「いや、普通に友達でいいと思うよ?」


 眼を鋭くするグリムの口に、残っていた唐揚げを放り込む。


「……はむはむ♪」


 すぐに幸せそうな顔になるグリム……うーん、本当に可愛い。


「で、もう一度聞くが、なんでこんなところで飯作ってるんだ?」


「お客さんも大分はけたし向こうでご飯食べながら話そうか。それで、スコールはハンバーグと唐揚げどっちがいい?」


「……結局そこに戻るのかよ。どっちの料理も知らねえが……なんとなく気になるからハンバーグで頼む」


 お、やはりハンバーグを選んだか。

 勝手なイメージだけど、男の子といえばやっぱりハンバーグ! うーん、スコールもやっぱり男の子だなぁ♪


「……なんかその目がムカつく。唐揚げとかいうのにしろ」


「遠慮しなくていいよー? ハンバーグ定食一丁ね♪」


「……はあ。もう好きにしろ」


 その言葉にほっこりしながら、捏ねておいたハンバーグを焼き始める。


 /////////////////////////////////


「……つまり、このガキに飯作ってやったら想像以上に食べたので、食材大量消費したまま逃げるのは申し訳ないって事で、ここで働いていると」


「うん。グリムの催眠がちょっと効き過ぎたみたいで、シェフが倒れちゃってね。あと、試食してもらったら好評だったから、今の私はシェフ代理……ていう催眠を、ここの人たちにかけてもらったの」


「その催眠が、俺には効いてないみたいだが?」


「……強い相手には小手先の催眠は効かない。さすがは新しい魔狼帝」


「……こっちの事情を知っていて、催眠魔法の遣い手って事は、お前がアオイの言ってたヴラムの一族のやつか」


「グリムは凄いんだよ? この学食に認識阻害と催眠効果が出る結界を張ってもらってるんだけど、その気になれば、学校全体を暗示にかけられるんだって」


「……時間をかければ魔狼帝だろうと、尻尾振った犬にできる」


「しなくていい。それと、俺を魔狼帝と呼ぶな。魔王組にはそんな役職ねえんだよ」


 そう言いながら、ハンバーグを食べるスコール。

 感想が欲しいところだが、まあ、流れで食べてもらってる感もあるし、ここは我慢だ。


「そっちの状況は分かった。次はこっちの番だな。現状を共有するぜ」


 フォークを置き、少し真面目な顔になるスコール。


「結論から言うと、実技試験会場で、ヤサクニと同じ、時空の歪み? ってのが確認された。魔王の武具は確実にあそこにある。だが、見つからない」


「えっと……実技試験会場って、さっき私が居たグラウンドだよね? 特に建物も無いし、何かを隠すとか無理だと思うんだけど……あ、もしかして地下に埋まってると?」


「その可能性は、さっきアオイが否定してたぜ。誰かさんが地面に大穴開けたおかげで、時空の歪み付近の地下を調査できたらしい」


「……ふっ」


「自分のおかげみたいに勝ち誇った顔してるところ申し訳ないが、アオイはかなり怒ってるっぽいから説教は覚悟しておけ」


「…………」


「……急に人生が終わったみたいな顔するな。お前、絶対ポーカーとか向いてないな」


 ポテトサラダを食べ終え、ミネストローネを飲みつつ話すスコール。


「そういえば、もう一つ聞きたかった。お前らが戦った場所だが、アポカリプスの大穴以外にも、地面が抉られた後があった。あれは、どっちの仕業だ?」


「ああ、たぶんグリムかな」


「……えっへん」


 グリムが最後に放った、魔法を使い切ったと見せかけての一撃。


 ヤサクニが自動で防いでくれたし、私は突撃に全神経を集中させていたからよく見えなかったが、上から巨大な斬撃のようなもので攻撃されたのは覚えている。


 今考えると、ヤサクニが無かったらあの攻撃をモロにくらっていたわけで、本当に危なかった……というより、生きてて良かった。


「敵の攻撃じゃねえなら問題ねえか。それにしても、吸血鬼の固有魔法だけじゃなくて、あの威力の攻撃魔法まで使えるのか。校長だからって理由で動けねえヴラムのオヤジより、よっぽど役に立つな」


 ハンバーグを全部食べ終え、立ち上がるスコール。


「俺はそろそろ行くぜ。お前はそっちのガキと一緒に、違和感が出ない程度に催眠魔法で情報操作しとけ。この食堂を見る限り、ヴラムのオヤジよりよっぽど強力な催眠魔法を使えるみてえだから、色々と誤魔化せるだろう」


「あ、うん……適当に誤魔化しとくね」


 そのまま立ち去ろうとするスコール。


 だが、何故か急に立ち止まる。


「ん? どうかしたの?」


「あ~……その、なんだ」


 頭を搔きながら、ばつが悪そうにしつつ……


「……美味かった。今度また食わしてくれ」


 嬉しい言葉をかけてくれる。


「……うん! 子供たちの分も作りに行くね」


 そして、私の言葉に手で軽く応えながら、そのまま去っていく。


「……」


「ん? どうかしたの、グリム」


「……魔狼帝が、魔王に懐いているのに驚いた」


「懐くって……まあ、少しずつ私に心開いてくれてるみたいだし、悪い気はしないかな」


 そして私も自分の唐揚げを食べ、立ち上がる。


「……さて! 私たちも行こっか! まずは情報操作だね。あの大穴はもうどうしようもないとして、クラスの人に私がちゃんと授業を受けていたって事ぐらいはやっておいた方がいいよね」


 そう言いながら、グリムと一緒にグラウンドへと戻るのであった。

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