第40話 痴女というのは、大変遺憾である

「レムリア様! ようこそ生徒会にぶふぅ!」


「ロナード。あなたの個人的事情に口出ししませんが、今は生徒会長として振る舞ってください」


 エミルとトールくんに連れられ、生徒会室に来た私。

 生徒会室に入ると同時に、生徒会モードのユーリさんだけでなく、障壁魔法に思いっきりぶつかるロナードという、濃いシーンに出迎えられる。


「……いや失礼。生徒会室にようこそ、レムリア様」


 なんというか、私の事を襲っておいて、よくもまあそんな態度とれるなと言いたいところだが、今は考えないようにする。


「さて。この後、いかに僕がレムリア様に愛されたいか、蹴られたいか、投げられたいか、踏まれたいか、いやもういっそ奴隷にしてもらいたいかを半日ほど語りたいところなのですが、今日は聞きたい事がありまして、お呼びさせていただきました」


 ……危なかった。

 もう少し最初の気持ち悪い話が続いていたら、うっかり魔王モードになって本気の背負い投げをかますところだった。


「他の生徒会メンバーも聞いてください。ではオリビア。お願いします」


「は、はい……」


 控えめな感じで、座っていた子が話し始める。


(この声……ゲームにもいた書記の子だ。たしか、オリビエ・スーソンさん)


 ゲームだといわゆるモブキャラで、顔グラフィックもいわゆる汎用だったはずなのだが、ここはヤミヒカに似た現実の世界。


 汎用顔なんて存在しないから、今の状況は当たり前なのだが……


「え……」


(小柄で黒い髪、目もくりくりしていて、顔もすっごくカワイイ……これはもう、プレイアブルキャラの魅了に匹敵するのでは?)


「あ……あの……」


 そんな事を考えながら、じーっとオリビエさんを見ていたら、顔を背けられる。

 うう……やっぱり、ちょっと気持ち悪かったよね。

 最近、距離を詰めても許してくれる子が多かったから、ちょっと油断していた。


「……」


「あ、エミル、どうかしたの?」


「……ちょっと、レムリアの袖をつかみたくなっただけです」


 私の袖をつかむエミルだが、不機嫌な顔でそっぽ向いている。

 うう……これって、エミルからの注意みたいなものだよね?


 たぶん、ゲーム通りに生徒会入りしたエミルからすれば、仲間を変な目でられたわけだし……うう、自分の立場をわきまえるために、呪文を唱えよう。


 私は陰キャ……友達になってくれたのはエミルだけ……友達になってと言った人達には、ことごとく断られ……あれ、おかしいな。ちょっと死にたくなってきた。


「え、えっと……レムリア様。今回の大穴事件で、現場の一番近くにいたと思うのですが、グリムさんと先生以外に、もう一人誰かいませんでしたか……?」


「もう一人……?」


 今回の事件は、私とグリムが戦って、最後に魔王モードの私がグラウンドに大穴を開けてしまったというものだ。


 この戦いに乱入者はいなかったから、もう一人誰かがいるなんて事はありえない。


「そんな人は、いなかったと思うのだけど……」


「……その、ちょっと変わった恰好をしていた女性の目撃例があるんです」


「変わった恰好の女性? いや、そんな……人……は……」


 ……まずい。


 ……非常にまずい。


 何がまずいって、その『変わった恰好の女性』に、悲しいかな心当たりがあるからだ。


 おそらく、私とグリムの戦闘をずっと見ていた子がいるのだろう。

 戦闘を見られたのは別にいい。


 アポカリプスは一応普段使いでも魔王関係とバレないようにヴラムが根回し済みだし、グリムの魔法も、吸血鬼の固有魔法らしいから、珍しいぐらいで済むだろう。


 問題なのは、あの時の私だ。


「あ、変わった恰好じゃ分かりませんよね。その、ちょっと激しい恰好というか……言い方はあれなのですが、その、ち、痴女みたいな人がいませんでしたか?」


 ですよね! 思いっきり見られてますよね、魔王モードの私!


 でも痴女はやめてください、オリビエさん! 同性に言われるのは、普通に傷つきます!


「い、いや! 痴女なんかじゃないんです! ていうか、なんであんな恰好なのか本当に分からないですから!」


「その反応……やはり近くに女性がいたんですね?」


「あ、いやその……」


「痴女で強力な魔法……ああ、マオちゃんが侵入してきたんですね。だとしたら、大穴もマオちゃんの仕業ですね」


「え……」


 なんか、勝手に話が進んでいる上に、思いっきりバレてるんですけど!

 ていうか、強力な魔法を使う痴女=魔王モードの私(マオ)っていう答えになってるんですけど!


「えっと……マオさんというのは?」


「刺激的な恰好をした、すっごく可愛い子です♪」


 いや、全然説明になってないですよ、ユーリさん!


「とりあえず、基本的には無害だけど悪いヤツで、見つけたら捕まえておいた方がいいぐらいに思っとけばいいぜ」


「は、はあ……」


 いやトールくんも全然説明になってないから!

 オリビエさん困ってるから!


「となると、グリムってヤツはマオと繋がってるかもな。アイツなら、吸血鬼が配下にいてもおかしくないし、大穴の隠蔽はしたのに、自分の情報を操作する事を忘れるっていう大ポカもやりかねない……いや、絶対やる」


 私を理解してくれいるようで、嬉しいな~トールくん。

 ……次、一緒に鍛練する機会があったら、容赦なく投げるから覚悟しておくように。


「……すぐにでもグリムさんを問い詰めたいところですが、今は泳がせましょう。グリムさんが生徒会に呼び出されたと知ったら、そのマオさんとやらは確実に姿を消すでしょうし」


 ニヤニヤしながら、こっちを見てくるロナード。

 もう絶対気付いてるよねこの人!

 こういうときだけ、ゲーム通りの天然どSになるのは反則だ!


「私たちの目的は、大穴を開けた犯人の可能性が高い、マオさんの確保です。先生にも報告しますが、生徒会でも調査をしますので、みなさん、協力をお願いします。では、解散としましょう」


 ロナードの言葉に、それぞれが行動を始める。

 トールくんは普通に出ていき、ユーリさんは、なんか含みのある笑顔でこっちに手を振りながら。

 エミルは引き続き私の隣に。

 ロナードは当然の如く、終わった瞬間に私に跪いてきたので、とりあえずアポカリプス顔面踏んでおく。


「……あの、レムリア様」


 そんな事をしていたら、オリビエさんが話しかけてきてくれる。

 うーん、本当に美少女だなぁ。


「その、マオさん? という方に、何かされたりしていませんか?」


「ええ。特に問題は……大丈夫だったよ」


 一瞬、レムリア口調にしようとしたけど、もう面倒だからいいや。

 それに生徒会って事は、会う確率が高いから、すぐにバレそうだし。


「心配してくれてありがとう。この通り、なんとも……」


「……失礼します!」


 そう言いながら、地面のロナードを蹴飛ばし、しゃがんで私の足を見てくる。

 そのまま、スカートを軽く捲り……え、スカートを捲る?


「な、なんでスカートを捲るの!?」


 ギリギリ下着が見える高さではなかったが、さすがに人前は恥ずかしい!


「あ、ごめんなさい! でも、見えないところで怪我をされているかと思って……」


「……見えないところを見るためとはいえ、人の服を脱がすのは失礼じゃないですか?」


 いや、ついこの間、同じ理由で誰かさんに脱がされたと思うんだけど。


「私は友達だからいいんです」


 私の目線から何が言いたいかに気付いたのか、エミルが答える。

 なんだか、アオイさんに似てきたね、エミル。


「でも、尊敬するレムリア様が無事で良かったです」


「尊敬って……私、なんか変に目立ってるかもしれないけど、変わった魔法を使えるだけだよ?」


「そんな事ありません!」


「え……え……」


「私、レムリア様の事は、魔法が使えない頃から知っています! レムリア様が騎士団長様を剣で負かした時なんて、感動して泣いちゃいました!」


「あ、うん。ありがとう」


 まあ、それやったのアオイさんだけど。


「私、魔力が弱すぎて使える魔法がないんです。だから、一般の人と大差なくて、成績は常に最下位。ここに居ても意味がないと思って、魔法魔法学校もやめようって思っていたんです……でも!」


 目をくわっと見開き、私の手を握りながら話だすオリビエさん。


「そんな時に、レムリア様が騎士団長を負かす試合を見て、人が輝くの魔力なんて関係ない! 私もあんな風に輝きたい! そして、レムリア様に少しでも近づきたいって思ったんです! それでとにかく勉強して、魔力じゃない面で認められ、生徒会にも入れました!」


 ……それは分かる。

 私も、アオイさん……いえ、『レムリア・ルーゼンシュタイン』に憧れて、少しでも近づきたいって今も思ってるから。


「私にとってレムリア様は特別なんです! だから、怪我をされていないか心配で……!」


「……レムリアは大丈夫ですから、その手を離してはどうですか?」


「あ、ごめんなさい!」


 そう言いながら、たぶん無意識だったんだろう、握っていた私の手を離すオリビエさん。


「では、私はこれで。あ、エミルさんはお渡しする資料があるので、こちらに来てください」


「……」


 露骨に嫌そうにするエミル。

 やっぱり、こういう生徒会業務みたいなのは苦手なのかな?


「エミル。生徒会の仕事は大変かもしれないけど、頑張ってね。私、応援してるから」


 そう言いながら、両手でガッツポーズをする感じで、エールを送る。


「……レムリア。そういうの反則です」


「え、何が?」


「……自分で考えてください。では、また休み時間に会いに行きます」


 そう言いながら去っていくエミルたち。


 さて、私も教室に戻るかな。

 あ、でもアオイさんはひとりになるなって言ってたし、エミルを待った方が……まあ、いいか。

 それに、一番危険なロナードは先生に報告に行ったみたいだし。


(まあ、明らかに魔王の力を使わないエミル以外の、勇者パーティーの誰かと二人っきりになるのは危険かもだけど)


 そんな事を思いながら、廊下へと歩き出す。


 ――そして私は思い知る。


「おせーよ。教室まで送ってやるから、さっさと行くぞ」


 廊下で待っていた聖闘士トールを見て、フラグって本当にあるんだな、と。


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ちょっと、私事でとんでもない事があり、更新止まっておりました。

早く落ち着きたいなぁ( ノД`)

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